Dream.31 赤く染まる空 〈1〉
十二暦家との戦いから一ヶ月。月の出一族もようやく落ち着きを取り戻し、夢喰の出現が減ったこともあって、朝海たちは穏やかな日々を送っていた。
そして季節は出会いの春から梅雨を越え、夏へと向かいつつあった。
とある平日の朝、赤槻町の小さな喫茶店“Tomo”。
『バイトを募集する?』
それぞれに学校に行く支度を整えた朝海と茜が声を揃えて問いかける。二人の視線の先には、マジックペンを片手にカウンターに腰掛けて、アルバイト募集の貼り紙を作っているトモの姿があった。
「なんでまた急に」
「前から考えてはいたんだよ。学生の朝海に、いつまでも夜遅くまで店手伝わせてるわけにもいかないしさぁ」
貼り紙に文字を書きながら、トモが朝海の問いかけに答える。
「それにほら、朝海も来年には受験だろ? そろそろ勉強にも身を入れないと」
「受験、か」
トモの言葉にすぐさま視線を落とす朝海。受験を憂鬱に思っているというよりは、受験をする自分の姿が思い浮かばないといったような表情だった。朝海のその表情に視線を移したトモが、少し困ったように肩を落とす。
「自分には縁ないとか思ってちゃダメだぞぉー。来年なんてすぐ来るんだからな」
左手を伸ばしたトモが、朝海の額を指で弾く。
「けど、朝海クンが勉強出来ないほどお客さんが多いってわけでもなくない? むしろ毎日二、三人しか来ないし」
ずっと二人の会話を聞いていた茜が、首を傾げながら口を挟む。
「そうなんだよぉ。トモさん特製カフェオレだけじゃきついから、すっごく美味しいパスタとかオムライスとか作れるバイトさんを雇って、客を呼び込もうと思って」
「何て他力本願なの……」
明るい笑顔で答えるトモに、茜が呆れた表情を見せる。
「美味しいパスタとかオムライスとか作れる上に美人なら最高だよねぇ」
「うん。美人がいい」
「バッカみたい」
口を揃える朝海とトモに、茜は益々呆れ顔となる。
「あ、もうこんな時間じゃないの。ほらほら、学校行った行った!」
『行ってきまーす』
トモに送り出され、朝海と茜が慌ただしく喫茶“Tomo”を後にしていく。
「うん」
二人の出て行った扉が閉まり、満足した様子で頷きを落とすと、トモは再び貼り紙作りに取りかかった。条件のところにパスタ、オムライスが美味しく作れる方、出来れば美人など、様々な内容が書かれていき、アルバイト募集の文字よりも目立っていく。
「こんなもんかなぁ」
作り終えた貼り紙を持ち上げ、少し遠目から確認して笑顔を見せるトモ。すぐに貼り紙の四隅にテープを貼って、トモが店の外へと出る。閉めた扉のcloseの看板のすぐ下へと、作ったばかりの貼り紙を貼る。
「よし、出来た」
「あの」
「はい?」
一仕事終えた様子で額を拭ったトモが、すぐ傍から聞こえて来る声に振り向く。
「そのアルバイトって、今すぐ応募しても大丈夫ですか?」
トモが振り向いた先に立っていたのは、半袖の白シャツに水色の短パンから長く白い足を惜しみなく出した、二十代前半くらいのまだ若い女性であった。緩いウェーブのかかったショートカットの短髪の、少し赤みがかった茶色の瞳。吊り目の顔立ちは気が強そうに見えるが、なかなかの美人である。
その女性の姿を見た途端、トモが驚いたように大きく目を見開く。
「綸音……」
トモが口にしたその名に、女性は戸惑うようにそっと首を傾げた。
赤槻高校、二年A組。
「おっはよ、灯子ちゃん」
