第7話 やさしく、って……なんですの?
マーガレットの声で、姉とリリアが振り返った。
二人が並んでいると、まるで地上に天使が舞い降りたかのように、
周りがぱああ、と明るくなる……気がする。
それに、なんだか空気が軽やかで、
おねい様の甘い匂いが、さらに清らかに香るような、感覚を覚えた。
そんな……そんな……っ!
マーガレットは、震えた。
だって――
おねい様の溢れ出る魅力が、
普段の数十倍に膨れあがっておりますものーーーーっ!!
近づけない……っ!
これ以上は――、
眩しすぎて……――っ!
まるで、太陽。
このままでは、まずい。
わたくしが、溶けてしまいそうですわーーっ!
マーガレットは、足を止めてもだえ苦しんだ。
今日は、厄日ですわ。
心臓が持たない。
死んでしまいそう。
これが――聖女の浄化の力……なのですの……!?
マーガレットは、翡翠の目を持つリリアを睨みつけた。
「や……やりますわね……!」
リリアが、小さく口を開く。
「あ……あの……、大丈夫、ですか?」
その鈴のような声色に、頭に血がせり上がった。
「誰が、気安く話しかけていいと、おっしゃいまして……?」
リリアは、おどおどとして、視線を泳がせた。
ふん。
ざまぁありませんわ。
さらに言わないと気が済まないですわ。
何て言おうかしら?
そう思って、姉に視線を送る。
いつものように、唇の端を上げて喜んでくださると思っていたのに。
それなのに。
「――マーガレット、もう、何も言わなくていいわ」
姉は横に首を振って静かな口調でそう言った。
「おねい……さま……」
そんな、どうしてしまったというのですの……?
ガツン!
と衝撃が頭に来るようですわ。
息も、できないほどに。
そんなマーガレットをよそに置き、
姉は、リリアの肩に手を置いて、向かい合わせに誘った。
視線を絡ませる二人。
背景が吹き飛び、色とりどりのバラの花びらが風に舞うように見える。
リリアが、陶器のような白い頬をほのかに朱に染めた。
なんですの?
な、なにを見せられておりますの……っ!?
「かわいい妹が失礼しました。
さ、案内の続きを――こちらに、教会がありますので」
「は……はい……っ」
やだ、おねい様……!
可愛い妹、なんて――、
二人きりの時にしか、そんな言葉くださらなかったのに……!
じゃなくてですわ!!
「お、おねい様……! 案内なら、わたくしがやりますわ……!」
歩き出した二人を引き留めるように、マーガレットは必死に声を出した。
姉が、眉を少し困らせて振り返る。
返答に、困っていらっしゃる……?
マーガレットは、一瞬の胸の引っ掛かりを覚えた。
「お、同じクラスになっておりますもの。
そのくらい、当然ですわ」
おねい様のお手をこれ以上煩わせるわけにはいきませんわ。
さっさと済ませて、お茶にしましょう?
そういう意味を込めて、姉に視線を向けた。
わたくしながら、いい考えだわ。
「マーガレット……」
姉が、本当に小さな声で何かを呟いた。
……ん? はめつ?
そんな単語だった気がしましたけれど、
聞き間違いに違いありませんわ。バカらしい。
姉が、小さく首を横に振って、はっきりと声を出した。
「――新入生どうしで案内なんて、効率が悪いでしょう?
同じクラスなら、明日以降――、
身の振り方などを『やさしく』教えてさしあげて?」
「……?」
やさしく……って?
「あ……あの」
リリアのか細い声が、マーガレットの耳をちくっと刺した。
翡翠のような、綺麗で透明な瞳が向けられる。
「リリア・クローバーです。
その……ど、どうか、よろしくお願いします……」
「ふん」
気に食わないわ。
ちょっと清らかな魔力が目覚めたからって。
おねい様の魅力を数段上げて、眩しく輝かせた挙句、
二人で見つめ合っていた時に、とても素敵なお二人に見えたからって……!
わたくしは、そう簡単に騙されませんのよ……!
リリアは、マーガレットの返答を待っていた。
そんな目で、わたくしを見ないでくださいまし!
ちょっとだけ、可愛いじゃないのよ。
「マーガレット・ミレリアよ」
「マーガレット、様……」
う……。
なんだか、心の底にある黒い粘着質の何かが解かされてしまいそうな、
変な清々しさと軽やかさを感じますわ。
だめよ。
心を、強く持つのよ。
この女は、おねい様の恋敵候補……!
いえ、正式なライバルなのですのよ!
マーガレットの心のもやもやをフォローすることなく、
姉が先導して教会へ二人を案内した。
ステンドグラスを通して七色の光が講堂を照らす。
リリアが女神像の前に跪き、胸に手を当てて、祈った。
気のせいだと思われるけれど、
華奢な身体を優しく包み込む、白い光を見たような……気がした。
教会を、三人で出る。
「クリスティーヌ様」
リリアが、姉を呼び止めて深々とお辞儀をした。
「今日は、貴重なお時間を割いていただき、ありがとうございました」
なによ。きちんとお礼は言えるのね。
姉が微笑む。
「頭を上げていいですわ。
これから、生徒会で何度も顔を合わせるんですよ?」
「は――はい、重ね重ね、お世話になります」
――ん?
いま、なんて……?
「おねい様? 生徒会って……え?」
姉の制服の袖を軽く引っ張る。
だって、そんなの、聞いてないんですもの……。うそよね?
「もちろんマーガレットも生徒会に入ってもらうわ」
「ええもちろん!
……いえ、そうじゃありませんわ!」
もう!
察しはポンコツのままですわねっ!
最近やっと慣れましたけれど……!
「本当に誘ってるなんて、思いもしませんでしたわーー!!」




