表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
1/7

プロローグ


 今年の冬の大寒波は、池も凍らすほどのものだった。

 ミレリア家の令嬢――

 姉のクリスティーヌと妹のマーガレットは、それを喜んでスケートに興じた。

 

 大自然のリンクの上。

 二人は、雪の精のように舞い、踊る。


 マーガレットは、氷上のバレエを披露する姉を、ローズピンクの瞳に映す。


 ――さすが、おねい様ですわ。


 しなやかな身体が、回転しながら宙を舞う。

 着地を綺麗に決めた時には、マーガレットの口から、細くため息が零れた。


(わたくしも、負けていられませんわ……!)


 マーガレットも氷の表面を滑り、見せつける。

 どう!? おねい様!

 わたくしだって、このくらいできますのよ!


 回転。さらに早く。

 マーガレットの、一番の得意技だった。

 

 回転を終えると、姉が横に来てくれた。

 頭にぽんと手が乗せられて、そのまま、なでなでしてくれる。

「――他の誰よりも美しく踊れているわ。

 さすが、私の妹ね」

「おねい様!」

 

 マーガレットは、姉に抱きついた。

 他の誰よりも――。

 あの娘よりも――。

 姉は、周りと比べてくれる。

 わたくしが、一番だと。

 そうよ。

 姉の次に、一番。

 それが、わたくしですもの。


 心が姉で満たされたマーガレットは、姉の手を取って再び氷上を滑り出した。


「もう少し楽しんでから、帰りましょ!」

「ええ、そうね」


 その時だった。


「クリスティーヌ!」

 姉を呼ぶ、男性の声があたりに響いた。


 またですわ。

 おねい様は、すぐに殿方に囲まれてしまう。

 今はわたくしと滑っているのに。


 姉が振り返る。


 でも、わたくしは――


 わたくしは、こちらを見てほしくて――姉の腕を引っ張ってしまったの。


「あ――っ!」

 姉の手が、マーガレットの指先からするりと滑り落ち、

 ガンッ!

 という鈍い音を聞いた。

 振り返ったマーガレットは、頭から赤い血を出して横たわる姉を見た。


「おねい様……っ!」

 

 全身の血の気がサアア、と引く感覚と、心臓が痛みを伴って激しく脈打つのを同時に感じた。

 

 引っぱったから、体勢を崩してしまったんだ。


 わたくしが――

 おねい様を――……?

 息が詰まる。

 呼吸の仕方を、忘れてしまった。


(ああ……そんな、そんな……っ!)

 マーガレットは、思考が飛び退き、膝を冷たい氷について姉を揺らした。


「おねい様! おねい様ぁ!!」


 その時、雪靴の男性――エラルド王子が、横たわる姉のもとに寄った。

「揺らしてはいけない。私が運ぶから、君は医者を呼んできて」

 思考が戻らないマーガレットは、

 相手が王子だということを失念し、嗚咽交じりに口を開く。

「で――でも……っ! おねい様ぁ……!」

 エラルドの手が、肩に置かれた。

「泣いていても、何も解決しない。

 私より早く動ける君が、医者に知らせに行くんだ」


 早く――動ける……?


 ほんの少し、思考が戻る。

 マーガレットは、氷靴を手で触った。

 

 そうですわ。

 おねい様を助けるには、わたくしが、動かなければ……!


 マーガレットは、姉と王子を残し、馬車のもとへ向かった。

 従者を待たせてある。

 

 

 姉は、命に別状はなく、

 頭からの傷も、大したことはなかった。

 ――よかった。

 マーガレットは、心の底から安堵した。

 けれど、その心境は、長く続かなかった。


 回復した姉は――姉じゃなかった。

 

「おはようございます、セレナさん」

 侍女なんかに、愛想を振りまくな。

 それに、なんですの? その幼稚なしゃべり方は。


「私……貴族の令嬢なの?」


 普段は、クリスタルの中にサファイアを溶かし込んだような、

 聡明で、美しく、凛とした瞳を持っていらっしゃるのに――。


「――はぁあ!?」

 マーガレットの口は、かつてないほど濁って、はしたない、

 いわば、とても変な声が漏れ出てしまった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