決戦用の最終試作機開発シーンは必須
いつものお昼休み。
エレン様とケイト様にも事前にお願いしていた設計前の構想図を出しあって3人で頭を悩ませていた。
令嬢であれば機械や電子の設計も当然嗜むが、悪魔の切れ端を生体部品にした幽霊ドラゴン用のゴーレム改造はさすがに未知の分野に踏み込みすぎていて難易度が高く、発想を広くとるため一旦3人別々でゼロから設計思想を見直していたのだ。
「やっぱりエレン様の設計が段違いに整っていますので、これをベースにした上で案をまとめていきましょう」
(そうだな、明らかに格が違う)
(まるで既に何度も生物を合体させる設計図を描いてきたかのようだ)
(なぜここまで慣れているのか不安になるほどだ)
ゴーレム自体がエレン様の発案であり、根本的な思想からレベルが違う。圧倒的な令嬢設計力だ。
「ふむ…ティア様の魔力を頼ると発案した以上は私にも背負うべき責任があり、可能な限り力になりたいわけですが…恥ずかしながら設計は完全にお任せしたほうが良いようです」
ケイト様の設計はスポーツ令嬢らしい思想に寄っているため、パフォーマンスの高さは期待出来るのだが条件設定が競技的で狭い感じがあるようだ。しかし部分部分の鋭さを参考採用出来る気がする。
「私のは慣れからくる安定性のみに寄っていますから、ケイト様のもシャーク様のも合わせてこそより高い設計に至る筈ですわ。ケイト様のシャープな思想と、シャーク様のマッスルな思想を」
私の図面は自然とタフネスモデルなどと呼ばれるタイプの設計になる宿命を背負っているらしく、慣れた人から見ると不必要なほど頑丈で無骨でちょっとレトロな感じらしい。しかし、こういうのは自分ではよく分からず比べてみてようやく気づく事になる。
一旦エレン様の設計をベースにした上で、放課後まで再び3人それぞれの設計を詰める約束をし、昼休みを終える。
交友関係の広いケイト様は設計参加に加えて皆に頼んで色々と素材を集めてくれていて、意外にもオカルトに強いアン先生がいつの間にか用意してくれていたちょっと怪しげな部品も入手し、放課後にはもうある程度具体的な試作に入れるほど有り難い状態になっていた。
* * *
夕方、急いで我が家に帰った私は自分の部屋に置いてある金庫を開け、中に仕舞っておいたハイドラさんと悪魔の切れ端入り瓶を取り出す。いつまでもティア様に預かって貰うわけにはいかないから、だいぶゴツい金庫を手に入れておいたのだ。
『最初は閉じ込められる恐怖があったんですけど、安心できる暗闇から取り出されてやばい部品の数々が目に入ると、今はあの中が自分にとって一番安全な場所なんじゃないかって気がしてます』
「金庫気に入って頂いたようで何よりです。エレン様も一旦お家で準備されたあと試作図面をもって来て下さるので、もっと安全性の高いボディの開発にとりかかれる筈です」
『出来れば今すぐ金庫に中に戻りたいです。本当に金庫気に入りました』
「お嬢様、エレン様はもう隣にいらっしゃいますが」
「!?」『!!?』
メイドさんに言われるまで気づかなかったが既に私の隣でエレン様が図面の準備をしていた。到着されたらそのまま部屋まで案内して欲しいとメイドさんにお願いはしていたが、メイドさんもエレン様も基本的に神出鬼没なので、この二人のセットだと登場シーンがおかしくなるようだ。
「あ…!シャーク様ハイドラ様すみません、楽しみすぎて挨拶すら抜けてしまいましたわ」
慌てて令嬢らしさを取り戻し皆で挨拶をして、それはそれとして早速図面の確認と試作に取り掛かる。
時間まで出来る限り万全にしたいので改造したい箇所は多々あるが、今回の作戦で一番重要になるのは3点。
まずはティア様の莫大な魔力をある程度抑える言わば変圧器。トランスフォーマーだ。
((((((なんか凄くロボが変形しそう!!))))))
次が変換器ことコンバーター的なもの。光の属性を纏っている魔力を悪魔素材部品に通す事で属性を脱がし悪魔寄りの属性に着替えさせる。ゲットチェンジだ。
((((((なんか!!凄く!!!ロボが変形しそう!!!!))))))
最後がリミッター。これはもう説明の必要も無く、最終的にピンチに陥った際に解除して問題を一気に解決したあとかっこよく爆発するためのものだ。
((((((リミッター解除大好きぃ!!!!!))))))
『おや!?どこからか無邪気で危険な期待を感じる気が!!怖い!!』
どうしてもある程度のサイズと距離が必要となる為、いっそのこと安全に持てて最終的にパージも出来る長い頑丈な棒が追加パーツの基本的な形になる。
ティア様の低めの身長も考慮すれば取り回しやすいのは地面から胸の高さくらいまでが限度だろう。現在のティア様の詳細サイズは目に焼き付けてあるのでここは問題無い。
(うわ…)(詳細サイズ…)(怖…)
形状で言えば、長い棒の先に9つ頭の紐状のメカ頭がくっついてる感じで……あれ、いや、ちょっとこれ見た目があんまり良くないかも知れない?