遅刻ギリギリのところで登校した晃由が、焦った様子もなく余裕で手を振りながら灯子のすぐ横の席へと腰掛ける。満面の笑みを向ける晃由を気にすることなく、灯子はあっさりと視線を窓の外へと移した。
「んもぉ~、土日挟んだ週始めだからって冷たいなぁ」
「心配するな。週終わりでも親しくはならない」
拗ねたように言い放つ晃由に対し、灯子がクールに言葉を返す。
「ホームルームを始めますよ」
教室の扉が開くと、A組の担任である眼鏡を掛けた三十代半ばの女性教師が姿を見せた。
「えー、今日は皆さんに転校生を紹介します」
「転校生?」
「こんな時期に?」
女性教師の言葉に、一気に騒がしくなる教室内。ずっと窓の外を見つめていた灯子も、さすがに興味を引かれたのか教室の前方に視線を移した。
「入って、火浦君」
「へぇーい」
やる気のない声と共に教室に姿を見せたのは、両手でゲーム機を持って、夢中になってゲームをしている小柄な男子生徒であった。裾の無駄に長い緩めのズボンに、大きく着崩したジャケットと首元の開いたシャツ姿の何ともだらしない、見た目で一つも整ったところのない青年である。赤く染めた髪は頭の半分が刈り上げられ、もう半分は長髪にして編み込んでいるという何とも奇抜な髪型だ。鎖のように長いピアスを右耳にだけしている。
「うわぁ、ひでぇ~」
思わず絶句するクラスメイトたちの中、晃由が思ったままの言葉を口にする。
「校則って概念ねぇのかね」
「金髪にピアスだらけのお前が言えたことじゃないだろ」
「そうは言うけど灯子ちゃん、俺のはオシャレだけど、あいつのんはどう見てもオシャレではないよぉ?」
灯子の鋭い指摘に、晃由が転校生を指差して主張する。
「ゲームは止めて自己紹介して、火浦君」
「へぇ~い」
女性教師の言葉にやる気なく返事をした火浦が、ゲーム機を閉じて皆の方を見る。
「火浦 紅樹でっす。よろしくぅ~」
口調もダルさ全開で短く自己紹介を行った火浦が、すぐにまたゲーム機を開いてゲームを始める。その様子にクラスメイトたちはさらに絶句し、女性教師も注意する気力すら失った様子で深く頭を抱えた。
「じゃあ席はそこね。廊下側の一番後ろ」
「へぇ~い」
教えられた席へとゲームをしたまま向かっていく火浦。その様子を晃由と灯子が目で追う。
「席遠くて良かったね」
「お前みたいに無駄にしゃべらないだけ、あいつが隣の席の方がマシかもな」
「えぇ~? 冷たいぃ~」
灯子の容赦ない言葉に口を尖らせる晃由。
「……っ」
そんな二人へと、火浦はゲームをしながら横目でそっと視線を送った。
その頃。赤槻高校、保健室。
「浅見先生、ちょっといいですかな?」
「あ、はい」
ノックの後、保健室へと姿を見せたのは少し禿げ上がった頭が目を引く小太りの中年男。この赤槻高校の教頭であった。教頭に呼ばれた曜子がすぐに作業を止め、開いた扉の方へと向かっていく。
「教頭先生、何か?」
「実は今日から新任の先生が一人入りましてな。紹介だけさせていただこうと思いまして」
「新任? こんな時期にですか?」
「理科の佐々木先生が産休に入られるんで、その代わりですよ」
「ああ、成程」
教頭の答えに曜子が納得したように頷く。
「水鳥先生」
「はい」
教頭が廊下に向かって呼びかけると、外から教頭の横に並ぶようにして白衣姿の女性が保健室へと姿を現した。長い艶やかな黒髪をなびかせた、細身で背の高い女性だ。年は曜子と同じ二十代半ば頃であろうか。知的でよく整った顔立ちが白衣姿とよく似合っている。
「水鳥 朱未です。二年の理科を担当します。よろしくお願いいたします」
