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Dream.29 許されぬ邂逅 〈2〉

 空を流れるようにしてやって来る夜力が、どんどんと朔十の作った夢屑に吸収されていく。夜力が吸い込まれる度に夢屑の体を形作る夜力は深みを増し、腕や足が一回りずつ大きくなっていった。集まる夜力を感じ取りながら、朔十が満足げな笑みを浮かべる。

「夢を失った三奈はともなく、他の十二暦家の連中の夜力が思ったより集まらないが、まぁいい。姫神子と宵の夜力が来れば十分だ」

 朔十が視線を鋭く下方に落とし、地面に立つ朝海を見つめる。

「さぁ、本当の勝負といこうか。日の出!」

 朔十の勢いのある声に反応するように、夢屑が両腕を朝海の居る前方へと突き出す。夢屑の両手から放たれた大きな夜力の塊が、まっすぐに朝海へと向かっていく。

「青」

 朝海の呼びかけに、金色の海から顔を出す青。

「“鯨音”」

 青が大きく口を開き、けたたましい咆哮をあげて夜力の塊を吹き消そうとする。だが発せられる超音波に一部の夜力は掻き消えたものの、すべての夜力が消えることはなかった。ほとんど大きさを変えることのなかった塊が、そのまま朝海と青のもとへと突き進んで来る。

「青、“鯨撃”だ!」

 眉をひそめながらも冷静さを失わず、朝海が青の尾ひれを撫でる。その言葉を合図に、青は頭部のてっぺんから金色の噴水を発射させた。激流となった金色の水が、朔十の放った夜力と正面からぶつかり合う。

 互角にぶつかり合う二つの力に朝海と朔十、両者が堪えるように少し表情を歪める。だが先に笑みを見せたのは朔十の方であった。

「押し込め、夢屑!」

 両足を動かして突進するように前方に向かうと、夢屑は大きな両腕を突き出して、腕が傷つくことも恐れずにぶつかり合う二つの力を夜力側から勢いよく押し込んだ。

「何っ!?」

 夢屑に押し込まれると一気に夜力が青の激流をねじ伏せ、青はそのまま海の中へと倒れ込んでいく。朝海が驚きの表情を見せる中、朔十はすぐに右手を振り上げた。

「今だ、夢屑!」

 朔十の声に従い、夢屑が両手を地面に流れる金色の海の中に突っ込む。

「無茶なっ、朝力の塊だぞ!?」

 朝力の海に突っ込んだことで、どんどんと朝力に分解されていく夢屑の両腕。だがそんなことを気にする素振りもなく、夢屑はさらに奥へと腕を突っ込んだ。

「喰らえ、“月光”!」

 朝力の海の中へと、夢屑の両腕を使って強い夜力の塊を放つ朔十。

「ううぅ!」

 海の中で青が傷を負ったのか、朝海の頬や腕に自動的に切り傷が刻まれていく。そして金色の海もまた夜力が混ざったことでその輝きを弱めた。

「よし、いいぞ。夢屑」

 朝力の海から両腕を引っこ抜いた夢屑が、後方へと跳んで朝海との距離をあける。夢屑の両腕は朝力の海に突っ込んだ影響で朝力の浸食を受け始めていた。

「切り落とせ」

 朔十がそう言うと、夢屑が朝力の浸食を受けている部分の腕を地面に切り落とした。落とされた腕は朝力と夜力の相殺により力なく掻き消える。そして朔十が右手を軽く振り上げると、運ばれてくる夜力から新たな両腕を作り出していく。

 その様子を見つめ、表情を曇らせる朝海。

「何て無茶な戦い方だ」

 険しい表情を見せる朝海のすぐ傍へと、青が顔を出す。青はやはり先程の夜力によってか、朝海と同じ傷を巨体に刻んでいた。

「大丈夫か? 青」

 問いかける朝海に、青が少し困ったような鳴き声を返す。その声の意味を理解したのか、金色の海へと視線を移す朝海。海は夜力の浸食を受け、所々を黒く染めていた。どこまでも広がっていた流れも止まり、海というよりは小さな池のようになってしまっている。

