538.事情
辻褄合わせの三話の一話目です。
とりあえずボコった。それはそれは丁寧に顔が腫れ上がる程度にボコボコにした。男達は黙った。
「ふーん、それでお父さんの借金をこの子に支払わせようってこと?」
「へ、へい、そうです。うちとしても金さえ返してくれたら良いんですがあのゴミ失踪しやがったもんで」
最初に私をチビ呼ばわりした人を机に座りながら肩に足を引っ掛けてたらちょっと偉いっぽい男がそう説明してきた。
要は借金のカタに図書館の一部の資産と経営権等を要求していたらしい。全てを要求しないのは単純に額がそこまでいかないのとこの女の人、正確にはセーラとその妹であったらしい本の女の子シェフィの家が保有する権利がそれほど無いからだ。仮にも街の図書館という公立?っていうのかな。そういうのを一般の人が保有していいのかとか気になるけど多分この街で有力な一族とかそんな感じなんだろう。知らないけど。
けれど図書館内部を見て分かる通りそれほど裕福な家というわけではない。確かに権力としては高いのだろうがその利益は図書館を利用する人が居てこそ成り立つものだ。お金は無いが権力だけある。そういう家という訳だ。
そしてそんな家だからセーラ達の父親が借金をしてもそうおかしくはない。だけどその借金をセーラとシェフィは知らなかった。つまり個人的な借金の可能性があるのだ。とはいえ金貸しである男達からしたらそんな事知ったことではない。期限を過ぎても返さないどころかそもそも居場所が分からない。なら事情を知っている可能性があるセーラに金を返すよう言いに来たという場面なのだ。尚シェフィは良く分かってないけどセーラに誰も入れちゃダメと言われたから扉を閉めていたらしい。
「失踪したのって何時なの?」
「さあ?うちらは分かりません。ひと月前にゃ会って返すよう言いはしたんですがね」
まあ金貸しがずっと一個人を見張る訳にも行かないだろうし知らないのは仕方ない。金額が高いなら動向くらい把握しておけば良いのにとは思うけど。まあ無駄に権力だけはあるからストーカーというかそういう勘違いをされる可能性があるからリスクを嫌ったのだろう。
「父は三日ほど前から家には帰ってきていません。以前から数日忙しくて家を空ける事があったのであまり心配はしていなかったのですけど……」
セーラが少し顔を顰めながらそう言う。どうやらセーラは父親の事はあまり好いてはいないようだ。元々仲があまり良くなくてセーラとシェフィは家が保有している権利の一部を譲渡してもらう形で図書館の経営をして殆ど自立している状態だった模様。まあね、家の存続という意味では大した利益は出ないであろう図書館の経営も姉妹二人、うち一人は幼いとなれば普通に過ごす分にはそれなりに余裕があったと思われる。
そのうえで急に男達がやってきて金を返せとか言われたら元々の嫌悪感と相まって父親の事を厄介者としてしか見れないに違いない。ちなみにガルフレア、チンピラの事だがどうやらセーラ達とお付き合いしているらしい。
達、つまりセーラとシェフィの二人組である。まさかの姉妹両方でそれを聞いた私と男達の反応はドン引きであった。まあ、うん。三人が幸せならそれでも構わないとは思うよ、うん。一応セーラは二十二歳、ガルフレアは二十一歳、シェフィは十二歳である。うん、まあね、九歳差ならまだ良いのかもしれない。流石に付き合うにしてももう少し年齢がいってからにしたら?とは思ったけど。健全っぽいし私には関係無いから勝手にしたら良いとは思う。
「ならまだ近くに居るのかもね。名前と特徴だけ教えて。探すから」
「あ、あの」
「何?」
「何故そこまでしてくださるのでしょうか?貴女は関係無いのに」
セーラの問いに私は考える。確かに私が関わる必要性なんて何処にもない。というか下手したらただ引っ掻き回してるだけでもある。ただ何となくこのままが嫌なんだよね。セラ達が作り上げた?この街で事件とかが起きるのが。あとセーラがセラと名前とか雰囲気が似てるからなんとなく肩入れしたくなったのだと言っても理解はされにくいだろう。ちなみにセラ達は初代領主として人気なのでこういう名前が似通う子はそれなりに多い模様。
「んー、問題事が近くで起きてる状態で落ち着いて本って読めないでしょ?だからだよ」
正解でもないけどあながち間違ってもない答えを返しておく。それに対していまいち納得はしていなさそうではあったがセーラはとりあえずで納得を見せた。
「ちなみになんで金を借りる理由を訊かなかったの?」
「あぁ〜、まあなんというかこういう職なんで情とかで絆されないようにっすね。泣き落としとかされても面倒ですし審査自体は緩かったんですよ。まあ流石に今回の件である程度用途ぐらいは聞いた方が良いのかもとは思いましたけどね」
「なるほど、あ、あと殴ったりしてごめんね」
意外と理知的(失礼)な男達に一応謝っておく。但しチビ呼ばわりした人だけは肩に置いてる足に力を入れることで許してないことを示しておいた。男は震えた。
「いえ、まあ誤解されやすい仕事ではありますしそこの馬鹿が悪いので」
そこの馬鹿扱いされた男がぷるぷる震えているけど何も言いはしない。喧嘩を売る相手を間違えたと思ってそうだ。実際怒りで震えているというよりはやらかした、どうしようみたいな感じだし。
まあそれは置いといて特徴を聞いてサーチの魔法を使ってみる。私の魔力が水面に立つ波紋のように広がっていく。そういえばサーチの魔法って実は凄い難しい魔法らしい。情報処理が追い付かないのだそうだ。だけど使うだけなら基本的に誰でも出来る。けど情報の取捨選択が範囲が広がれば広がる程加速度的に増えていくから普通の人は半径百mを認識できたら上等らしい。尚私はこの街……がどの程度の大きさか知らないけど覆い尽くすくらいなら全然行ける。多分私が魔族だからだ。人族ならもう少し小さくなっていたと思う。そんなことを考えていたら波紋がどんどん広がっていって……やがて目当てのものを見つけた。
「……」
どうしよう、目の前で使ったのだから見つかったであろう事は明白なんだけどすごく誤魔化したい。正確には見て見ぬ振りをしたい。だって、ねえ?父親らしき人が今正に現在進行形で美人局っぽいのに引っ掛かってるとか言えないよねぇ?
父親らしき人は男に殴られて地面に倒れ込んでいる。痴話喧嘩に見えなくもないからか周りの人は見て見ぬ振りだ。私もしたい。美人局?の女の人はその男の人の腕に抱き着いている。それに縋ろうとして殴られる父親?
この場面を私はその娘達と彼氏君と金貸しにどう説明したら良いのだろう。幸いそう遠くない。自分の口から説明するのが嫌だった私はとりあえず見付けたから迎えに行こっかと自分でも分かる程度に引き攣った笑みでセーラ達を促したのであった。あ、流石にシェフィは可哀想だから金貸し達の一部に任せることにした。
さてと……行きたくないなぁ……。
スイ「こういう時どういう顔をしていいか分からないの」




