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165.アスタールが連れてきた者



私の気分は最高潮に達していた。足取りは軽く今にもスキップしそうな程だ。そんな私の背後には二人の女がいる。二人とも今はまだ意識がはっきりしないのかぼんやりとしたままではあるがその瞳だけは変わらない。片方は私に対して愛情を、片方は私に対して憎悪を向ける。

「ふふ♪あぁ、気分が良いなぁ。どうやって愛そうかな、どうやってこわそうかな。今から楽しみで仕方ないよ。ねぇ?コルン、リン?」

ふと背後に体をもたれかけさせる。コルンは抱き締めるかのようにして受け止める。リンはそんな状態の私とコルンを見て複雑な表情を浮かべる。

「受け入れるか受け入れないかで眷属としての性質に違いが生まれるとは思わなかったよ。でもそのおかげでこわせるんだから感謝しないとね」

リンはギリッと歯を食いしばってドロドロとした感情を滾らせた瞳で私を見る。それに対して私はゆっくりと腕を伸ばしてリンの顔を包むと親指でリンの瞳を潰した。

「ギィッ!?アァガッ!?」

「ふふ♪いつまで持ってくれる?ずっと持ってくれたら嬉しいんだけど」

潰した瞳の中に親指を更に捻じ込む。こういうことは前世では出来なかったから新鮮。捻じ込んだ親指を引き抜くと潰した瞳にキスを落とす。瞳は回復して元の綺麗なものに戻った。

「まあ今はやめておこうか。宿屋の方を見に行こう。何をアスタールは連れてきたんだろうね?」

そういえばルーレちゃんはいつの間にか居なくなっていた。一緒に来るかなと思っていたけど何か用でもあったのかな。

コルンとリンを連れて宿屋に着くとさっさと二階に上がっていく。一番端の部屋とその隣、そこから一つ離れた部屋に泊まっているようだ。コルンとリンは階段に一番近い部屋だ。そこにコルンとリンは入れておいた。付いてこられても面倒だし。

一番端の部屋に入ると男と女が居た。一瞬そういう関係かなと思ったけど良く見たら男の方に見覚えがある。

「誰だっけ?」

「クドだ!凶獣の子供の件で出会ったぞ!?そう前の事ではない!」

「……あぁ」

「忘れていたな貴様!?」

「正直どうでも良かったから」

「ぐぅ……貴様からすればそうだろうが」

「それでエルン国王位継承権第一位のクドがどうしてこんな所に?」

「貴様覚えているのでは?」

「それでそっちの女性は誰?」

スイがちらっと見た先に居た女性の方を見る。クドより少し幼い感じはするがそれほど歳も離れてはいないだろう。どこか似ているので妹かもしれない。

「あぁ、私の妹だ。名をヒナと言う」

「は、初めまして。ヒナと申します」

ヒナは人見知りなのかそれだけを言うとクドの後ろに隠れる。

「ん、まあどうでも良いけど。私が誰か分かってるの?」

「ああ、アスタール殿から聞いた。貴様が魔族でヴェルデニアと敵対する勢力の神輿となる存在だと」

「それなら良い。なら私の所に来る意味も分かってる?」

「眷属とやらになるのだろう?少なくとも私とヒナは了承している。エルン国は私達を廃嫡したから国について悩む必要もない」

「廃嫡って何かしたの?」

「いや、クーデターが起きて王族が追われただけだ。そのクーデターに一時間程度参加しただけで城を落としたアスタール殿は化け物の類だな」

「貴方達はそれで良いの?」

「ふむ。元より私は王の位に興味など無いしヒナはまあ見たら分かるだろう。それにエルン国で飼い殺される人生など真っ平御免だ。それならば死の危険があろうとも波乱万丈な人生を送りたいのだ。ヒナはまあ付いてきただけだが私から離れはせんだろう」

そう言ったクドの言葉に首が折れるのではないかと心配になるくらいヒナが頷く。

「アスタールは私に眷属を増やそうとしたのかな。なら良いや。また後で眷属にするから今は休んで」

今日帝都に着いたばかりならば流石に疲れは取れないだろう。冒険者の二人も体力が多いから外に居ただけだろうし。

「分かった。少し休ませてもらうとしよう。流石に疲れたのでな」

私はその言葉に頷くと部屋を出る。そしてアスタールの事について訊くのを忘れた。明日訊けばいいかと思って次の部屋に入る。

「あっ、お久しぶりです。覚えていられるでしょうか!?私です!リーシャです!貴女様の豚でございます!!」

バタン!

