第6話 あの笑顔は、わたくしだけのもののはずですのに
姉を求めて校舎から出たマーガレットは、
ヒートアップして火照った頭が風に冷やされていくのを感じた。
少しだけ、冷静さを取り戻す。
そもそも、おねい様はなぜ、田舎者なんかに会いに行ったのですの……?
姉を思い浮かべる。
白い肌に、輝く銀の髪。
薄い唇をきゅっと締め、氷のように冷たい目で前を見据えるおねい様。
想像のおねい様は、より一層キラキラしていて素敵ですわ……!
想像のおねい様が、ドアをこんこんとノックする。
出てきた田舎者は、おねい様のあまりの美しさに息を忘れて――、
間抜けな顔をして見惚れるのですわ。
その小娘に、おねい様が口を開いて、普段の調子で、言う。
『はあ。聖女だと聞いたので顔を見に来たというのに、
部屋に招き入れることも、お茶を出すこともできないのですね』
ここで、はっとした田舎者が、ドアを広く開けて、おねい様を通そうとするはずですわ。
そこですかさず、
『結構よ。小汚い部屋になんて、入れるはずないでしょう?
あなたには、忠告しに来たのよ』
と言うに決まっていますわ。
さすがおねい様!
今日も言葉のキレがバッキバキですわ……!
そう、忠告!!
マーガレットは、走りながら膨らんだ妄想で、
しっくりくる答えを手に入れた。
妄想のおねい様が、指をさしてきっぱりと言う。
『エラルド王子は、私のものよ。
あなたなんかに、横取りされてたまるものですか』
吐き捨てるように、
冷たく言うのですわ……!
妄想が途切れる。
マーガレットは、寮への道の途中にある広場に差し掛かり、
一本の木に手を当てて、足を止めた。
ぜい……ぜい……っ。
(と……遠いですわ……っ)
マーガレットは、体力がなかった。
ようやくたどり着いた、エリステル魔法学園の女子寮――百合の華。
格式高い貴族の御屋敷のような外観で、
マーガレットや、身分のある貴族専用の寮だった。
平民や、低ランクの貴族は、
簡素なレンガ造りの、名前のない寮に入る。
当然、あの田舎者も、雑多な寮のどこかの部屋を割り当てられているはずだった。
マーガレットが百合の華を通り過ぎようとしたとき、重厚な二枚扉が開いた。
その二人を見た途端、
目が吸い寄せられる。
「お――おねい様!?」
と、
にっくき恋敵であるはずのリリア・クローバー……!?
二人は並んで歩き、百合の華寮の敷地の奥にある教会の方へ歩き出した。
……というより、姉が案内しているように見える。
マーガレットは、激しく混乱した。
なぜですの?
どうして――おねい様があんな子と……?
そんなことよりも、
リリアを振り返る姉の表情が、柔らかい。
「ああ……」
あの笑顔は。
あの目は――
ただ一人。
わたくしにだけ、向けてくださっていたもののはずなのに……っ!
「どうして……っ」
胸にバラの棘が刺さる。
一本なんかじゃありませんわ。
心臓を、バラのつるでぐるぐる巻きにされたように、
いたる方向から刺さりまくっているようですわ――!
その痛みに脳を焼かれ、
気が付いたら、マーガレットは走り出していた。
「お――おねい様ぁぁああ!!」