「あ、養護教諭の浅見曜子です。よろしくお願いします」
丁寧な自己紹介を見せる水鳥に、曜子も焦った様子で慌てて頭を下げる。
「浅見先生って、お幾つですか?」
「二十七です」
「あ、やっぱり。同い年だわ」
曜子の年齢を確認した水鳥が、嬉しそうに胸の前で両手のひらを合わせる。
「今度一緒にご飯とか行って下さいません? 私まだこっちに知り合いが少なくて」
「ああ、勿論。いいですよ」
「ハッハッハ、いいですなぁ。若い方は。私も混ざって食事に行きたいものですよ」
曜子と水鳥の会話を聞いていた教頭が、少し羨ましそうに言葉を挟む。
「では水鳥先生、次に行きましょうか。お邪魔しましたな、浅見先生」
「あ、いえ」
「では、また」
「はい」
最後にしっかりと視線を合わせると、水鳥は教頭と共に保健室を去っていった。廊下を歩いていく二人の背をしばらく見送った後、曜子が保健室に戻って扉を閉める。
「あの人、どっかで会ったことあるような……」
水鳥の姿を思い返し、曜子が静かに首を捻る。
「気のせい、かな。さ、仕事仕事」
切り替えるようにそう言うと、曜子は再び机の上の書類と向き合った。
その日、午後。
「ただいまぁー」
喫茶店の扉を開けて、茜が学校から家へと帰って来た。
「いらっしゃいませ」
「え?」
店に入った茜を出迎えたのは、エプロン姿の見慣れない美女であった。
「だ、誰?」
「あぁー、茜おかえりぃー。薦那ちゃん、その子が茜。俺の娘ね」
「せんな?」
カウンターから顔を出したトモが、当たり前のようにその美女に話しかける。トモが口にした美女の名らしきものを繰り返して、美女へと戸惑いの視線を送る茜。
「よろしくお願いします、茜ちゃん」
「……っ」
笑顔を向ける薦那と目が合った途端、体の奥底から込み上げる何かを感じ、茜が一気に不安の表情となる。
「トモさん、この人っ」
「たっだいまぁ~!」
茜がトモへと言葉を向けようとしたその時、再び店の扉が勢いよく開くと、眠る朝海を担いだ晃由が大きな声を響かせながら店の中へと入って来た。晃由の後方には硝子と灯子の姿もある。
「お宅の荷物、運んで来ましたよぉ」
「おお、いつもご苦労さん」
朝海を担いだ晃由に、トモが笑顔で声を掛ける。
「いらっしゃいませ」
「へ? って、すっげぇ美人!」
晃由が薦那に気付き、驚きの声をあげる。
「ん、美人?」
晃由の美人の言葉に素早く反応し、深く眠り込んでいたはずの朝海がすぐに目を開く。目を開いた朝海は晃由に担がれたまま店内を見回し、すぐに薦那の姿を発見した。
「いら、っしゃいませ?」
朝海から向けられる視線に困惑の表情を見せながらも、薦那が朝海へと言葉を向ける。
「うん、美人だ。ぐぅー」
「また寝るのかよ」
満足げに頷いた後、再び眠りに入る朝海に、灯子が呆れ果てた様子で肩を落とす。
「薦那ちゃん、あの馬鹿みたいに眠ってるのが俺の甥の朝海ね。後の子は朝海の友達の子たち」
「薦那ちゃん?」
薦那に朝海たちのことを紹介しているトモを見て、晃由が不思議そうに首を傾げる。
「トモさん、その人は?」
「ああ、こちら中澤薦那ちゃん。近くの大学の三年生で、今日からウチでバイトしてくれることになったんだ」
「よろしくお願いします」
トモの紹介に合わせて、薦那が皆へ深々と頭を下げる。
「バイトって、もう決めたの?」
「ああ。それが貼り紙貼った途端に薦那ちゃんが声掛けて来てくれてさぁー。見てよ、この料理の数々。全部薦那ちゃんが作ってくれたんだよ?」