部品から部品へと近い目線で設計していったので、全体像がちょっと見えてなかったというか、これ、すごく日用品っぽいというか…
「あ、あの、エレン様、組み立て完成図ってどんなイメージでした…?」
「そ、その、シャーク様、私、機能に興奮しすぎてて見た目の事…」
どうやらエレン様も今になって見た目の要素に気づいたらしい。不吉な予感に襲われながら、試作品を組み立てていく。接続パーツにとりあえずハイドラさんを乗せて…
((((((あれ!?箒だ!?掃除用具になってる!!))))))
「うぐっ!!」
(よせシックス!!!)
((((((メカなのに掃除機じゃなくて箒だ!魔法少女用!?))))))
「ま、魔法少女は別に箒で飛ぶわけでは!」
「シャーク様!!だめ!!サメ会話の巻き添えはやめて下さい!」
『おや?お二人共随分苦しそうですが、どうかされましたかモップ?』
「うぐっっ!?」「くっ!?」
しまった、悪魔に弱みを握られた。しょうもない語尾で私とエレン様が同時にダメージを食らう。
『決戦に挑むための一番かっこよくなるべき最終形態ですから、まさかうっかり面白い見た目にしてしまって笑ったらマズイなどと苦しんでたりしないモップよね?ラストバトル前のシリアスな熱い準備シーンですからねぇ?あ、ホコリが』
「!!!」「!!!!!」
ま、まずい、完全に主導権を握られた。自動で掃除する箒だ。勝手にうねうね動く割に全然はけてないのが腹筋に厳しすぎる。
『かなり格好良い見た目になったろうから、きっと全部上手くいった瞬間うまい感じでパージされて自分も地獄に帰してもらえる機能とかも付いてるんですよねきっと。嬉しいモップねぇ…』
「わ、分かった、参りました、それにパージ機能はちゃんと用意されてます。ね、エレン様…」
「も、元々無事に帰すつもりの設計ですわ、リミッター解除さえしなければ」
『ダメなフラグっぽい!!』
「元はと言えばハイドラさんが元凶ど真ん中なので、可能な限り無茶でも頑張っては貰いますが、可能な限り全員助けますわ。悪魔でも幽霊でも」
『や、やった。元凶の自覚はあって無茶も頑張りもしますが、悪魔なので助かるチャンスは逃せない…幽霊なんで無事も何も無い気もしますが、帰れるなら帰りたい…!』
きっと本来ならもっとシリアスで私も含めて皆に助かるチャンスが少なく重苦しい流れだった筈だから、普通からの逸脱という面ではかなり良い流れだ。笑いが生まれる環境というのもきっと素敵な感じだと思う、思うから一旦うねうね動くのをやめて欲しい。
「お嬢様、箒が喋ってますが?」
「ふぇひひひひひひ」
「シャーク様!!だめ!!!笑い声でつられちゃいます!!」
「ふぇひひひひひひ」
メイドさんがお茶と一緒にトドメを持ってきてくれてもうダメだった。エレン様が決壊するとハイドラさんも自分で笑い始めて、まあまあ平和な光景になったような気もする?
「あれ…?余った図面が…?」
少し離れた場所に落ちていた図面に気づき拾いあげるが、どうやら何か関係無い図面が混ざってしまっていたらしい。一瞬建築図面かと思うレベルで明らかに寸法が大きすぎるし、表題が…その…何か…
「あ…っ!それは別の図面ですわ。慌ててたのでうっかり混ぜて持ってきてしまいました」
「その、エレン様、一応、一応ですが、この表題欄の……試作型デビルメカ合金スペースシャークmk2、というのが何か伺っておいても宜しいでしょうか?」
「シャーク様用の第二世代型外宇宙回遊用特殊メタルロボパーツ試作機ですわ!」
「うっ!」
(外宇宙!?)
(いかん!何かとんでもない想定をされているぞ!)
(既に第二世代まで進んでしまっているのか!)
「幽霊悪魔ドラゴンロボの開発で得たノウハウをいずれサメ界にも転用しデビルメカ合金の合体ロボで科学とサメの未来を…!」
((((((合体ロボ!!!))))))
(喜ぶなシックス!)(メカと生身で合体させられるかも知れんぞ!)
「ハイドラさん!危険な悪魔ロボ技術の流出です、なんとか止めて下さい!」
『出来ることならまず悪魔のロボ化を控えめにして欲しいんですが!?』
この世界は元がゲームだから宇宙がどうなってるのかよく分からないけれど、もしかしたらその謎を解き明かす最初の宇宙飛行サメが私になりかねない。なんとしてでも計画を抹消しなくては。




