下僕
「いい? 潤。天狗との共鳴は、心の鏡をどれだけ純化できるかにかかっているの」
天狗界の静謐な森の中。ココ姉貴の声が響く。
俺、ココ姉貴、そして柚子川家の双子――カリナとマリナは、それぞれのパートナーと意識を繋ぐ「共鳴イメトレ」の真っ最中だ。
側ではエナエマが。
ココ姉貴には星の導きを司る天狗天女『ホシヒメ』。
カリナには流麗なる水の天狗天女『ミズノヒメ』。
マリナには猛る火の天狗天女『ヒノヒメ』。
四者四様のオーラが、発光し始める。
「……ふぅ……。集中、集中……」
『ほらジュンチン! もっとパァーッと光らせて! 蛍光灯に負けてるわよ!』
うるさいエナエマを無視し、仮想の餓魔をなぎ倒すイメージを固めていた、その時。
背中に、柔らかくて熱い「何か」が押し付けられた。
「……っ!? ね、姉貴!?」
「静かに。これも修行よ。どんな誘惑やノイズがあっても、エナエマとの共鳴を乱さないこと。……ほら、私の鼓動に惑わされてるわよ?」
背後から抱きついてきたココ姉貴が、耳元で妖しく囁く。
ジャージ越しでもわかる、暴力的なまでの胸の感触。
「無茶言うな! 煩悩の塊みたいな状況で……っ!」
「「あー、潤くん顔赤いー」」
「「エッろ。ミズノヒメが呆れてるで」」
目をつぶっているはずの双子から、容赦ないハモりツッコミが飛んでくる。
「うるせぇ! ……クソ、やるよ、やればいいんだろ!」
俺は半ばヤケクソで、エナエマの波長に意識を叩きつけた。
鼻血が出そうなほどの熱が全身を駆け巡り――。
「……お。いいわね。今の、完璧よ」
ココ姉貴が満足げに俺を解放した時には、俺はかつてないほど鋭いネオンブルーの光を放っていた。
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「はぁ……死ぬかと思った……。じゃあな二人とも、正月の挨拶以来だったけど、いい刺激になったよ」
修行を終え、俺は現世へ戻るためにエナエマを見て合図する。
滝のような汗をかいたが、不思議と体は軽い。
「お疲れ様、カリナちゃん、マリナちゃん。あなたたちの火と水の連携、さすが柚子川家ね」
「ココさんこそ、ホシヒメの導き、相変わらずキレキレでした!」
「勉強になりました!」
爽やかに別れ、俺と姉貴がエナエマに触れて戻ろうとしたその時。
ガシッ、と。
俺の左右の腕を、双子が力強く掴んだ。
「……? なんだよ。忘れ物か?」
振り返ると、カリナとマリナが、見たこともないほどキラキラした、それでいて拒絶を許さない「圧」のある笑顔で俺を見つめていた。
「「しもべよ! 連れてけ」」
「……は?」
あまりに綺麗なハモりに、思考が停止する。
「カリナ、マリナ……? 連れてけって、どこにだよ。お前ら自分の家に帰るだろ?」
「何言うてんの。潤の家やで。まだしもべ続行! 東京のスイーツよろしく」
「スイーツよろしく」
「いや、いきなりだと母さんに怒られるし! そもそもお前ら、準備とか……」
「「あるで(ドンッ!)」」
いつの間にか、足元にはお洒落なボストンバッグが二つ。
「決まりね! 賑やかで楽しそうじゃない。……行きましょう!おすすめスイーツあるわよ」
「姉貴まで何を……っ!」
「「ココさーん♡お邪魔しまーす!!」」
否定しきる間もなく、俺は双子に引きずられるようにしてゲートへ放り込まれた。
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「ただいま……って、うわっ!?」
ゲートを抜けた先。
桐山家のリビングは、俺が発った時以上の「カオス」と化していた。
「……あ、潤。おかえり……」
ソファに座っていた親友のマサが、力なく手を振る。
その髪は、堀井先生の超絶テクニックによって、見たこともないような「天使の輪」を宿して輝き、もはや発光体に近い状態になっていた。
「「……ッ!? 眩しッ!! 何あの天使の輪! 完敗や!!」」
「「すごいやんそいつ! 潤、ウチらもトリートメントして!!」」
帰宅した瞬間にリビングに響き渡る、関西弁の二重奏。
「ココさんお帰りなさい♡ え、誰!? 潤、その子たちは……!? おふ♡ 綺麗♡ ココさんもめっちゃ綺麗だし♡」
驚いて立ち上がり、尻尾を全振りする桜子。
「あら、いらっしゃい柚子川家のお嬢さんたち。久しぶりね! 相変わらずお綺麗ね! ふふふ、ちょうどトリートメントの在庫はあるわよ! まずはお茶とスイーツね! ほら潤! 手伝って! お客様に失礼よ」
母に促されるまま、俺は「お客様(双子)」への給仕のためにキッチンへと追い立てられた。
その横では、新たな「検体」を見つけた堀井先生が、楽しそうに目を細めていた。
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