姉の勉強会に潜む新キャラは はじめ
時は流れて今日はゴールデンウィークも最終日、僕は一人机に向かって項垂れていた。
初日に遊園地へと赴き、その日はホテルで宿泊して騒いだ。
今までに溜まった鬱憤を晴らすかのように、枕投げをしたり温泉で過剰なスキンシップを取ったりしたのだった。
それから約3日後の今日、小学校の宿題は当に終わり、明日からまた学校という憂鬱な時を過ごす。
今日は何の予定もなく、しずくもひかりもグレートスさんも用事があると言って、僕は仕方なく机に向かっている。
しかし一人でいると未来のことを考えずにはいられない。
僕は数か月後必ず死ぬ。そう考えると何も手につかず、ただ無為な時間を過ごしてしまうのだ。
3人は今頃何をしているだろう。明日には会えるんだけど、少し寂しいな。
僕はため息を一つつき、喉の渇きを覚えて下の階に麦茶を取りに行く。
その足取りは重く、いつもの倍は時間がかかったが、何とかリビングに辿り着いた。
すると今日は珍しくお客さんがいるみたいで、姉の他に3人ほどの高校生がテーブルと向き合う。
一人は紫に近い黒髪、一人は濃緑の髪、一人は赤髪の少女達。その中の一人に僕のよく知る人が存在していた。
(なっなんで彼女がここに?姉の知り合いが来たにしては、話が出来過ぎている。)
僕は思わずキッチンの物影に隠れて、様子を伺う。
顔を少しだけ出し、見つめる先には赤毛の少女。狐目で細い眉の彼女の瞳は開いているのか分からない。
彼女の名前は女筒葵。本来こんなところにいては可笑しい、この乙女ゲーで言うところの親友キャラである。
彼女は楽しそうに我が姉と談笑していた。
ゲームでも見せたその話術で、周りの人を自らのペースに巻き込む。
元来言葉数が少ない姉もテーブルに参考書や教科書を開いてはいたが、話に夢中となりその手は止まり気味となっている。
この集まり自体は特別なものではない。時折姉は人を招いて勉強会を開いているので、僕は見慣れていた。
それでも今日は大型連休の最終日で、毎年この時期は一人部屋に籠っていることが多かったので、珍しく感じたのだ。
確か中間テストが来週に控えているとかで自分だけで集中してやりたいのだと。
それにしても僕の姉は主人公の通う高校とは違う名門女子高。面識はないはずなのだが、どこで知りえたのかとんと不思議である。
「…ははっ葵さんは冗談が上手い。ん?飲み物を切らしてしまったな、今取って来ようか」
姉が立ち上がり、こちらに向かってきているのが分かった。
それを女筒さん以外の二人が、紬様が行くのなら私たちも行くなどと言いつつ席を立つ。
今は死角となり小さな僕の姿は見えないのだが、僕の後ろにある冷蔵庫に用があるとするなら直ぐに見つかってしまうことだろう。
どうしようどこに隠れようか、辺りを見渡せど隠れる場所はない。
流し台の下のスペースには包丁やフライパンなどの料理器具が所狭しと並べられているし、床下の貯蔵庫にはそもそも鍵がついている。
走ってこの場を抜けるには余りにも距離が近すぎて、すぐに呼び止められるだろう。
ここは覚悟を持って出て行った方が、幾分かマシか。
僕はキッチンの影から顔を出し、遠慮がちに分かり切った質問を投げかけた。
「…おっお姉ちゃん。そっちの人たちはおっお客様?」
いきなり物陰から出てきたものだから、姉他二人も少し驚いた表情を浮かべたが直ぐに気を取り直し笑顔を向ける。
「おうそうだぞ合。ちゃんと他のお姉ちゃん達に挨拶しような」
僕の目線に合わせて姉は笑いかけます。
なまじ美人であるので、僕は凄く照れてしまうのです。
例え姉であろうとも、無邪気すぎませんかね。笑顔がとても眩しい。
「こっこんにちは、傍織合です。姉がいつもお世話になっています。」
腰を折って僕は礼儀正しく挨拶をしました。
挨拶が第一印象を決めるといっても過言ではありません。
僕は前世で挨拶をあまりしていなかったように思うのです。
なので今はちゃんとした挨拶の仕方を身に着けて、初対面の相手に悪印象を与えないよう心がけています。
おかげで今まで年上の方にも目くじらを立てられたことは皆無で、少なからず良い印象を与えたのではないかと自負しております。最もそれは―――
「いや~可愛い!先輩の妹さん可愛すぎるっ!」
「紬様、いつの間にこんな可愛い妹をっ!悔しい、悔しいですがとても可愛いです。わたくしにも抱かせてくださいまし!」
この美少女としか形容の仕様がない容姿の所為でもありましょう。
現在僕がネグリジェ姿なのも合わさり(僕の趣味ではありません、グレートスさんとのペアルックで、着てくれとしつこくせがまれている内にいつの間にか普段も着るようになってしまったという悲しい現在があるのです)、それはそれは妖精の如き可憐さでしょうね。
自分ではもう何とも思いませんが、自分は自分なのでナルシストでは断じてないので。
二人は僕を小動物か何かと勘違いしているのでしょうか。
いきなり僕の体を貪り、まるで肉食獣のような様となります。
ですが素直に頭を撫でられたり抱擁されたりするのは、嫌いではありません。
寧ろ温かくて柔らかいお布団にでも包まれた感覚、もっと抱きついてもいいんですよお二人様。
「おいそろそろ解放してやれ。このままでは埒が開かん」
結構な時間撫でられ抱きつかれ、それでも止めぬ二人を我が姉は止めます。
歯止めが利かなくなっていたのでしょう。言われるままに僕から離れていく彼女たちの横顔は、羞恥で赤く染まっておりました。
残念、グレートスさんなら2,3時間は僕の全身を愛撫するのでこの程度問題なかったのですが。
そもそもこの場にグレートスさんがいたら射殺されそうですねお二人様。
本当にあの人がこの場にいなくて良かったです。命あっての物種ですから
「ごめん合、お姉ちゃん達まだ勉強しないといけないんだ。だから自分の部屋に居てくれ。また時間が空いたら、遊んでやるからな」
諭すように僕を二階へと仕向ける姉。
ここは素直に聞いておくことにしましょう。勉強の邪魔をしてはいけません。
親友キャラのことは気になりますが、それで中間の結果を悪くしてしまったら罪悪感に苛まれそうです。
僕は姉と二人の高校生に頭を下げ、階段へと向かう。
最後に振り向いた時、ふと僕と親友キャラとの視線が合います。
彼女の細長い瞳が僕を逃がさぬよう足に杭を打ったかのよう。口元に嫌な笑みを浮かべ、その顔には等しく悪人を感じさせました。
彼女の座る後ろの風景が赤黒く歪んで見えて、僕は怖くなり階段を勢いよく駆け上がります。
あの人は本当に僕の知る穏やかで人の為に情報をかき集める、友達思いな親友キャラなのでしょうか。余りにも雰囲気が違いすぎて、怖い。
僕は自分の部屋のベッドで震えてしまう肩を抱きながら、彼女との何らかの因縁をあの粗暴な視線から考えずにはいられませんでした。




