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タコの圧力鍋調理は大根とセットが良い

ハイドラさんが探知した方角へ進む内に少しずつ嫌な予感が膨らんでいた。


ティア様の心配だけでも胸がいっぱいなのに、向かう先が前に行ったことのある山中の洞窟付近だと気づいたからだ。


(これは…ほぼタコのクラーケンさんの居た洞窟に向かっているのか?)

(道中に何か起きてる様子は無かった…)

(しかしクラーケンさんはしばらく大丈夫だと自分で…)


最初は、悪魔を倒そうと気がはやったか、悪魔と関係無いトラブルかの二択のようなイメージで居たが、ここにきて悪魔がトラブルに巻き込まれたというパターンの可能性の高さに気付かされてしまった。


面識があって、若干サメと海洋生物仲間でもある存在だ。悪魔だろうとなんだろうと、こういうのはやっぱりトラブルが起きたと思うだけで胃が重い。厄介な重なり方だ。



焦りを感じながら走る中で、ケイト様への感謝の気持ちも湧いてくる。数日間コツを教わった程度でも最初にティア様を追った時とは段違いの速度が出ているのだ。焦っているからこそ、あの時より速いというのが大事な心の支えになっている。


サメの力に頼れて得意なものほど知識のアップデートが疎かだったかも知れない。武道やスポーツといった世界が何を積み重ねているか少しだけ片鱗が見えた気がして、アン先生やケイト様が持つサメとは違う力の重みに畏怖と尊敬を感じていた。



(山が見えてきたぞ)

(素晴らしい速度だった)

(これならばまだそれほど時間は…)


…だが、遠目かつ暗がりでも、ティア様が飛び出した理由がすぐに分かってしまった。山の一部が、崩れている。



「ハイドラさん、悪魔用の回復魔法って使えます?」


人間側の、ましてティア様みたいな光っぽくて強烈な回復魔法を悪魔にかけたら逆にダメージどころか即死してしまうかもしれないのだ。なんなら人相手でも強烈すぎてちょっと危険な空気が漂っていたし。


『いや自分は使えないです…それに環境が違いすぎて毒の中で治療するような行動になってしまいます…』


状況的に分かってはいたが、やはり手段の少なさが厳しい。悩みながら残り僅かの道のりを駆け抜ける。


そして、洞窟のあった付近まで来て、事の重大さに気付かされてしまう。


…薄っすらと、瘴気が漂っている。


(まだ倒されたというわけでは無い筈だ)

(ティア様があのビームを撃ったのならすぐに分かる)

(だがこれは…つまり瘴気を抑えきれない状態…)


((((((気配ふたつ!もう少し先!))))))


ここまで近づけば6つ頭のサメの感知で正確に場所も掴める。いや、最初にクラーケンさんに遭遇した時は全く感知出来なかったので、クラーケンさんは気配も隠せず瘴気を抑えきれない状態、そしてティア様は魔力を感知出来るような状態なのだ。まずい。とても、まずい。



((((((居た!))))))


洞窟のあった場所から少し離れた若干開けた所に、臨戦態勢のティア様とほぼタコのクラーケンさんが対峙している。恐らくティア様が崩れた洞窟から助け出し…どうすべきか迷っている状態なのだろう。


「ティア様ー!ストップ!ストップですー!」


とにかく、止めないと。


必死に駆け寄ろうとした所に、クラーケンさんが細い水の飛礫らしき魔法を撃ってきて、それはティア様の繰り出す防壁に阻まれる。



「シャークさん!来ちゃダメです!」

「ふはははは…!正義の使者達よ…!決着をつけよう…!」


(いかん!分かってても厄介な構図!)

(このままでは我らのせいでティア様がビームを撃つぞ!)

(攻撃はどうとでもなるがティア様の防壁はマズイ!近づけなくなる!)


