第2話:偽りの聖女と死の灰の雨
第1話での原発再稼働。その光がもたらしたのは救済だけではありませんでした。利権に群がる者たちが、利便性を盾に牙を剥きます。
「……なんだ、あの光は!」
山裾の避難所に固まっていた村人たちが、一斉に顔を上げた。
北の空、長年「死の領域」として忌み嫌われてきた『魔王の城』の頂きから、天を突くような青白い光柱が立ち昇っている。
100年間、音もなく死を撒き散らしていた巨塔が、まるで見せつけるようにその存在を主張していた。
俺、カイは、意識を取り戻し呆然としている娘、ミーナを抱え、発電所の重厚な防護扉の前に立っていた。
背後からは、再起動した原子炉が奏でる、心臓の鼓動のような重低音が響いてくる。100年前の「日本」が誇った、禁忌の魔導――科学の結晶だ。
「おい、そこの不届き者! その娘を放せ!」
鋭い怒声が静寂を切り裂いた。
数人の重装聖騎士を従え、一人の女がこちらへ歩み寄ってくる。
豪奢な刺繍が施された純白の法衣を纏い、手には大粒の魔石を埋め込んだ黄金の杖。この一帯の汚染を「神への祈り」で抑えていると自称し、村人から多額の寄進を募っている聖教会の『浄化の聖女』リリアルだ。
リリアルは俺の背後で唸りを上げる発電所を一瞥し、その端正な顔を醜く歪めた。
「あ、ありえない……死の呪いの波動が、消失している? 貴様、何をした! ここは教会の指定管理地だぞ!」
「管理、か。放置して見殺しにしていただけだろう。現にこの娘は、お前たちが敷いた境界線の内側で倒れていたぞ」
俺は冷ややかに言い放つ。
右目の解析表示(HUD)が、リリアルが握りしめる杖をスキャンした。
『解析完了:簡易型放射線遮断フィールド発生装置。魔法回路による磁場形成。効果範囲、半径三メートル。出力、極めて低レベル。……失笑に値します』
脳内のAIも呆れたようなログを吐き出す。彼女は「祈り」などではなく、微弱な防護デバイスで自分の身だけを守りながら、浄化を演出していたに過ぎない。
「貴様……! 無礼な賊め。衛兵、この男を捕らえよ! 魔王の遺産を弄び、村を更なる呪いにかけた罪で即刻処刑だ!」
リリアルの叫びに呼応し、聖騎士たちが一斉に抜剣する。
だが、その刃が俺に届くより早く、周囲の空気が一変した。
上空の灰色の雲が渦を巻き、そこから不気味な「白い雪」が猛烈な勢いで降り始めたのだ。
「ひっ、死の灰だ! みんな逃げろ!」
村人たちが悲鳴を上げ、パニックに陥る。
再稼働に伴う出力上昇により、上空の雲に蓄積されていた放射性物質が飽和し、結晶化して一気に降り注いだのだ。これに触れれば、防護のない人間は数分で魔力失調に陥り、死に至る。
「くっ、光よ、我らを守れ!」
リリアルは慌てて杖を掲げた。魔石が発光し、彼女の周囲に薄い光の膜が張られる。
だが、空を覆い尽くすほどの死の灰の線量は、彼女のチャチなデバイスの許容範囲を遥かに超えていた。
バリッ、と嫌な音がして、黄金の杖に亀裂が入る。
「助けて……聖女様、中に入れてください!」
リリアルの足元に、逃げ遅れた騎士が縋り付く。
しかし、彼女はその手を冷酷に蹴り飛ばした。
「近寄るな! 膜の出力が落ちるでしょう! 汚れ(けがれ)が移るわ!」
「……それが、あんたの選んだ『浄化』の本質か」
俺は一歩、前へ出る。
逃げ惑う人々を背に、右手を空に向かって高く掲げた。
発電所のメインフレームと俺のHUDが直結し、膨大な電力が計算式へと変換される。
「全方位展開。――『大気浄化結界』!!」
俺の手のひらから、不可視のナノマシン群が爆発的に放出された。
それらは空中で死の灰の一粒一粒に吸着し、原子レベルで構造を分解。致死の毒を、ただの無害な水蒸気と光へと再構築していく。
半径数百メートル。
降り注いでいた死の雨が、俺を起点に黄金の粒子へと変わり、幻想的な光のカーテンとなって消えていく。
その光景に、村人も、騎士も、そしてリリアルすらもが、声を失って立ち尽くした。
「……バカな。広域浄化魔法……だと? 国の賢者ですら、これほどの範囲を一度になど……」
杖が砕け、地面に膝をつくリリアルの前を、俺は一瞥もせずに通り過ぎる。
「あんたの祈りはもういらない。ここからは、俺たちの技術の時代だ」
俺の視界には、再起動したプラントから送られてくる、毎秒数万件の正常稼働ログが流れている。
100年前の「日本」が遺したこの巨人をどう制御し、この地獄をどう書き換えるか。
俺の戦いは、まだ始まったばかりだ。
第2話をお読みいただきありがとうございます!
「偽の聖女」を圧倒的な科学(浄化技術)で論破・無双するのは、本作の大きな見どころの一つです。
カイが手にしたこの「原発の力」が、今後どのように村を、そして世界を変えていくのか。
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