トモがカウンターに並んだパスタやオムライス等の様々な料理を両手で指し示す。どれも見るからに美味しそうである。
「全部めちゃくちゃ美味しいし、これだけメニュー増やせればお客さんも増えること間違いなしだ! しかも美人だし言うこと無し! トモさん、即決しちゃったよ。アハハハ!」
「まぁ即決理由の九割は美人だな」
楽しげに笑い声を響かせるトモに、晃由が少し呆れた視線を送る。
「あ、ほんと美味しい」
「ありがとうございます」
オムライスを一口食べて幸せそうな笑顔を浮かべる硝子に、薦那がまた深々と頭を下げる。
「大学生って、そんなに暇なのか?」
「今はもう試験前で講義も少ないですし、試験中だけお休みいただければ後はずっと夏休みですから」
灯子の無愛想な問いかけにも、薦那は笑顔で答える。
「いっやぁ~、今年の夏は熱くなりそうだねぇ!」
「盛り上がり過ぎだろ、オッサン」
見るからにウキウキした様子でコップを拭いているトモを、灯子が冷たく見つめる。
「ねぇ、晃」
店の長椅子に朝海を下ろす晃由へと、茜が小声で話しかける。
「あの人、何か嫌な感じしない?」
「嫌な感じぃ?」
「そう。何かこう危険っぽい感じ」
薦那の方に視線を送りながら、茜が晃由へと必死に訴えかける。
「全然。あ、朝海をとられるとか思ってんだろぉ? 心配すんなって。朝海の奴、美人は好きだけど、好みはシャンデリアちゃんみたいな可愛い系の子だから」
「そうじゃなくてっ」
「俺もオムライス食べたぁ~い!」
「あっ」
朝海を長椅子に置き終えると、晃由はすぐにカウンターで薦那の料理を食べている硝子のもとへと行ってしまった。晃由を呼び止めようと伸ばした手を下ろし、茜が神妙な表情を見せる。
「茜ちゃんも、もし良かったら料理食べてみて下さい」
美味しそうなクリームソースのパスタを持って、薦那が笑顔で茜へと声を掛ける。少し膝を折って茜と視線の高さを揃える薦那に対し、茜はどこか警戒するように勢いよく身を引いた。
「わ、私、ちょっと出掛けてくる!」
ランドセルをすぐ傍の椅子の上へと置いて、まるで逃げるように店を飛び出して行く茜。
「暗くならないうちに帰るんだぞぉー」
トモの呼びかけも終わらないうちに、茜は店の外へと出て行ってしまった。
「どうしたんだろ? 茜ちゃん」
「さぁ? あ、薦那さぁ~ん、そのパスタ、俺に食わせてぇ~!」
「はい、どうぞ」
薦那へと調子良く声を掛ける晃由の隣で、硝子は茜を気に掛けるように閉じた扉を見つめた。
喫茶“Tomo”を出た茜は、特に行く当てもなく赤槻町の周辺をプラプラと歩いていた。
「何だろ。この感じ」
体の奥底から込み上げてくる何かを感じ取りながらも、それが何なのかまったくわからずに茜は困惑の表情を見せていた。自分の中に眠る何かが警告音を響かせるかのように、茜の鼓動を速めている。そんな感覚であった。
「獏の声とも違う。でも何か、何かが話しかけて来てるような……」
「茜ちゃん?」
自分の名を呼ばれ、茜がすぐさま振り返る。
「八雲」
茜が振り返った先には、茜と同じ年頃の長い黒髪の少女が立っていた。八雲はかつて自身の熊のぬいぐるみが夢喰化してしまった少女で、戦いに巻き込まれたことをきっかけにクラスメイトの茜と友達になったのである。
「何してるの? こんな所で」
「八雲こそ」
「私はウベさんの散歩」
「ウベさん?」
「うん、ウベさん」
そう言って八雲が笑顔で茜の前に差し出したのは、体長二十センチ程の熊のぬいぐるみであった。夢喰化したぬいぐるみのアベさんに比べると一回り小さい。ぬいぐるみに散歩が必要なのか等、色々と浮かび上がる疑問はあったが、茜はあえて口には出さなかった。
