もぐもぐ☆ヒアリング
「私はですね」
がぶっ、むぐむぐ、んぐんぐ、ごくん。
「シラーラと申します」
知ってるよ!
「えーっと」
がぶっ、むぐむぐ、んぐんぐ、ごくん。
「この施設で働いております」
それも知ってるよ!
俺はさすがにしびれを切らして質問する。
「生まれてからこの施設で働くまで、何があったのかな」
ちゅぴ、ちゅぱ。
シラーラは指についた脂を舐めてから、話し始める。
「私は両親もわからない捨て子でございます。シラーラと言う名前の書かれたペンダントだけを持って川を流れているところを拾われました」
なぬーっ!?
それってなんか王族の赤ちゃんが戦火を逃れるために脱出させたお姫様っていうやつな気がする!
いや、そうじゃなくてもそれに近しいパターンだと思う!
だって、シラーラは凄く上品というか高貴な感じがするんだよ。
人の食い残しの鳥の骨なんかしゃぶってる場合じゃないんだって。
「その村はとても貧乏で、食べるものが本当に少なくて、虫をよく食べていました」
虫を……そうか。
俺は額に手を当ててかぶりを振った。
「いつか、いつかお腹いっぱい虫を食べたいと思っていました」
そこは虫じゃなくて良くないかな。
好きだったのかな、虫。
「10歳になりまして、私は口減らしとしてこちらに奉公に来た次第」
落語の人情話みたいだな。
苦労してるなぁ。
「炊事係になったところ、皿舐め女というあだ名を付けられ、すぐにお役御免になりました」
まじで食いしん坊だな。
意地汚すぎて萌えないけど。
ぱくぱく、もぐもぐ。
また、肉を食い始めてしまった。
よく食うなあ。
ごくん。
「そして洗濯係になりまして、しばらくお勤めしました」
そうかい。
今回の事態はなんでそうなったんだろう。
「どうして、貴族の服なんて着たんだ?」
そう言うと、少し恥ずかしそうな顔をした。
「派手な服を着て魔法を放つのを見ていて、私も出来るのではと思ったのです」
んー?
魔法少女に憧れてるってことか?
なるほどなあ。
俺も憧れる気持ちはわかる。
しかし、この娘に似合う服ってのはよーくわかった。
これはもうプリンセスだろ。
白いドレスに、ティアラ。
これしかないな。
そう思ってる俺の目の前で、シラーラは骨をばきばきと折って軟骨にかぶりついていた。
似合うと言えば似合うのだが。
ようやく食い終わってくれたシラーラを連れて、衣服室と呼ばれる場所に行く。
室長の女性に俺の要望を伝えた。
「……そんなのございませんが」
そりゃそうか……。
周りを見ても、ドレスなんて有りはしない。
作業着か軍服か、そういった実用的な服ばかりだ。
「姫様の服を借りれないかな」
「……正気ですか?」
借りれるわけがなかった。
うーむ、どうしたものか。
とりあえずアシェラさんに会いに行くことにした。
「あぁ、アシェラさん」
「どうされましたか」
「あのですね、お姫様みたいな白いドレスを着せたいのですが」
「……姫は豪華絢爛な黄金のドレスを着ておられるが?」
「……白いドレスは誰がお持ちで?」
「見たことはないな」
ガアッデム!
文明の違い!
清楚なタイプのお姫様がいないんだ、この世界には!
なんてこった、他に似合う服を探すのか?
そりゃなくは無いだろう。
しかしなあ……。
こめかみを揉みながら悶絶している俺を見かねて、アシェラさんが口を開いた。
「わかった、わかった、お金は出すから街の仕立て屋に行ってこい」
仕方ないから、お前のワガママにつきあってやるよというような物言いだった。
もともとアシェラさんのワガママに付き合ってるのが俺だったような気がするが。
まぁいいさ、俺は紳士なのだ。
アシェラさんにグチグチ言うようなことはすまい。
シラーラと共に街に出かける。
香ばしい匂いがすれば立ち止まり、甘い匂いがするたびに腹を鳴らした。
どんだけ食いしん坊なのだ……。
結局仕立て屋に入るとき、彼女は麺をすすりながら入店した。
当然店主は唖然としていたが、腕章を見せて黙らせた。
俺はキャラクターを重んじるタイプだ。
これは彼女の重要な萌えファクターとして扱うことにする。
一応俺の求めてるいるドレスはシンプルなデザインなので、作れないことはなさそうだった。
シラーラは丼を持ったまま採寸。
白のシルクのドレスを注文し、4日ほどで完成するという話がついた。
さて、ティアラか。
アシェラさんも、宝石を買うお金はくれなかった。
なんとなしに人が群がっている市場に向かう。
なんかあるんじゃないかという期待があった。
そして、シラーラは当然の如く、棒に刺さったヤモリのような爬虫類の串焼きを所望した。
しばらくうろうろしていると、カチューシャのようなものを見つける。
黒いけど、ただの黒じゃなくて鈍い宝石のような黒だった。
黒曜石? じゃないかもしれないが、ルビーやエメラルドの黒いバージョンという素材。
これはこれで有りかも?
シラーラにつけてみると、おお、似合うじゃないの。
幼馴染でお節介焼きの学級委員みたいな感じだよ!
……口から爬虫類の脚が出てなければ。
眼鏡も似合いそうな気がしたが、爬虫類の腸にかぶりつくのをみて、嘆息した。