表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

第1話:魔王の城、再稼働

本作は別投稿しています、

「眠らぬ民【【村を焼かれ初めて「眠り」に落ちた時、脳内に核の火を制御する男の記憶が流れ込んだ。魔法の世界を物理法則で上書きします】の前日譚、千年前のストーリーゼロです。

ちなみに原発転移から100年後の過酷な世界を描く、もう一つの物語。後に千年後の伝説へと繋がる、失われた「技術」の夜明けの物語です。

空は年中、灰色の雲に覆われている。

 かつて存在したという青い空や、眩しいほどの太陽は、今や古びた伝承の中にしか存在しない。

 100年前、「それ」がこの異世界の北の大地に突如として現れてから、この地のことわりは狂った。


「……また、高濃度汚染区域ホットスポットか」


俺、カイは、ボロボロになった鉛入りの防護布を深く纏い直し、手にした魔導具を振るった。

 ガイガーカウンターに似た形状のその装置は、周囲に漂う「死の魔素」を検知するたびに、耳障りなクリック音を鳴り響かせる。

 ジジッ、ジジジジッ――。

 音の間隔が狭まるにつれ、視界の先にある森の空気は、不気味なほどに淀んで見えた。


周囲の冒険者や住民たちは、この地を「死の森」と呼び、決して足を踏み入れようとはしない。

 かつて勇敢な騎士団が浄化を試みて突入したが、数分と持たず、身体が腐り、体内の魔力が暴走して発火。一人として生きて帰った者はいないからだ。彼らにとって、ここは神に見捨てられた、呪われた地だ。


だが、俺にとっては違う。


俺が歩むたび、右目の網膜に投影されたヘッドアップディスプレイ(HUD)が、無数の数値を更新していく。

 俺の右目には、100年前の「日本の設計図」がインストールされている。かつて巨大な質量と共にこの世界へ転移してきた際、時空の歪みに散らばった知識の断片。それを拾い上げ、適合させたのは、この世界で俺一人だけだった。


『警告:空間線量、毎時五〇〇ミリシーベルトを突破。生体組織への影響――無視可能。第一原子炉格納容器の損傷、および冷却水の漏洩を確認。修復プロトコルを推奨します』


脳内に響く、冷徹で無機質な声。

 それはかつての文明が産み落とした人工知能の残滓だ。

 視界が開けた。

 森の最深部、そこに鎮座するのは、巨大なコンクリートと鋼鉄の残骸だった。

 人々が「魔王の城」と呼び、恐怖の象徴としているそれは、100年前に日本から転移してきた『原子力発電所』そのものだった。


「……ッ、あ……っ」


微かな声がした。

 視線を落とすと、瓦礫の陰に一人の少女が倒れていた。逃げ遅れた近隣の村の娘だろう。

 彼女の皮膚は不自然なほど青白く、呼吸は浅い。汚染――いや、被曝による深刻な魔力失調を起こしている。

 この世界の神官が唱えるような回復魔法では、彼女を救うことはできない。細胞レベルで刻まれた「呪い」を解除するには、その根本を浄化しなければならない。


「動くな。今、楽にしてやる」


俺は躊躇なく、少女の元へ、そしてさらにその先にある高濃度汚染の渦中へと足を踏み入れる。

 周囲の空気が、致死量の放射線を帯びてパチパチと青白く弾ける。チェレンコフ光のような幻視が走るが、俺は止まらない。


起動システム・オン。――『元素分解・再構築デコンタミネーション』」


俺が少女の肩に手を触れた瞬間、彼女を包んでいた「死の霧」が、瞬時に黄金の光へと変換された。

 光は渦を巻き、俺の右目へと吸い込まれていく。

 人々が死を招くと恐れるその莫大なエネルギーは、俺にとっては最強の燃料リソースでしかなかった。


少女の頬に赤みが差し、荒かった呼吸が整い始める。

 俺は彼女を安全な岩陰へ移すと、再び「魔王の城」へと向き直った。


「100年もの間、誰もこの『力』の使い方を知らなかったらしいな」


俺は建屋の巨大な防護扉に手をかける。

 魔導や魔法では決して開くことのない、分厚い鋼鉄の扉。

 錆びつき、沈黙していたはずの電子錠が、俺の手のひらから流し込まれた「魔力変換電力」に反応し、鮮やかな青色に発光した。


『バイオメトリクス認証成功。管理者:カイ。メインシステム、コールドスタートを開始します』


電子合成音が空間に響き渡る。

 俺は大きくレバーを引き絞った。


「認証完了。――燃料投下、再稼働リブートする」


ズゥゥゥゥン、という腹の底に響くような重低音が、大地を揺らした。

 100年の沈黙を破り、巨人が目覚める。

 排気塔から立ち上がる真っ白な蒸気。

 それは汚染を焼き尽くし、世界を浄化するための、再誕の光だった。


人々が呪いと呼ぶ場所で、俺は静かに笑う。

 これが、後に「眠らぬ民」と呼ばれる俺たちの、世界に対する最初の反撃の狼煙だった。

第1話をお読みいただきありがとうございます!

ここから100年後の混迷をカイがどう「清掃」し、それがどう千年後の世界へ語り継がれるのか。

少しでも「続きが気になる」と思っていただけたら、下の【☆☆☆☆☆】からポイント評価と、ブックマーク登録をぜひお願いします! 皆様の応援が、汚染された世界を救う力になります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