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天狗✖️ギャル天女  作者: 抹茶ラテ


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1/3

天狗の血、ギャルに染まる系



「……ジュン坊、落ち着け。呼吸を乱すな。血に呑まれるぞ」


東の果ての山、桐山邸。広大な道場の中央で、十五歳の誕生日を数分後に控えた桐山潤きりやま じゅんは、脂汗を流していた。

周囲には、祖父・厳蔵、父、母、そして姉。家族が四方に座り、古の結界を張っている。


「良いかジュン坊。桐山家の血は『劇薬』じゃ。今夜、お主のDNAに刻まれた天狗の因子が完全に覚醒する。その力はあまりに強大。ひとたび表に出せば、現代の平穏など一瞬で吹き飛ぶ。何が見えても、何が聞こえても、決して『人』であることを手放すな!」


「わかっ……てるよ、じっちゃん……ッ!」


潤の背中が熱い。肩甲骨の裏側で、鋼のような筋肉が意思を持って蠢いている。

視界が歪む。数キロ先の森で跳ねる兎の鼓動が耳元で鳴り、地を這う怨念の腐臭が鼻をつく。


(……来る。僕を塗り潰そうとする、恐ろしい――何かが……!)


時計の針が、重なり、零時を告げた。

ドクン、と世界が爆ぜる。


「……う、あああああああ!!」


潤の体から、不吉な藍色と血のような赤のモヤが噴き出した。道場の床がみしみしと裂け、強烈な妖気が嵐となって吹き荒れる。

じっちゃんが叫ぶ。

「案ずるなジュン坊! 桐山家の天狗は、山を統べる孤高の魔神! その矜持を……!」


その時、禍々しい霧の中から、場違いなほど軽快な声が響いた。


『――ちょ、待って待って! この霧、エフェクト暗すぎじゃない? 彩度低すぎて死ぬんだけどー!』


「……え?」


潤の思考が停止した。

霧の中から現れたのは、恐ろしい天狗の羽団扇はうちわをデコり散らかしたスマホのように持ち、パステルカラーの翼を羽ばたかせる絶世の美女。


「ハロー、ジュンチン! わらわがキミの守護DNAこと、天女天狗のエナエマだよぉ♪ とりま! よろw! ってもう、この家マジで湿度高くない? 換気しちゃうね? それ♪」


エナエマが指をパチンと鳴らす。

瞬間、道場の屋根がドォォォォン!と吹き飛んだ。いや、物理的に破壊されたのではない。強大な風圧が屋根だけを「どかした」のだ。


「「「ええええええええ!?!?!?」」」


家族全員が魂を抜かれたように絶叫した。じっちゃんは白目を剥いて卒倒しかけている。


「な……なんだ……。エナエマ? 天狗……? これが……?」


「やっぱり下界よいわー。ずっと待ってたんだよね! ふふ! そ! 妾が天女で天狗ことエナエマ! これからは妾と二人三脚っしょ。あ、挨拶代わりにジュンチンも『映え』させとくね。特別だよ? えいっ♪」


「え、ちょっ、なっ――!?」


潤の体が光に包まれた。

視界が一気に三十センチほど低くなる。重かった学生服のズボンが消え、代わりに太ももを撫でる涼しい感覚。見れば、自分の手は細くなり、爪には完璧なグラデーションネイルが施されている。


「……え、声が、出ない……。あ、あー?」


「きゃはは! 声高っ! ジュンチン、マジ無双じゃん! 最強のJK爆誕って感じ?」


エナエマがどこからか取り出した手鏡を突きつける。

そこに映っていたのは、ゆるふわパーマの栗色の髪、透き通るような肌、そして絶妙な丈のチェックスカートを履きこなした――どこからどう見ても「完璧な美少女」になった自分だった。


「…………嘘、だろ」


「嘘じゃないし! これが桐山家の『変化へんげ』の極致一つだよw! ほら、外見て! 汚ったない奴らが寄ってきてるから、バシッと片付けちゃおうよ!」


エナエマの指差す先、月明かりの下。

街の負の感情を吸い込み、豚のごとく肥大化した汚物級の化け物が、その「神気」に気付き動き出し山を登ってきていた。


エナエマは鼻歌まじりに、あるいは「ヒャッハー!」と歓喜の声を上げながら風を操り、迫りくる化け物を無造作に切り刻んでいく。


だが潤は、その圧倒的な戦闘に目もくれず、ただ鏡の中の自分を凝視していた。


「じっちゃん……『人として生きよ』って……これ、どう見ても無理だよ……」


潤は女子高生の声で絶叫した。

史上最強にキラキラして、史上最強にカオスな十五歳の夜が、幕を開けた。


(本当、逃げたかった……)

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