水着♪!?
「は!?」
俺の絶叫を無視して、エナエマがスイーツを頬張りながらひょいっと近づいてきた。
『……じゃ、さっそく。ホイ♪』
「え、ちょっ……!?」
視界が虹色のエフェクトに包まれた。
一瞬、全身に熱い電流が走ったかと思うと、重心が微妙にズレる。
見れば、俺の指先は細く女性らしくしなやかになり、そして……明らかに胸元に「重み」が生まれていた。
「……っ!?」
ブレザーが、悲鳴を上げるようにパツパツに膨らむ。弾け飛びそうなボタンを慌てて外し、俺は裏返った声で叫んだ。
「お前、いきなり何して……っていうか、さっきの『水着』ってどういう意味ですか!?」
「そのままの意味よ。全身に『魔導バフ』を付与した特製のクリームとオイルを塗り込んであげるわ。……私直々の施術よ? 感謝してよくってよ、桐山」
「私も手伝うーーー! 水着も貸してあげるから、早く着替えてきなさい!」
姉貴がこれ以上ないほど輝く笑顔で手を挙げる。
「よし、じゃあみんなでやりましょうか」
母さんのその一言で、桐山家のリビングは、俺を「最強のギャル」へと作り変えるためのエステサロンと化した。
「……誰か、助けてくれ……ッ!」
俺の必死の祈りは、エナエマがスイーツを咀嚼する音にかき消された。
ピンポーン♪ ピンポーン♪
非情にも、リビングにインターホンの音が鳴り響く。
モニターを確認した母さんが、こちらを振り返って楽しげに告げた。
「あら、マサくんと桜子ちゃんが来たわよ。……ちょうど良かったわね、潤!」
「……よくねぇよ!!」
「お邪魔しまーす。……お、準備万端だな潤!」
能天気な声と共に、マサと桜子が入ってきた。
憧れのココ姉貴を前にして、桜子は即座に頬を赤らめてモジモジし始める。対してマサは、ブレザーのボタンが弾けそうな俺(潤子)を見て親指を立てた。
「どこの世界に、この状態で準備万端な奴がいるんだよ、マサ!」
「いや、なんかもう……完成されてるっていうか。女子より女子してんぞ、お前」
「まあまあ、二人ともよく来たわね! 夕飯用意してあるから、みんなで食べましょ?」
母さんの明るい提案に、姉貴が凶悪な追撃を加える。
「そうそう。食べ終わったら、みんなで『水着』に着替えるんだから!」
「……水着?」
首を傾げるマサと桜子に、堀井先生が冷徹な事実を告げた。
「ええ。食事の後は、潤への全身エンチャント。……その後は桜子、あなたの番よ。ココ、彼女にも水着を貸してあげなさい」
「えっ、水着!? 私がココさんの水着を……っ!? じ、潤くんとお揃い……っ!?」
さらに顔を真っ赤にして、尻尾を振り鼻息を荒くする桜子。一方でマサだけが一人、状況が飲み込めず「はてなマーク」を浮かべ、照れながら俺の部屋へと隔離されていった。
「……先生。一応聞きますけど、なんで水着なんですか?」
俺の至極真っ当な疑問に、先生は不敵に言い放った。
「肌の露出面積は、魔導バフの浸透率に比例するの。全身エンチャントを完璧に済ませれば、防御力は『ビキニアーマー』でも十分よ」
「……は!?(二回目)」
俺の困惑を置き去りにして、夕食が始まった。
「潤、あんたの体格はしっかりしなきゃダメよ。はい、肉!」
「お姉ちゃん、これ以上食べたら水着きついから!」
『潤、このスイーツも食べなよ! 脳にも糖分よ!』
数十分後。俺と桜子は、処刑を待つ囚人のような顔で完食し、ついに脱衣所へと連行された。
---
「……死にたい」
リビングに戻った俺の姿は、メタリックピンクの極小ビキニ。
そして隣には、同じく紐のような水着に身を包み、茹で上がったタコのように真っ赤な桜子が立っていた。
「じ、潤……似合ってる、よ……」
「桜子、お前……それはもう、色んな意味でアウトだぞ……」
そんな俺たちのやり取りを見下ろしながら、先生が怪しく光るオイルのボトルを掲げる。
「いい、二人とも。これから始めるのは『全身オイル・エンチャント』。肌に直接魔力をコーティングする。……ただし、潤。あなたが美しくなればなるほど、周囲の邪念を吸い寄せる『魔寄せ』の効果も強まるわ」
「は!?(三回目)」
「つまり、最近餓魔が活性化しつつ無限に湧く。あなたはそれを、その美しさで浄化し続けなければならないのよ。……さあ、みんなで塗りたくりなさい!」
「私もやるーーー!」
「桜子ちゃん、背中手伝うわね!」
『……ジュンチン、……マジで発光しすぎてウケる……キャハッハー♡ジュンチンの取ってしまいー♪』
母さんと姉貴の歓声、桜子の悲鳴、そしてエナエマの凶悪な笑いと悪ふざけ。
混沌を極める桐山家のリビングで、俺の「美しさ」が物理的な輝きを放ち始めた――と思った瞬間、背後のエナエマに、文字通り水着を剥ぎ取られた。
「ちょっ、お前ッ!?」
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