第七章 第十四話 雷 vs. 光
アンに説教されていた時だった。
アンの肩越し、遠くに一人の男が見えた。
男は歩き出し、徐々にこちらへと近づいてくる。
男の風貌は先ほどまで見えていた市民のそれとは異なる。
まるで、戦闘員のようだ。
……嫌な予感がする。
戦いの場に出向いたことの無い人間でも容易に感じ取ることができるだろう。
溢れ出る殺気!
「アン!後ろへ……!」
驚くアンをそのままに自分のうしろへと導く。
「その場に止まれ!止まらないなら攻撃する!」
聞く耳などない、そのような態度のまま、男はこちらへの歩みを止めない。
「……チェンジ!」
声に呼応するように、手中のチェンジ・ギアに雷が満たされ、それが全身を駆ける。
一秒もないうちにアルトの全身は強固な装甲に包まれた。
初めて見る戦士の姿に、アンは驚きを隠しきれない。
アルトは指先を立て、そこから電撃の一閃が男の足元に放たれる。
「……次は、ないぞ」
男の足は一瞬とまったように思われたが、再び歩き出した。
「次はないっての!」
右の拳に電撃を纏い、男を目がけ放つ。
……おかしい。
最速の攻撃を与えたはずだった。
しかし、地面に伏せているのは……僕だ。
「アルト!」
体を雷に変え、最速移動で間合いを取る。
間合いを取ったはずだった。
「―――!」
頭部に衝撃。
目の前には奴が立っていた。
状況を飲み込めないまま、今度は仰向けに倒れ込んでいた。
立ち上がっても続けざまに、絶え間なく強力な打撃がこの身を襲う。
しばらく続いた後、強力な一撃が頬を襲う。
耐えられなくなり、思わず地面に膝を付ける。
だが、攻撃は休まらない。
頭が下がったところを奴の膝が顔面を蹴り上げた。
アルトの体が宙を舞う。
そこらにはアルトのものと思われる血が散在している。
アーマーのゴーグルは割れてしまい、中の顔面が露わになっている。
味わったことの無い痛みが彼を襲い続けた。
こんなときにレッドやクソ兄貴がいたなら、なんて泣き言が頭をよぎる。
立ち上がれないままいると、急襲者が声を発した。
「我らの聖域を侵す者よ。我は神の指示の下、行動を為す代行者。神の命より貴様ら外敵を排除する」
口の中の血を吐きだし、男に言葉を返す。
「そこに女の子がいるだろ?この町の外で倒れてたんだ。その娘が家に帰れないって言うから、僕はその娘がきちんとお家に帰れるようにエスコートしてただけ」
「……なるほど。安心しろ。貴様を天へ召した後、我がその使命を全うしてやる」
「容赦ないのね……」
男がこちらへ近づく。
もう終わりだと思った。
あんな喧嘩別れみたいになるのだったら、意地張らずに謝ればよかった。
瞳を閉じ、すべてを受け容れた。