「これで、その獏の動きも制限される」

 夢屑の肩の上から堂々と声を発する朔十。

「どうやら俺の勝ちのようだな、日の出! “紅葉狩り”!」

 朔十が声を張り上げると共に夢屑が朝海へと右手を突き出し、無数も紅葉の刃を向ける。

「青!」

 青に呼びかける朝海。その呼びかけに応え、迎え撃つ態勢を取ろうとする青だが、その巨体が所々黒く染まってしまった海の夜力に阻まれ、自由に体を跳び上がらせることが出来なかった。青が身動きを取れない状態のまま、朔十の紅葉が朝海と青に迫る。

「うああああ!」

 紅葉に全身を斬り裂かれ、後方へと吹き飛ばされていく朝海。青もまた同じように紅葉を食らい、海に潜ったままその姿を見せなくなってしまった。

「う、ううぅ、うっ」

 傷だらけになった体を、朝海が苦しげに声を漏らしながら必死に起こそうともがく。

「ダメだ。このままじゃ負ける」

「ああ、そうだ。お前の負けだ、日の出」

 朝海の小さな呟きすら聞き漏らさず、朔十が夢屑の肩の上から勝ち誇ったような声をあげる。

「“月光”!」

 大きく開かれた夢屑の口から放たれる巨大な夜力の塊。向かって来る夜力を見つめながら、防ぐ術も避ける力も持たない朝海は厳しい表情で唇を噛んだ。

 朝海に夜力が迫る中、一部が黒く染まった海の中を突き破るようにして跳び上がった青が、その巨体を朝海の前へと庇うように出現させる。

「青、ううぅ……!」

 巨体全身から精一杯の朝力を放って夜力を打ち消そうとする青だったが、勢いは完全に夜力が勝り、消すことの出来なかった夜力が青に直撃した。青が負った傷が、庇われた朝海にも刻まれていく。

「青っ」

 朝海のすぐ横の地面へとその巨体を横たわらせた青を、朝海が心配するように見つめる。

「丘にあがった鯨か。滑稽だな」

 海にすら帰ることの出来なくなった青を見下ろし、満足げな笑みを浮かべる朔十。

「次で終わりだ、日の出」

 休むことなく右手を掲げる朔十に、青に寄り添っていた朝海が険しい表情で顔を上げる。

「お前が息絶え、日の出が息絶えることで、人間は皆、明けない夢を見続ける!」

「クっ……!」

 再び夢屑の口から放たれる巨大な夜力の塊に、朝海が大きく表情を歪める。

「“大帳おおとばり”!」

「何?」

 朝海の前に大きな夜力の壁を張り、朔十の夜力を正面から受け止めたのは小夜子であった。突然の小夜子の出現に、朔十が笑みを止める。

「姫神子か」

『“メイ”!』

「“ケイ”!」

 小夜子に気を取られていた朔十の元へと、一斉に飛び出してきたのは盟治と盟莎の明、そして憬一郎の京の三匹の獏であった。それぞれに鋭い爪や牙を突き出す獏に対し、朔十は焦りの表情もなく少し呆れたように肩を落とす。

