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決戦前に絆の高さを確認出来るシーン

ティア様に預けていたハイドラさんを受け取ったのは改造の他にもう一つ、私も悪魔全員の居場所を把握し、それと同時に作戦について説明して意思の確認をしておきたかったのだ。


残り12体の悪魔から帰ってきた答えは皆同じ。



ハイドラさんが箒になってるのが衝撃すぎて話が頭に入ってこないとの事だった。


せっかくだし、成功したら無事地獄に帰れて、失敗したらどの悪魔も最終的にメカ箒にされるという説明で押し通したころ、どうやら全面的に協力して貰えるようだった。


(せっかくだし、じゃないが)

(悪魔を脅すな)

(まぁ実際メカにされる可能性が無いとも言い難いのだが…)



『正義の使者が相手だったら、強いやつと戦って滅びるのも本望!みたいなノリだった筈なんですが、助かるかもしれない希望を得た上で幽霊が箒にされてるのを知ったのでなかなか…』


格好良く滅んでも、その後にはメカ箒としての新たな生が待っていると刻みつけたので、迂闊な行動を抑えられた可能性が高い。この作戦に必死になってくれる方が助かるので良しとする。



『まだ見ぬ未知の解決策がある可能性は否定出来ませんが、地獄の門を開く難易度は自分が一番知ってるつもりなので、多少強引になろうとここが最終決戦の覚悟で挑んでもらうのは賛成なんです』


「本当はもっと安全な策を探したいのですが、今回失敗するとティア様が悲しんで美しい思い出に傷がつく可能性が高いので、無理やりにでも全員助かってもらいます。一体も逃しません」


『レスキュー的な行為で逃しませんて言う人初めて見ました…』


「明らかに湖も雨も嫌がりそうな雰囲気の悪魔が居ましたからね。クラーケンさんもその筆頭でしたが」


(上下逆さまの魚とか…あれ多分ブルーデビルフィッシュじゃないのか)

(わりと緑だったしイエローデビルフィッシュと合体してるかも知れん)

(また随分分かりづらい合体だな…まぁ合体してこそ悪魔なんだろう…)


既にクラーケンさんで学習していたティア様によって少量の海水を得てビチビチしている悪魔がぼちぼち居た。あの悪魔達はどうみても真水はダメだ。また投げ込むしか無い。



「…やはり、空気投げの完成を急がないと…」

『あれ絶対空気投げじゃないですよね』




 * * *




あとほんの数日。少しずつ少しずつ、決戦の時が近づいてくる。


準備したいことは山程あって、心配事も山程あって、本当はもう少し時間が欲しい。


しかし、ケイト様が仰っていたように、恐らくもう血の惨劇イベントは始まっていて、むしろこの短い準備時間すら待ってもらえず、いきなり重大な問題が発生してもおかしくないのだ。


今回の事件では特に学友や先生、運動や設計開発等々の授業に助けられているので、切羽詰まった状況でも結局普段通り学校に通い、そこに集まる情報の動きを得たり、頼れる皆の力を借り準備を進めるという、なんだか緊迫感があるのか無いのか分からない普通の生活を送っている。



しかし夜は違う。いや私は今までと同じく庭で手をグーパーグーパー閉じたり開いたりして空気投げの感触の鍛錬を積んでいるだけだが、隣には魔力コントロールの練習を行うティア様が居るのだ。


「ティア様、もう本番でも大丈夫そうですか?」

「はい!リミッターさえ解除しなければ!!」

『その言い方は凄く不吉です!絶対解除しないで下さい!!』


((((((楽しみだなぁ…!))))))

(よせシックス!)(期待するな!)(解除は本当にダメなんだ!)


何か着々とフラグが建設されている気がする。しかしあれはリミッター解除して真の力が発揮出来るとかではなく、風船にこれ以上空気入れたらパンクしますよという時に空気を逃がすような代物なので、言葉の感じは最高に格好良いものの実際解除したらただ破裂するだけだから、なるべく解除は我慢して欲しい。



「シャークさんは、その、空気掴むやつ、本当に魔術じゃないんですね!」

「握力です」

「わたしちょっと筋肉と魔術の違いが分からなくなってきました!」

「確かに魔力には力という文字が入ってますから、実質筋力ですものね」

「いいえ!?」


ティア様と楽しく会話しながらの鍛錬は素晴らしい。その代償にどうやらこの庭はある程度危険な事をして大丈夫な場所という扱いになったので、令嬢のお屋敷にある美しい庭というより実験施設的な妙に魔力を帯びた囲い等が増えてきていた。



「お嬢様方、一応スポーツドリンクやお菓子なども用意しておきました。いえ、その、それがスポーツ的な鍛錬なのかは分かりかねますが、一応要るのではと…」


確かに見た目で言うと私が相変わらず虚空に向かって手をニギニギしていて、ティア様はメカ箒を持ってユラユラしている感じなので、外から鍛錬に見えるかというとかなり怪しい。


