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恥4

恥編は一応ラスト。

「慎治、エイプリルフールよ。今から嘘つくわよ」

「ほう、宣言しちゃうか」

現在、すっかりお気に入りの店となった「ベクターコーヒー」でそんな話をする。

現在時刻は四月一日の午後十一時四十五分。エイプリルフールは午前中だけというがお構いなしに、彼女は嘘を口にする。

「……結婚して」

「お、わかったぞ、嘘だな!」

「あははー、なんでわかったのー」

気持ちが全く入っていない乾いたやりとりとなる。先にエイプリルフール宣言されたら、当然ながら驚くこともなく、淡々と受け流すほかない。

「あ、じゃあ俺も嘘吐こうかなー」

慎治は緊張していた。心臓がいつもよりも早く波打ち、体中が熱くなる。しかしここでためらってはいけない。何の気もなしに、という感じに。呼吸をするかのように、嘘を吐く。


「……別れよう」


――声は低めに、本気っぽく。ここまで真剣な表情で、目を見て嘘を吐かれたら、嘘とは言えど本気にしてしまうに違いない。

「あら、嫌な嘘ね。センスあるわ」

「……」

あれ、予想以上に動じない。というか、動じていない。この作戦は、彼女が同時ないと始まらないのだが。どうしたものか。

しばらく、俺は彼女を見つめていた。しかしながら、彼女は涼しい顔をしながらコーヒーをすする。「熱っ」と言ってすぐにテーブルにマグカップを置く。

「……」

「……」

少しばかりの沈黙。もう、種明かししてしまった方が良いのではないか? 正直なところ、彼女が怖く思えてきた。なぜ動じないのだろうか。

「……慎治、あの」

「ちょっと待て、忘れてた」

彼女の言葉を遮る。緊張感をリセットするために、話題を変えよう。

「そのTシャツはなに?」

「なにって、桜のTシャツよ」

「いや、だからって本物の花びらをつけるのはどうかと思うよ。茶色くなっちゃってるし」

彼女のTシャツ一面には茶色く変色した桜の花びらが敷き詰められていた。虫が湧きそうだ。

「そんなことはどうでもいいの! 早く!」

彼女がテーブルを叩く。今までにない表情。泣いている……?

「別れるって何? 本気? 嫌よ! 慎治が嫌なら……我慢、するけど……、でも、じゃあ、理由、を、教、えてよ……!」

とうとう泣き始めてしまった。動揺したということだろうか。まあ、作戦につなげられる。そんな風に考えている自分が、最低なやつだと少し感じたが、いい。

左ポケットから小さな箱を取り出す。開いて、中身が見えるように机に突っ伏している彼女の前に、そっと置く。

「悪かったな、嘘吐いて」

時刻は、午後十二時――四月二日、午前零時。

「結婚してください」


「……」

「……ふふっ」

彼女が突っ伏した状態で、笑った。

「ふふふっ、わかりやすいわね、慎治」

慎治は泣いていたとばかり思っていたので、驚いた。涙など流れておらず、今までのことが演技であったと分かる。

「慎治、ずっと左ポケット、気にしていたわよ。バレバレ」

慎治は箱を無意識のうちに弄っていたのだ。それが彼女に見えていたということだ。

「えー……一世一代の大勝負、ってやつだったのになー……そんな風に言われちゃうとは……」

「頑張ったわね、『あなた』」

「!」

「ふふふ、うれしいわ、ありがとう」

マスターの粋な計らいだろうか。店内の照明が、少し落とされている。いい雰囲気という奴だろう。俺は、彼女を見る。

「……」

「んー、ウインナーコーヒー、美味しいわ……なに? あなた」

彼女はウインナーコーヒーのタコさんウインナーを食べていた。呆れて物もいえない。

まあ、今日は、いいか。

彼女が指に指輪をつけた。「ぴったりだわ」と言っている。ただ一つ、言いたいことは……。

「指輪ってどの指につけるんだっけか? 知ってる?」

「中指よ、常識よ」

そういって、左手の中指だけを立てた状態で、こちらへ向けてきた。

「ぎゃぁぁ、やめて! こっちに向けないで! 指輪は薬指!」

俺は彼女に中指から指輪を取ると、薬指に嵌めた。

「あなた、次は結婚式よ。頑張ってね」

「お前も頑張るんだよ! ウエディングドレス選び!」









ハッピーエンド……?

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