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お前だけ  作者: snowman
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2ページ目

 

 その日は次の日に予定が入っていたためにバイクで行かなければならなかった。

金曜は終電が終わってしまうため他のスタッフ全員、始発まで店で飲むことになっている。

そんな中、始発前にみのりを残して帰るのは正直心配だった。

だから俺はヘルメットをもう一つ持って行くことにした。

帰り道の途中に住んでいたみのりを後ろに乗せて帰ろうと決めていた。


 金曜日仕事を終え、皆のツマミを二人で作り

「今日は俺、もう帰らねぇといけねぇんだわ。」

と伝えると、一気に不安そうな淋しそうな顔をして

「高井さん帰っちゃうんですか…」

泣き出しそうなくらいの顔。

「今日はバイクで来てるんだ。お前の分のメットも持ってきたから」

そう言うと、一気に嬉しそうな顔になり

「乗っけて帰ってくれるんですか!」

とハシャギだした。

『あぁ・・。可愛いなぁ』

そう思えば思うほど、胸の辺りが苦しくなった。

ヘルメットの被り方が分からないらしいみのりに、俺が被せてやり頭をポンッと叩いた。

フニャっと笑う。

俺を心底信頼して向ける笑顔が、また胸を締め付ける。


 とっくに気付いていた。

俺はみのりのことが好きだ。

中学生みたいに、笑顔を見ただけで胸が潰れてしまいそうな感覚。

35にもなってバカみたいな気持ち。

それでもこんな感情は捨てる他無かった。

俺は嫁も子供も居る身。

みのりはまだ男と付き合ったことがない程、純粋な娘。

そんなアイツを俺が汚して言い訳が無い。

自分の中にこんなプラトニックな部分が残っていたなんて恥ずかしいくらいに、みのりは大切な存在だった。


 アイツも俺に想いを寄せていることは知っていた。

ズルイ俺は、このままずっと結ばれはしなくともこの関係のまま想い合っていけたら良いのにと思っていた。

それはみのりの未来を潰すことになるのに。

だからだ。

どうせなら嫌われてしまったらどんなに楽か...

自分が昔不倫をしていた話をした。

普通に聞いているフリをしているアイツを直接見ることも出来ずに、俺はただぺらぺらと前の彼女との話をし続けた。

 それでも、変わりなく接してくるみのり。


 このまま...俺はどんなに汚れようと、アイツの隣に居たいと願った。


 そんな汚い願いも虚しく崩れ落ちる。

みのりが急に他の店に移動することになったのだ。

最低1年以上はこのまま一緒に居られると思っていた。


 そして崩れは止まらない。


 俺は事故に合った。

もう何回も無かったみのりとの時間を失い、バイクも失った。

天罰だと思った。

入院は2週間以上になるそうだった。


 今一人で不安と戦っているであろうアイツが、心配で心配で堪らなかった。

自分の怪我などどうでも良かった。

カミさんや親からこっ酷く叱られ、バイクにはもう乗るなとまで言われた。


 入院して一週間、トイレから病室まで戻ろうとしていた廊下の反対側からみのりが歩いてきた。

驚きを隠せずに口を開く

「どうしたんだよ・・・」

そんな言葉しか出てこなかった。

みのりが口を開く

「お見舞いに来たんですよ」

今にも涙が零れそうなくらいの笑顔で言う。

愛おしいその存在が眩しくて、目を細めた。



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