もんもん☆萌える哲学者
今はシラーラの魔力が向上しているかの試験の真っ最中。
なにやら大きな炎を操っており、ヒトくらいの大きさの木材が燃えていた。
「こ、この炎の魔法は……! 私を超えているではないかっ!?」
超えられた、という感覚はなさそうだった。
アシェラさんは歓喜に打ち震えている。
そんなことよりさぁ、可愛いねとか似合ってるねとか言えないのかね?
出来上がった白いシルクのドレスを身にまとったシラーラは、それはもうどこに出しても恥ずかしくないお嬢様だった。
髪はカチューシャをつけただけで、ロングのストレートに。
靴は白い革のサンダル。
このシンプルな服装が似合うのは、ホンモノの気品があるからだ。
普段は多少食い意地が張っているが、今はお姫様のように見えるぜ。
「す、凄い……これが私の魔力……!?」
シラーラも自分の魔力のほうにしか興味がなさそうだった。
おいおい、それでも女の子かよ。
無茶苦茶可愛いのに、なんかもったいないんだよな。
もったいない……。
なんか前にもそういうことあったな。
すると、若干炎が弱まった。
「ん? なぜだ? なんか弱まったな」
アシェラさんは首を傾げる。
それを受けて、焦ったのかシラーラは苦い表情になる。
炎はさらに弱まった。
ふ~む。
なんつーか、俺の気持ちが萎えると、魔力も落ちるよね。
つまりは萌えないと燃えない。
ぷっ、これは受けるな。
「おい、笑い事じゃないぞ」
アシェラさんは低い声でそう言うと、俺を睨んだ。
ひええ。
美人ににらまれるのは嫌いじゃないが、ちょっと怖い。
「シラーラ~、後で美味しい虫をやるから頑張れ~」
俺は適当に応援した。
「そ、そんな、た、食べ物なんかでつられませんからっ!?」
一瞬、よだれをたらしそうな顔を見せた後、顔を横に振る、シラーラ。
やっぱりクイデレだな。
そういう顔の方が、らしくていいぜ。
すると、突然火が燃え上がった。
「なんだ? ユーイチの一言で魔力が倍になったぞ?」
アシェラさんが刮目する。
シラーラも驚きの表情を見せた。
う~ん、ひょっとしてマジなのか?
マジで、萌えると燃えるのか?
「どういうことなんだ?」
アシェラさんの疑問はもっともだが、こちらもよくわかっていない。
ただし仮説はもう俺の中にある。
身なりを綺麗にしたり、似合う服装に着替えたり、個性的なセリフや表情を浮かべる。
そうすれば女の子は可愛さを増して、萌える。
それに連動して魔力も強くなる……馬鹿げているが、そもそも魔術がなんだかわからないからな。
「どうやら萌えが大事っぽいですね」
「萌えとは、なんなんだ? 植物が芽吹くことか?」
「ん~、自分が研究しているテーマですが、女性の魅力が発揮できていること、ですかね」
うまく説明できん。
萌えは、個人的な感情だが、共通した概念でもある。
美人というビジュアル的な感性に左右されやすいものよりも、遥かに共感を得やすいだろう。
ドジっ子メイドって萌えだよね、とか。
金髪ツインテールのツンデレって萌えるよね、とか。
新しい萌えの概念を確認しては、新しい属性を発掘していく。
萌えとは何か、それは我々にとっては哲学なのだ。
人間は何処から来て、何処へ行くのか。
正義とはいったい何なのか。
宇宙はどうなっているのか。
神は存在するのか。
そんなことより一番大事なことが、萌えだ。
萌えを至上命題にしていることに誇りを持とうじゃないか。
そういう意味ではこの世界は正しい。
魔術というこの世界において一番重要な要素が萌えの研究によって進化するというのだ。
科学研究によって科学力を高めている今までの世界のほうがどうかしている。
そんなこと勉強して何になるっていうんだ。
「自分は確信しました。萌えがこの世界を変えると……」
悟りを開いてしまった俺に、一瞬躊躇した後、アシェラさんは口を開いた。
「わからん、わからんが、ユーイチはつまりわかるんだな? 魔力を上げる方法が、いや、彼女たちをより萌えさせることが」
アシェラさんは真剣な顔で俺を見つめる。
言ってるセリフは随分とアレだが、どうやらマジらしい。
俺は、炎の照り返しでオレンジ色になっているシラーラを見ながら、言った。
「はい」
アシェラさんは俺の肩に手を置いて頷く。
「よし、ユーイチ、今日から君は魔術師学校の教員だ。喜べ、国家公務員だぞ」
……え?
これがこの前言っていた処遇ということか。
俺が、教師?
育成ゲームではやったことがあるが……。
「自分が魔術を使えないのに、教員になんてなれるんですか?」
そう、俺はそもそも魔術なんて出来るどころか理解すらしていないのだ。
教えるなんてとんでもなかった。
アシェラさんは事もなげに言ってのける。
「なぁに、戦場で人も殺したこともない人間が戦争を教えてるんだ、大して変わらんだろう」
そうかなあ。
剣を教える人は、さすがに剣を扱えるんじゃない?
でも、音響監督だってアフレコが上手なわけじゃないし、いっか。
「シラーラはまだ成長できるのだろう? 君のクラスの生徒として入学させよう」
シラーラをこのまま奴隷に戻すなんて、それこそもったいないからな。
ダメ押しとばかりに、アシェラさんは俺の肩に手を回して耳元でささやく。
うう、そういうことされると好きになっちゃうからやめて欲しい。
しかし、そのセリフの内容は更に魅惑的なものだった。
「魔術師学校は10歳から14歳の乙女ばかりだ、全員萌えるようにしてやってくれ。それが君の仕事というわけだ」
「やりましょう」
俺たちは固く握手を交わした。
なんという天職。
そんな理想的なお仕事がこの世にあるなんて、いや、今いるのがこの世なのかどうかはわからないが……とにかく素晴らしい。
俺とアシェラさんは手を握ったまま、シラーラの魔法によって燃え盛る木材を見て笑った。