思わず扉を閉めた。えっ?あの女性ってクドを殺そうとした側だったよね?確かに付いてくるかは訊いたが本当に来るとは思っていなかった。というか一時は敵になった同士を隣の部屋にするなと言いたい。いや本人達が構わないなら良いけども。

少し混乱したが再び扉を開く。そこではリーシャが土下座のスタイルで泣き喚いていた。再度閉めたくなったがいつまでも変わらない感じがしたのでやめておいた。

「申し訳御座いませんっ!!再び会えた喜びで感極まり粗相を致してしまいました!!豚の身で卑しくも御身に近付いてしまった事を心より反省しております!!なのでどうか!どうかお捨てにならないで下さいぃぃ!!」

どう言葉を返せば良いのだろうか。確かに苛めたがここまで効果を発揮しているとは思わなかった。ドMにも程があると思う。

「あ、うん。捨てないから泣かないでね」

これ以外に何を言えというのか。正直言って引くレベルだったがきっかけが自分である以上責任は取った方が良いのだろう。取りたくないが。

「寛大なお言葉に感謝致します!!では私は何をしたら良いでしょうか!!」

切り替えが早くて困る。ついでに何かさせようと思っていたわけでもないので返答出来ない。

「ん、とりあえず今日の所は休んで」

「分かりました!!」

部屋から出た私は少しだけ頭を抱えた。眷属化が成功したらあれと今後も付き合っていかなければならないのだろうか。今から少し気が重い。

そして最後の少し離れた所にある部屋に入ると親子が居た。ヴェルジャルヌガの時に出会った商人親子だ。男性がドゥレ、その妻のインリ、娘のレンだ。

「ああ、帝都まで来れたんだね。良かった。置いてきぼりにしちゃったから若干気にしてたんだ」

「ええ、あの後スイ様から貰った物を売買しながら行商の旅で帝都へと向かっていたらアスタール様がやって来てここまで連れて来てくださったのです。ただそのせいでアスタール様はあの黒い襲撃者に襲われてしまったようです。どうなったかは分かりません。ですがあの感じからして……」

「あぁ、アスタールなら気にしなくて構わないよ。死んだけど死んでないから。それより黒い襲撃者の事を教えて欲しいかな」

ようやく訊く事が出来た。その問いに対しドゥレはあまり分かりはしませんがと前置きを入れてから状況や見た目を話し始めた。

「小柄で黒いローブを羽織っていて氷のような剣を持っていたか。ん、誰か分かったから良いや。どうして居たのかは気になるけどまあそこは気にしなくても良いか。ドゥレありがと」

「いえ、このくらいは当然です。それよりアスタール様が死んだけど死んでないとはいったい?」

「ん、簡潔に言えば本当のアスタールは既に死んでる。あのアスタールは私が作り上げた偽物のアスタールだっていうこと。ヴェルジャルヌガを覚えてる?あんな感じで魔物の類に近い存在なんだよ」

真実を説明しても良く分からないだろうから適当に誤魔化しながら説明する。どうやら完全にとは言わないだろうがある程度のニュアンスは伝わったようだ。

「なるほど。では今はスイ様のお身体の中に?」

「そう。死んじゃったから復活するまで暫く掛かるけどね。でも死んでないからまた会えるよ」

「そうですか。それは良かった。ならばその時にお礼でもしたいのですがスイ様にお渡しすれば良いのでしょうか?」

「ん、復活したらその時にアスタールに渡してあげて。私の中に存在するけど意思は私とは異なる別個体と見ても良いから」

「分かりました。ではお手間をお掛けしますがその時が来たらお教え願えますか?」

「ん、良いよ。その時が来たら連絡する」

ドゥレとの会話をそこで切り上げて休むように指示を出す。さてとりあえずドゥレ達にはハルテイア達を付けて商売をしてもらおう。亜人族の地位復活に役立つかもしれない。ダスター辺りを付けておけば何か起こることもないだろう。素因は返して貰っているみたいだし。

「ん、じゃあ後は任せようかな」

とりあえず私はリーシャとクド達の境遇をどうしようか迷う作業に入るとしよう。いや本当どうしようかな?

スイ「リーシャが凄く面倒そう……」

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