これで”芝居が下手という演技が上手い”危険な悪魔だったら手に負えないが、もうそうなったら力ずくで捻じ伏せるだけだ。今はとにかく主導権を奪わないと。


「クラーケンさん、次下手な演技をしたら真水に落としてそのまま茹でます。ちょっとこう、なんか、大事な感じの話があるので、こっち来て下さい」

「ふはは…えっ怖……えっ!?我演技下手なの!?!?」


じりじりと近づこうとするが、ティア様の不可視の魔法防壁が二人を囲むように張られているらしく入れない。


「シャークさんもわりと下手です!来ちゃダメ!」

「えっ嘘!?そんな筈は!?」


ショックだ。イメージ的には抜群のトーク力でうまい感じに丸め込んで近づく筈だった。


「ハイドラさん、防壁崩す魔法とか無いです?」

『い、いや、これ多分魔法で競り合えるようなレベルでは…』


ハイドラさんは奥の手なのでこっそり聞いてみるが、やっぱりちょっとおかしな強さらしくて無理そうだ。それに今余計な魔力を使わせるわけにもいかない…。



「ふふははは!なるほどもう防壁は万全だったか!」

「うっ!」


ほぼタコの悪魔から目に見えるほど瘴気が溢れ、ティア様に向かって攻撃らしき行動を取ろうとしていた。


「ティア様!」

「もっと離れてて下さい!」


だがクラーケンさんの周囲の空間ごと巨大なワニの幻影が噛み付いていて狭い範囲から瘴気も攻撃も漏れ出せず動けなくなっている。あれはまずい。ビームに繋がる技だ。


「ふふはははは!10本あるのに手も足も出ない!強い正義の使者に滅ぼされるなら悪魔として満足だ!でもちょっとさすがに強すぎて引く!」


幻影のワニがほぼタコの悪魔を空間ごと咥えたまま空高く上がっていく。恐らくクラーケンさんは意図的に瘴気を出していて、演技か否かに関わらずもう放置は出来ない状況になってしまっている。ダメだ…これは、ダメだ。


(あのビームを撃つなら今の防壁は上が開いてる形だろう)

(こうなればまず奪い取るぞ。時間のかかる説得は後だ)

(万全とは程遠いが、もう次は無さそうだ。今やるぞ)

((((((上空は何も無い!))))))



周囲が暗くて表情がしっかりと見えないが、ティア様はクラーケンさんを海水運搬と洞窟崩落救助で2度も助けている。そのうえで倒すなんて、そんなの嫌に決まっている。今慌てて撃とうとしているのは、きっと、ここに私が居るからだ。そういうのは、絶対ダメだ。


準備不足は否めないが、今、やるしかない。


ティア様が剣と杖を地面に刺して、空いた両手を上に向ける。

私の両手が空を掴む。やはり上は壁も空いていて…幻影のワニに風が当たる感触がある。いける。


「撃ちます!ごめんなさい!」

「ふふふははは!逆だ、感謝、感謝だ正義の使者達!ありがとう」


私は悪なので、そういう流れはスルーさせて頂く。悪は、こういうのぶち壊しちゃっていいのだ。


光が凝縮していくような恐ろしい気配がティア様の両手に集まっていく。

空気が凝縮していくような感覚が私の両手に集まっていく。先に動く!



「奥義!空気投げーーー!!!」

「必殺!マジカル断空ビームキャ…ノン!?」

「ふは…はぁーーー!?!?!?」

『!!?!?!?』


美しい投球フォームでぶん投げられた巨大な圧縮空気の塊がワニの幻影に激突してクラーケンさん諸共吹き飛ばす。予想外の出来事にティア様のビームは中途半端な大きさで放たれ、クラーケンさんが吹き飛んだ後の何もない虚空を貫く。


「な、何が!?何してるんです!?」


珍しく慌てふためくティア様。


「どうですか、巨大なサメの幻影を伴う程の全力の握力で握り固めた、空気の全力投球。即ち、空気投げです!クラーケンさんは貰っていきます!」


「空気投げって絶対そういうのじゃないです!?!?!」



驚きで反応が遅れているティア様の隙を付き、吹き飛ぶクラーケンさんに追いついて飛びかかり周囲の空気ごと圧縮して掴んだまま走り出す。


「ぐえええ!!つ、潰れるーーーー!?」

「瘴気出すからです。ちょっと我慢して下さい」


まだ準備不足な為、空気投げは未完成であり、ちょっと力加減が怪しいのだ。わりとクラーケンさんは軟体動物なので圧力に負けて段々凝縮されていってる気もする。


「ハイドラさん、準備して下さい」

『は、はい、あの、その、それ原理どうなって…』

「握力です。この際ですから可能な限り圧縮して有利な条件でいきましょう」

『握力…!?』


と、やはり知ってるのかハイドラさんの名前にクラーケンさんが反応する。


「ふ、ふは、ハイドラ!?ハイドラさんが居るんですか!?」

『クラーケンさん、本当に申し訳ない。必ず、必ず助けます』

「気持ちだけでも本当に嬉しいが、一体どこに…」

「この鎧と尻尾がハイドラさんです」

「何言ってるんです!?!?」

『必ず助けたいが、どちらかといえば助けて欲しいとも思っている』

「だ、誰かーー!正義の使者ーーー!!」


さっきまでの何か潔く倒されてやろう感はどこにいったのか。悲鳴を聞きつけて本当に正義の使者も追いついて来てしまう。


「シャークさん!待って!本当に危ないんです!というかその、それ、空気!?どうなってるんです!?」


「後でお話しますが、とりあえず今はクラーケンさんを地獄に投げ込もうと思うので、サポートしてください。失敗したら真水に放り込まれて間違いなく滅ぶので、瘴気を防ぐサポートを」

「助けてぇぇえ!?」

『すまない…すまない…』

「うわ!?尻尾喋ってますが!これハイドラさん!?」



他の万全な策を準備出来なかった以上、このティア様が冷静な判断出来ない内に無茶を通すしかない。


((((((やるぞ!ヒーローだー!))))))

(……うーーん…)

(いや…どうかなぁ…)

(ダークヒーローのヒーロー抜きというか…)


サメの心も多数決で言えばほぼ一つになっており、一致団結でこの危機を乗り越えヒーローになる感じになっていた。

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