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秘技伝授マスターゴリラ

繰り返し鍛錬を積ませて頂いてきたアン先生の授業。


心・サメ・技・体、即ちタイフーンはこの授業によって大きな変化を迎えようとしていた。というか大きくなっていた。サメが。


「下段、下段、そして下段。例え自分の体より遥かに大きな攻撃であろうとも、下段は下段。足元は足元。足元がお留守かは必ず問われるのです」


「パリィ、パリィ、パリィ。私の中の9つのサメが9打同時でも見張りを怠る事はありません。例え頭上から降る下段であっても」


明らかに巨大化したアン先生から繰り出される乱打を、私の手の回転から生まれる巨大化したサメの幻影が捌く。ジャイアントシャークパリィだ。もはやこの道場に収まる大きさでの攻撃なら私のパリィをかいくぐる攻撃は無い。


もっとも、アン先生の本気の大きさが実際はどこまで行くのか分からないし、他のご令嬢方も慣れたもので巨大な拳と巨大なサメの隙間をヒラヒラと蝶のように舞っては避けて鍛錬を研ぎ澄まし、中には仁王立ちで全てを喰らい続ける懐深き母性の乙女もいる。まだまだ鍛錬の道は長く、そもそも進化を続け完成しないのが令嬢武術なのかもしれない。



「時にアン先生、瘴気へのマッスル対抗策やホラー撲滅拳に心当たりは無いでしょうか」


「一つ。瘴気へのマッスル対抗策はあります。二つ。ホラーは良いものです。私の本棚には武術の本よりもSFとホラーのほうが多いのです」

「まぁ!素晴らしいですわ!」

((((((あれっ!?エレン様がどっかに居る!))))))

(声が聞こえる状態でシックスが場所を探知出来んのか…)


「くっ…!二つ目は諦めるのでどうか瘴気へのマッスル対抗策をご教授頂きたく…」


「ふむ。本来なら単に瘴気から身を守り離れるすべを伝えるべきですが、どうやら退けない想定の様子。私にも覚えがあります。であらば少しコツをお伝えしましょう。皆様も護身と教養の一つとして学んでみて下さい」



一瞬姿が消えたと思ったら、道場の中心に校庭の砂を両手いっぱいに掬ってきたアン先生が突如現れる。


「では参ります」


ぶわっと砂煙があがり、アン先生が砂を大量にもったまま手を打ち付けたのだと認識した瞬間、ぐにゃりとなんだかよく分からない現象が発生し砂煙が消える。


((((((え!?何!!?))))))

(なんだ!?)(なにかの術か!?)(何も見えんかったぞ!?)

「あら…?」「まぁ…?」「ぬううう…!?」


謎の現象にサメもご令嬢方も皆ざわつく。何が起きたのかさっぱり分からないが巻き上がった砂は再びアン先生の両手の上にあった。


「おや。久々で少し力んで速く動きすぎたようです。もう一度わかりやすくゆっくり動くので、よく見ていて下さい」



再びぶわっと砂煙が上がった瞬間、アン先生が数歩離れた位置に現れる。そして砂煙の方へスッと手を差し出すと、グッと何かを掴みぐにゃりと空間が歪んだように煙の形が変わる。


(!?)(見えてもよく分からんが!?)(魔術!?)


手を大きく回転させるような体捌きに合わせて更に砂煙は形を変えて圧縮されていき、砂の塊になって地面へと落とされる。全ての落ちた砂を先生が手で掬って、元通りだ。


何がどうなったのかはさっぱり分からないが、あの動き自体は見覚えがある。掴んで、大きく崩し、地面に落とす。


「まさか、投げですか?」

「そう。空気投げです」

(空気投げはそういう技じゃないぞ!?)

(本当に空気を投げてしまったのか!?)

(これ魔術じゃなく技なのか!?)


ざわめく道場の皆様とサメ。空気を投げたので間違いなく空気投げだが、聞いたことのあるいくつかの空気投げと、その、ちょっとだけ概念が異なる気がする。


「あの、空気を掴んでたように見えたのですが…」

「はい。それがこの技の要。つまり握力です」

((((((なるほど!筋肉!!))))))

(なるほどじゃないが!?)


「なるほど、筋肉」

「そういうことです」

(どういうことです!?)(我らだけ置いていくな!!)



「握力を鍛えたら握る力が増すのは当然。握る力が足りていれば握れるのが当然。それが空気であろうと概念であろうと。よいですか、技は力を活かすもの。まず全ては筋肉から。食事と、鍛錬と、休憩が、やがて大きな力となり、大きな技へと繋がるでしょう」


「はい!」「はい!」「はい!」


道場に元気な返事がこだまする。一つ重大な教えを得た。はたしてあれほど完璧な崩しと投げを習得しきれるかは怪しいが、技の会得が成らずとも掴みさえすれば。それだけならば間に合うかも知れない。



「アン先生に教えて頂くべき内容がもう一つ出来たかもしれませんわシャーク様」


授業の終わりと同時にいつのまにかエレン様が居て、何かに気づいたらしくメモ帳片手に情報を分けに来てくれる。


「先程、瘴気から退けない話に対し”私にも覚えがある”と仰っていました。単にそういう似た状況に覚えがあるという意味かも知れませんが、もしかしたら本当に覚えがあるのかも知れません」


(確かに)(そういえば言っていた)(他が衝撃すぎて記憶が…)


「なるほど…なるほど、確かに。すぐ対策を教えてくれたのは何か思い当たるものがあるのかも知れません。ありがとうございますエレン様。放課後伺ってみますわ」


「私も参ります。もしかしたら私の持っていないホラー小説を所有されてる可能性も出てきましたし」

「うっ…!?」


「それに、ホラー好きの延長に過去のオカルト知識もあるかも知れません。さすがは森の賢者たるマスターゴリラ、アン先生から得られる情報の期待値はとてもとても高いですわ」


「あの、できれば、ホラー好きの延長じゃない、なんていうかあまり怖くないオカルトのほうが私としてはとても助かると言うか…」


「なんせ実際に悪魔が出てきたオカルトですから、きっとすごくすごくホラーですわ…!」

「ううっ…!」



重要な知識を得たらさらに重要な知識を得るチャンスまでついてきた。これ自体はもうとんでもなく有り難いのだけれど、その過程でエレン様のメモ帳に危険なホラー情報が急激に増えている気配が有る。解決を急がなくては…!


明日明後日は土日で午後ローが無いのでサメの更新もない。

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