「実は見た目よりかなりスポーツ的な鍛錬なので助かりますわ」

「あの!わたしはスポーツでは無く魔術的なやつなんですが!でもありがとうございます!」


メイドさんにお礼を言ってちょっと小休止し、ベンチに二人で横並びに座って水分と栄養を補給する。私もティア様もスポーツウェアなのであまり乙女のオシャレなお茶会では無いかもと笑い合って楽しい時間を過ごす。



「そういえば深く考えないようにスルーしてましたが、シャークさんの方は意識空間にサメが泳いでて喋るんですよね?」

「はい、そちらもワニが喋るようで」

「声って自分の声とおんなじです?」


「うーん、本体が私なので確かに基準は私の声の筈なんですが…聡明な3匹は何かちょっと低くて、6つ頭の方はちょっと高い気がします」


「やっぱりちょっと違うんですね!エロい方のワニがよくおば…おねーちゃんな声で奇声を発してて、女神のワニがおば…おねえさんの声で叱るから気になってて!」


「女神のワニ!?賢いのとエロいのの2体なのかと思ってましたが!?」

「まだ色々居ます!」


「あ、でも、そういえば自分の声って他の人に聞こえてる声とは違うんですよね。直接の声もですが、意識内の声はもっと幅があるので、私が私の声だと思ってても他の人から聞いたら全然違うかも知れません」


「そうでした!残念、貴重な中の声の相談出来る仲間ですけど、結局声の感じはお互い分かりませんね!」



貴重な仲間。つまりこれはティア様は私の事を特別大事な存在だと思っているという意味だ。非常に素晴らしいポジションだ。しかも、この話の流れには重大なチャンスが眠っている。


「お互いの中の声を聴く方法があったら一応試してみたいものですねー。こう、中の声を持つ者同士が心臓の辺りに耳を澄ましたり、頭をくっつけたり、意外と物理的な近さで聴こえるかも知れなかったりー」

(こやつ!!)(欲望が!!)(そして演技が下手!!!)



「なるほど!ちょっといいですか?」

「!!!!!」


勝った。今まで勝ち取ってきた信頼の積み重ねが気軽な抱きつきを誘発し、ティア様の小さな頭が私の胸の中にある。勝利の喜びで胸の高鳴りが止まらない程だ。


「打楽器みたいな音がうるさくて声どころじゃないですが!?まさかこのドンガラガッシャン鳴ってるのって心音です!?」

「意外と空気投げの練習はハードなので心拍数が上がるのです」

(こやつ!!!)(しれっと嘘を!!)



「じゃあ頭の方で!いまちょうどエロい方のワニがえぐい奇声を発してますが聴こえます?」


「うーーん、意外と聴けそうな気もするんですがすぐにはちょっと分からないですねー。もうちょっとこのままで……」


勝った。おでこに来るかとも思ったが、体を向かい合わせて首に抱きついてきての側頭部だ。座っていても私の方が基本的に背が高いので、位置関係からそうなる可能性は計算していた。


手紙のやり取りの辺りから気づいていたが、邪悪な存在以外には基本的に肯定的かつ協力的なのだ。


(今まさに邪悪と向かいあってるが!)(賢い方のワニなんとかしろ!)



「あっ、賢い方のワニがそろそろ今日の食券買いに行かないとって!」


くっ!?このタイミング!なるほど、タダで私に餌を与えているわけではないと…

(ダメだ!)(向こうは向こうで背後に何か怪しい思惑が!)


「ティア様、今日は夕食ご一緒しませんか?偶然お料理を多めに作って頂いていて、丁度お誘いしようかと」


だが甘い、こちらは既に偶然料理が多めにあるので食事に誘っちゃおうかな作戦が始動しているのだ。賢い方のワニ破れたり。一緒にご飯も願ったり叶ったり。想定内の作戦を受け流しつつこのままサービスタイムも堪能させて頂く!


「いいんですか!やったー!じゃあもう少し練習続けてお腹減らします!」


ぱっと離れて練習を再開する素早いティア様。……やられた…!賢い方のワニ…!食事に意識を向けさせた時点でサービスタイムは終了だったのだ。なのにまだ餌があるかのような見せかけだけで自然と食事確保へと私を誘導したんだ…!先に食事も誘っておけばこの横槍は入らず、まだチャンスタイムが続いていたはずなのに、隙を突かれた…!


あくまでティア様に気を遣わせる事なく、私を最大限利用する作戦の気配…ティア様のきらきらした感じを守りつつ、裏で利益だけは確保していく過保護な方針を感じる…!


(さすがに考えすぎの気もするが)

(だが間違いなく過保護の気配はある)



「あれっ!?急に賢い方のワニが高笑いを!今なんかありました!?」


(いややっぱり推測が当たってるっぽいな)


おのれ!!賢い方のワニ!!!

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