25回目の結婚
「新郎、新婦の入場です!」
ホテルのチャペルに司会者の声が響いた瞬間、参列者の空気がわずかにざわついた。
45歳の俺――高梨誠にとって、これが25回目の結婚式だと全員が知っているからだ。
「またかよ」「今度は何日もつんだ?」
そんなひそひそ声が背中に突き刺さる。慣れっこだ。だが今日は違う。俺の隣には、純白のドレスに身を包んだ美咲がいる。
妻の美咲は今年で26歳。
実際に俺とは19歳も歳が離れていて、親子と間違われてもおかしくない。
「わあ、きれいなステンドグラス! 誠さん、見て! 虹みたい!」
彼女は緊張もせず、まるで遊園地に来た子どものようにはしゃいでいた。
だがその笑顔を見ていると、不思議と胸が軽くなる。
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式の途中、神父が問う。
「誠さん、あなたは25回目でも、この女性を愛し続けることを誓いますか?」
会場に笑いが起きた。普通なら「誓います」で済むところだが、わざわざ「25回目」と強調されたのだ。神父までネタにしてくるのか。
俺は深呼吸して答えた。
「……ええ。誓います」
すると隣の美咲が、マイクもないのに大声で言った。
「私も誓います! 初めてだけど、一生分の誓いをします!」
会場がどっと笑いに包まれる。冷ややかな空気が少しやわらいだ。
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披露宴。乾杯の後、会社の同僚たちが俺の席にやってきた。
「社長、すごいっすね。25回って……このペースならギネス狙えますよ」
「奥さんもチャレンジャーだよなあ」
からかい半分、呆れ半分。俺は笑ってごまかした。
だが美咲はきょとんとした顔で首をかしげる。
「え、みなさん何を心配してるんですか? 結婚って、幸せになるためにするんですよね?」
「そ、そうだけど……」
「じゃあ問題ないです! 私はもう幸せだし!」
彼女はにっこりと笑った。
その笑顔の破壊力に、同僚たちは返す言葉を失い、結局「……社長、負けました」と降参ポーズを取った。
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ケーキ入刀の後、恒例の友人代表スピーチが始まった。
スピーチに立ったのは俺の古い友人、佐伯。
「こうやってスピーチをするのは何回目か…。誠、お前は……まあ、いろいろあったな。24回の結婚と離婚。俺も最初は呆れてたよ」
会場に笑いが漏れる。
「でもな、お前はいつだって本気だった。別れるたびにボロボロになって、それでももう一度人を愛そうとした。普通なら怖くてできないことだ」
俺は目を見開いた。佐伯がこんなふうに俺を評価してくれるなんて思わなかった。
「だから、美咲さん。誠は不器用だけど、人を想う気持ちだけは嘘じゃない。どうか、今度こそ最後まで一緒にいてやってください」
美咲はうるんだ瞳で大きくうなずいた。
「はい! 任せてください!」
最初はからかうような雰囲気だった会場が美咲の返事で変わった。
過去最高のスピーチになった。
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披露宴の終盤、新婦の手紙コーナー。
俺は正直、ここが一番怖かった。これまで24回、ここで泣かされてきたからだ。
しかし美咲は封筒を取り出すなり、照れ笑いしながら言った。
「えっと……私、手紙書いてません! だって毎日一緒にいるんだから、その場で言えばいいかなって」
ざわつく会場。俺は頭を抱えた。
だが彼女は続けた。
「誠さん。今まで何回結婚したかなんて、私には関係ありません。私にとっては、今日が“初めて”だから」
会場が一瞬静まり返る。
「私は、これから毎日、誠さんと一緒に笑いたいです。だから、たまにケンカしても、泣いても、絶対に離婚なんてしません」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に熱いものが込み上げてきた。
――心の底から「今回こそ大丈夫だ」と思えた。
参列者たちから自然と拍手が湧き上がる。
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式が終わり、夜。二人でホテルの部屋に戻った。
スーツを脱ぎながら、俺は苦笑いを浮かべた。
「……俺、正直言うとさ。今日もどっかで、また失敗するんじゃないかって思ってた」
美咲はソファにちょこんと座り、ニコニコしながら答えた。
「失敗したら、またやり直せばいいじゃないですか」
「いや、俺はもう24回やり直してるんだぞ」
「じゃあ25回目は、やっと大成功しますよ」
あっけらかんとした声に、俺は思わず吹き出した。
――そうだな。彼女となら、きっと今度こそ。
俺の25回目の結婚生活は、こうして始まった。




