プロローグ
〜西暦2148年〜
天の川銀河オリオン腕。
この宇宙域では、テラ族、カルザ族、アストラ族――
三つの文明が覇権を巡って争っていた。
【惑星Elios アストラ王国 宮殿】
カルザ帝国軍の侵略により、アストラ王国の都は炎に包まれていた。
――ここまでか。
燃え盛る都を前に、王アルセリオンは最後の選択を迫られていた。
愛するルミナ。
まだ幼い息子、ルーク。
この滅びゆく惑星から逃がすか。
それとも、すべてを共に沈めるか。
決断の時だった。
最期を悟ったアルセリオンは、妾という影の立場にあったルミナと、その子ルークを連れ、脱出艇へ続く細い階段を降りていく。
「アルセリオン、あなたも来て」
すがる声に、アルセリオンは静かに首を振った。
「私は残る」
彼には、犠牲となった民の無念の声が聞こえる。
もしEliosを奪われれば、カルザ帝国はこの星の力を手に入れる。
そして――
いずれ銀河を支配する。
それだけは、この命を賭してでも阻止しなければならない。
「あー……」
小さな手をこちらへ伸ばす息子ルーク。
アルセリオンは、ルミナに抱かれたルークの額に、自分の額を合わせた。
この子に宿る〝星脈〟を封印するのだ。
この銀河の運命を動かす存在となる、その日まで――
「この子は、我らのすべてだ」
アルセリオンは顔を上げ、ルミナを見た。
「あなた……」
「星脈はルークが守る。ルミナ、おまえはルークを守れ」
ルミナの頬に涙が流れた。
「あなたがいなければ、私たちは……」
涙をたたえたその瞳を見た瞬間、遠い夜の記憶が胸をよぎる。
惑星Earth。
鉄と緑の匂いがする、遠い蒼い星。
あの星から導かれるように現れた彼女。
星空の下で向けられた微笑み。
それが、凍りついていた彼の心を初めて溶かした。
ルミナは、アルセリオンにとって、唯一の光だった。
「恐れるな。
この子は滅びではなく、夜明けを連れて来る」
その時、脱出艇が起動音を鳴らした。
残されたのはこの一機だけだ。
「さあ、行くのだ」
アルセリオンはルミナをシートに座らせる。
そして、アストラ王族に代々伝わる、小さな核を持つ水晶のネックレスを彼女の首に掛けた。
「アルセリオン……」
ルークが目をまん丸に見開き、母の胸の水晶を触る。
そのガラスのような瞳に、水晶の光が揺れ動いた。
「ルミナ、生きろ。
ルークが必ず、星脈を目覚めさせる日が来る」
最後にルミナと口づけを交わし、アルセリオンは脱出艇から一歩下がった。
ハッチが閉まる。
その瞬間、ガラスに映る自分の姿が目に入った。
淡く発光する肌。
炎の光を受けて揺れる銀の髪。
アストラの王アルセリオン。
最期の時へ、導くのだ。
地響きが低く唸っている。
この惑星Eliosは、我々の文明の源。
決してカルザ族には渡さない。
アルセリオンは、自らの命と引き換えとなる
Elios崩壊コード共鳴を発動した。
蒼白い光の柱が天へと立ち上り、惑星Elios全土に、低い共鳴が走った。
カルザ帝国軍の動きが、数秒止まる。
その一瞬を逃さず、脱出艇が飛び立った。
炎に染まる王都の上空をかすめ、
銀の弧を描きながら、闇の宇宙へと突き抜ける。
アルセリオンは、その光を静かに見送った。
そして、誰にも届かぬ宇宙へ向けて、王は最期の言葉を残した。
「星は、まだ終わらぬ。
アストラの灯は――必ず再び銀河に昇る」
これで良い。
惑星Eliosは崩壊し、王国と共にアルセリオンの身体は光に呑まれた。
だが、星脈は、まだ途絶えてはいない。
その力は今――
幼子ルークの中で、
静かに眠っている。