「私も散歩付き合っていい? 今暇でさ」
「うん、いいよ。じゃあ公園でも行こうか」
八雲が快く頷くと、二人は並んで公園への道を歩き始めた。ゆっくりと会話をしながら五分程歩き、近くの公園へと辿り着く。公園に着くと、二人はベンチに腰掛けた。
「茜ちゃん、どうかしたの?」
ベンチに座った途端に問いかける八雲のその言葉に、茜が少し戸惑った表情を見せる。
「何となく元気ないように見えたから」
心配するように笑顔を向ける八雲に、茜がそっと視線を落とす。
「自分でも、よくわからないんだよね。もしかしたら、これが噂に聞く反抗期ってやつなのかも」
「え、もう反抗期? でも茜ちゃんには関係ないんじゃない? あんなに優しそうなお父さんと朝海さんが家族なんだもん。ほんと羨ましいよ」
「そりゃトモさんも朝海クンも優しいけど」
八雲の言葉に答えながら、茜が地面に視線を落とす。
「本当の家族じゃないし……」
「え?」
「ヤだ、ヤだぁー!」
茜の零した小さな声を聞きとれずに八雲が聞き返そうとしたその時、公園中に響き渡るほどの大きな声が八雲の言葉を止めた。
「ボクのブランコ、ボクが乗るのぉー!」
「今は他の子が遊んでるんだから、後にしなさい」
「イヤイヤ! 今乗るの! ボクのブランコぉー!」
大きな声のする方に茜と八雲が視線を向けると、まだ三、四才くらいの男の子がブランコを指差しながら泣きじゃくっていた。どうやら他の子供たちが占領してしまっているブランコに、どうしても乗りたくて騒いでいるようである。男の子は母親らしき女性の説得にも耳を貸さず、何度も首を横に振ってはブランコと叫んでいた。
「ガキね」
「まぁ私たちも十分子供なんだけどね」
呆れた様子で言い放つ茜に、八雲が少し苦い笑みを零す。
「うるさくって話も出来ないわ。八雲、どっか別の場所に行っ」
茜がベンチから立ち上がろうとしたその時、急に体を傾けてきた八雲の頭が茜の膝の上に乗り、立ち上がろうとした茜の動きを止める。
「八雲?」
茜が戸惑いの表情で八雲の顔を覗き込むと、八雲は深く瞳を閉じていた。八雲の両手からウベさんのぬいぐるみが地面へと落ちる。
「寝てる? 何で急に」
「ボクのブランコ、ボクのもの! ボクの、ウガアアアア!!」
「えっ!?」
響く叫び声が子供の声から急に太く重い声に変わると、茜が勢いよく顔を上げる。
「あれは!」
<ボクノモノ、ボクノモノ。全部、ボクノモノ!>
泣き叫んでいた男の子の体が突如黒い水晶体に包み込まれると、空中に浮かび上がった水晶体から黒い光りが噴き出す。噴き出した黒い光りは徐々に形を作り始め、大きな一匹の黒い猿のような形に変わった。
「夢喰!?」
形を変えていく黒い光りに、戸惑いの表情を見せる茜。その黒い巨体の獣は確かに、茜も何度か遭遇した夢喰そのものであった。
夢喰の出現を示すように、八雲と同じように泣きじゃくっていた男の子の母親や、ブランコに乗っていた他の子供たちは地面の上で眠り込んでしまっているが、空は明るいままで、強制的に夜となる夢現空間は発生していない。
「月の出はもう夢喰を生み出したりしないはずなのに、どうしてっ」
茜が困惑の表情を見せる中、男の子の眠る水晶体を額に埋め込み、真っ赤な瞳を輝かせて、黒い大猿が長い両手を振り上げる。
<ウガアアア!!>
「あ、朝海クン……!」
突然現れた夢喰に、茜は助けを求めるように朝海の名を呼んだ。




