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25.真相を公に


「よくもそんな酷いことを、同じ人間として神経を疑います」

「気持ちは分かるが、俺がほしいのは同情じゃない」


 飲食街から運搬用の馬を盗んで走ること一時間弱、遠巻きに統括局支部が見える夜の街で、ふたりはひと際目立つ豪邸に足を向けた。


「分かってます。ひとつだけ確認したいのですが、ガブリエラ・ブルックスが裏切りの魔導師ガブリエラ・ゴートで間違いないですか」

「ああ、間違いない。俺は事件のあと別の村の孤児院に引き取られてブルックスさんたちとは離れ離れになったけど、結婚する前の姓を名乗ってたんだと思う」

「愛する夫が謎の死を遂げたんですから、普通に考えればガブリエラはその原因を探るでしょう。そして村の死滅から五年後、征伐にてガブリエラは殺された」


 先導するニックの背中を追いながら、アリアナは外套の大きなフードをかぶる。


「ヘド・ブラッドが私を始末しようとしたのは、私がガブリエラのことを知ろうとしたから?」

「流石はマクニコル、勘がいいな。十中八九そうに違いない」

「私が知られたくない真実に手を出したように、ガブリエラも知ってはならない真実を知ってしまった。だから彼女は殺された」

「俺もそう考えて、あれからずっと村のことや征伐のことについて調べてきた。それで辿り着いたのが、ヘド・ブラッドとその父親ジョージ・ブラッド」


 分厚い壁を一枚隔てた先にあるのは、ブラッド邸の庭。しかしすぐに侵入せず、ニックは執拗に辺りを確認している。


「色んなことを知ったよ。村全体を対象に魔法の実験を行ってたこと、観測用とかいって村人に番号を刻んで家畜みたいな扱いをしてたこと、死んだジョージ・ブラッドから研究をヘド・ブラッドが引き継いだこと。

 ブルックスさんは十年前に全部知ってたみたいだが、汚名を着せられて殺された。連中はどんな汚い手を使っても、このクソみたいな実験を隠し通す気だ」

「最低な話ですね」

「だろう? なかでもクソだったのは、連中は俺たちの村のことを【第三試験場】なんて呼んでやがった」

「正直、あなたのような身元も知れぬ方に力添えするか悩んでいましたが、気が変わりました。マクニコルの権限を使い、その最低な真実を暴くのに手を貸しましょう」

「助かるぜ」


 警備が手薄な部分から忍びこみ、地下室まで急ぐふたり。道中で邪魔な雇われ兵がいれば、ニックが迷わず首を絞めて気絶させた。


「知られたくないものを隠しているというのに、これでは手薄すぎませんか? 魔導師がひとりも配置されていない」


 ようやく地下室へ続く鉄の扉に到着し、錠前に鍵を差しこむニックの後ろ姿へアリアナが問いかける。彼女の言うように、知った人間を殺さねばならないほどの研究を隠しておくには警備が手薄で、危機感の欠片もない。


「もうひとり、ブラッドの側近に協力者がいる。少し前にブラッドからあんたを殺すよう指示があった時、こうなるんじゃないかと思って警備の配置を変えてもらったんだ」

「なるほど」


 よし、と小さな声をあげたニックが錠前をはずし、体を分厚い扉に押しつける。ぎぃっと軋む音をたてながら開いた扉の先は、膨大な量の書物を並べた巨大書庫だった。


「これは、地下書庫?」

「木を隠すなら森、これなら外ヅラは元統括局の熱心な魔導師様が有する地下書庫だ」


 中に誰もいないことを確認すると、ふたりは地下書庫へ足を踏み入れる。真っ先にニックが向かったのは、入口からだと大きな本棚で陰になっている書庫の隅。

 壁に広げられた地図には全部で四つの印がついていて、辺りの棚に並べられているのはマクニコル邸地下でも見た書類をまとめているファイルがずらり。


「この地図、もしかして実験した土地を記したもの」


 まずアリアナが食いついたのは、赤い染料で四ケ所に印をうった大きな地図。マギサエンドを中心に拡がる地図をよく見ると、印の下にはそれぞれ第一試験場から第四試験場まで名前が記入されていた。


「ニック、あなたの村は第三試験場と言っていましたね」

「その通りだよ、ジョージ・ブラッドが責任者として行った最後の実験場所」


 証拠となる資料を探すべく、アリアナと離れて本棚のファイルをあさっていたニックがこくりと頷く。


「第三試験場での事件は十五年前で、被害者であるガブリエラたちの数字は百番台後半。ならば二百番台のネズミはヘド・ブラッドが行った第四試験場の可能性が高い」


 ――先に言っておこう、私の目的は学園への入学ではない。咄嗟にアリアナの脳裏をよぎったのは、入学試験でリルクレイが告げた挑発ともとれる発言。

 地図付近に置かれたテーブルの上に目を向けると、偶然にもそこには【第四試験場被験者リスト】のファイルがあった。


「ネズミの目的、まさか自分の村を死滅に追いやったのがヘド・ブラッドだと勘づいて学園に潜入した?」


 リルクレイの言葉の真意を確かめるため、アリアナが被験者リストをひらいた瞬間、


「誰ですか?」


 ニックとアリアナしかいないはずの書庫に別の女の声が響いた。

 即座に背負っていた杖に左手を添えて身構えるアリアナだったが、対照的にニックはホッと安堵の息をつく。


「レイチェル、そっちはもう大丈夫なのか?」

「レイチェル? そちらが言っていた協力者ですか?」


 どこか見覚えがあるようなないような顔の、メイド服をまとった女性レイチェル。彼女のもとへ、一冊のファイルを手にしたニックが歩み寄る。


「ああ、そうだ。これでメンツがそろったことだし、さっさと証拠を持ってこんなところズラかろうぜ」


 刹那、レイチェルの背後に鋼鉄の杖が見えた。


「ニック、その女から離れなさい!」


 悪寒がしたアリアナが叫ぶ。

 けれどもう遅い。槍の形をした杖の鋭い切っ先が、素早くニックの心臓を捉えた。


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