姉の勉強会に潜む新キャラは おわり
一体どれだけの時間が経ったのだろう。
意識がとある時間帯からぶっ飛んで、姉が僕のことを呼ぶ声で覚醒した。
下の階からだ、何かあったのかな。僕は何故か目じりに溜まる涙粒を指で払い、階段を降りる。
体は朝起きた時から変わらず重い。昨日の温水プールが祟ったのか、まだ体力のなってない僕は疲れやすかったかだ。
頭が鈍く痛み、何か大切なことを忘れてしまった気がする。
これは遊園地の時と同じく世界が、僕の記憶に干渉したのだろうか。
僕は何か特別なイベントを邪魔しようとその身を投げた。そして記憶を消されてベッドの中に放り込まれる。
在り得ない話ではない、事実遊園地の時は主人公たちの前に出ることさえ叶わなかったのだから。
しかしそれは如何やら僕の勘違いだったみたいで、とある知り合いの顔を間近に見ることで要約思い出したのです。
「いや~怖がらせてごめんね合ちゃん。つい癖で可愛い子見ると睨んじゃうんだ、怖かったでしょ?」
細い目を更に小さく細めて僕の肩を抱くのはゲームで親友キャラであった女筒葵さん。
僕は彼女の余りの変貌ぶりに怖くて布団の中で震えてしまい、そのまま寝てしまったのでした。
眠ってしまったのは昨日の疲れもまだ取れていませんでしたし、まあ仕方のないことかもしれません。
頭が重いのは先程まで寝ていたからでしょう。兎に角今は何とか気丈に振る舞いませんとこの方に舐められてしまいますね。
「だっ大丈夫です。怖く、ないです。」
「ふふーんそう?だったら良かった。是非私とも仲良くしてね合ちゃん。」
彼女に頭を撫でられました、しかしそれは何処か気色悪くねっとりとして嫌な感じ。
他の二人や姉、グレートスさんみたいな此方を労るものではなく、こう愛でる気持ちが足りてなくて別の感情を僕に垂れ流しているような感覚。
余りにも気持ち悪くて僕は彼女から手早く離れます。
それ程拘束していないことも幸いして、すんなりと抜け出す僕ですが、彼女は又嫌な笑顔を口元に咲かしたのです。
「あれ?私じゃダメだったのかな。可笑しい可笑しいな、普通に撫でたつもりだったのに」
何が可笑しいのでしょう、彼女は笑います。
肉食獣が獲物を前にして笑うそれによく似ていて、僕の背中に冷たい汗が一筋流れました。
悪寒がして僕は肩を揺らす。その光景すら彼女は愉しんでいるように見えます。
怖くてたまりません。
一体僕が何をしたのでしょう。この無意味に気味悪い現象は、何処から発生しているのか。僕には何も要領を得ません。
するとそこに僕を呼び寄せた張本人である姉が、辿り着きました。
「…あまり合を苛めるなよ。私の大事な妹だ、怖がらせて楽しむようならお引き取り願うぞ。」
僕が震えているのを察して、姉は親友キャラに突っかかります。
首元を締め上げることまでは流石にしませんでしたが、強い口調と鋭い眼光で相手を問答無用に委縮させる様は見事です。
親友キャラは罰が悪そうに、一言僕に謝罪をしました。
「ごめんね、ちょっと弄り易かったからつい、ね。今後は二度としないよ怖がらせてごめんね合ちゃん。」
今度はしっかりを反省の色を見せます女筒葵さん。
僕も少し怖がり過ぎたところがあったかもしれません。先ほどまでの嫌な雰囲気は霧散し、ゲームでよく知る優しげな笑みを浮かべている。
こんなにも綺麗で優しい人だというのに、悪い人であるはずもなく。
一応許しておいてあげます、ですが怖い顔は二度と僕に向けないでくださいね。
では早く、廊下で立ち話もなんですからリビングへと向かいましょう二人共。
「おうそうだな。要約勉強も一段落したし、トランプでもしようか。」
「そうですねぇああ知ってますか、最近人狼ゲームってのが流行っているんですけど…」
二人が会話されるのを静かについて行きますと、何やらまた悪寒のする視線が僕に降り注いだ、そんな気がしました。
◇
「あー負けちゃった、まさか合ちゃんが狼だったとは思わなかったよ。」
「あぁ全くだ。こんな可愛い女神ちゃんが狼なんて誰がどう考えても、思い至らない。」
「…少しは、疑うことを覚えましょう。柳さん、梅さん」
人狼ゲームで一通り盛り上がった一同は、すっかり夕暮れとなった日の光を浴び、トランプを片付けながら帰り支度を始める。
この人狼ゲームとは非常に激しい心理戦となりまして、時間を忘れて白熱してしました。
最も僕を入れての5人のゲームだったので、消化不良は否めませんが。
今度もっと大人数でやりたいものです。グレートスさんとしずく、ひかりも呼んでやりたいものですね。
帰り支度はそうかからない。筆記用具類は遊戯に入る前に片付けていたし、小物を整理するぐらいでしょうか。
名残惜しくも仲良くなった柳さんと梅さんを玄関までお見送りしますと、彼女らはまた来るからと念を押して僕の手を中々放してはくれませんでした。
ですが姉の一声で何とか此方に何回も手を振りながら、自分の家へと帰っていきます。
最後に女筒葵さんです、彼女はあれ以降僕との関わりを極端に抑えていたように見えました。
靴に足を通し、家を完全に出てしまう間際僕の耳にそっと『私は貴方を知っている』と意味深な言葉を残して彼女は去っていきます。
なんだったのでしょうか、あの人は。今度個人的に会う必要がありそうですね。
僕の知らない何かを知っているということは、つまり僕の命を繋ぎ止めるヒントにもなりえるかもしれない。
淡い期待を抱きつつ沈んでいた心も何とか持ち直した僕は、夕飯の支度を始めた姉の元へと軽くなった足を進める。
明日を思い、未来を見据え、命を賭す。
僕には何ができるのか、世界が阻む大きな壁の小さな穴を突くべく、思考は常に止めぬよう心がけておきましょう。