「無駄だ」

『うああああ!』

 夢屑が大きく両腕を振るって、やって来た三匹の獏をあっさりと吹き飛ばす。

「雑魚が。今更わらわら出て来たところで、お前たちに何も出来はしない! “反訃禁パンプキン”!」

『ううぅ!』

 空中に投げ出された三匹の獏とそれに乗る盟治たちを、真っ黒な巨大かぼちゃの中に閉じ込める朔十。

「砕き割れ、夢屑!」

 かぼちゃの中に捕らえられた獏と盟治たちに、さらに夜力を向けようと身構える夢屑。

「“大雪崩おおなだれ”!」

「“颱風たいふう”、第二号!」

 攻撃を繰り出そうとした夢屑に、黒い雪と風が一気に襲いかかる。雪も風も夢屑に大した傷を与えることはなかったが、繰り出されたその技に朔十はそっと表情を曇らせた。

「どういうつもりだ?」

 朔十が鋭い視線を送る先に立っていたのは、厳しい表情を見せた利九と師走であった。

「裏切る気か?」

「お前が俺たちのことを仲間と思っていたんなら、裏切ったってことになるのかもな」

 利九が向けたその言葉に聞き、朔十が少し吹き出すように笑う。

「ああ、じゃあ裏切りじゃないな。俺はお前たちのことを仲間だとは思っていない。駒としか思っていなかったからな」

 何の悪びれもなく言い放つ朔十に、利九が少し眉をひそめる。

「駒として働いてくれたお前たちに、感謝を込めて一つ忠告しておいてやる。無駄に力を使うな。力を使って夢を失くせば、あいつのようになりたくはないだろう?」

「あいつ?」

 朔十の言葉に戸惑いながら、師走が朔十の視線の先を追っていく。そこには夢を失い、倒れたまま動かなくなった三奈の姿があった。

「三奈!」

 その三奈の姿に、一気に険しい表情となる師走。

「夢を失くしては、これから始まる明けない夜の世界を生きていけなくなってしまうぞ」

「そんなもの、こっちからお断りざぁーます!」

「同じくだ」

 はっきりと朔十の言葉を拒絶して、利九と師走が朔十のもとへと飛び出していく。

「あれは……」

 戦況を見つめながら、戸惑いの表情を見せる朝海。

「朝海!」

 そこへ晃由と灯子を伴った旭が駆け込んで来る。

「無事かよ、朝海!」

「旭」

 心配した様子の晃由と灯子には答えもままならないまま、朝海がすぐに旭の方を見る。

「済まない。俺の勝手のせいで、君にも迷惑を」

「謝っている状況ではありません。すぐに貴方の力の解放を」

 旭が忙しなく言葉を放ちながら、黒く染まってしまったままの朝海の額の日の出の印へと右手を伸ばす。

「もちません! 避けて!」

 そこに響く、緊迫した小夜子の声。朔十の夜力を受け止めていた小夜子の帳が徐々にヒビ割れ、砕ける寸前となっていた。小夜子が慎一郎の手によりその場を離れる中、完全に帳が砕かれる。

「朝海!」

「旭さん!」

 灯子が朝海を、晃由が旭をそれぞれ抱え込むようにして、横へと跳び避ける。夜力の塊はそのまま地面へと落ちると、辺り一面を吹き飛ばしながら掻き消えた。

「大丈夫か? 旭さんっ」

「大丈夫です。すぐに朝海の印の解放をっ」

「させるか!」

 晃由に支えられ、再び朝海のもとへ向かおうとする旭に気付く朔十。向かって来ていた利九と師走を一瞬で振り切り、夢屑と共に一気に旭の目の前へと降り立つ。夢屑の巨体に、朝海のもとへ向かおうとしていた道を阻まれる旭と晃由。

「お前の朝力も封じてやる。“皆既日蝕”!」

「ううぅ……!」

「旭!」

 朔十が放った夜力を浴びる旭に、朝海が思わず身を乗り出す。

「旭さん!」

「朝力がっ」

 晃由が不安げに覗き込む中、旭の額の日の出の印が徐々に黒く染まっていくと、旭の体から放たれる朝力もすぐに掻き消えてしまった。

「日蝕? 神子の朝力を完全に封じてしまうなんて、何という技」

 その旭の様子を見て、小夜子が驚きの表情を見せる。

「あっ」

 旭が朝力を失うと同時に、朝海の右手のひらに刻まれていた日の出の紋も光りを失う。朝海が光りを失うと、朝海のすぐ横で横たわっていた青の巨体もあっという間に掻き消えた。

「青……」

 灯子に背を支えられながら、青の消えてしまった地面を見つめて表情を曇らせる朝海。

「これで、これで二人の日の出の神子、どちらの朝力も封じた! もう俺に刃向かえる力などない!」

 共に朝力を失った朝海と旭を見た後、夢屑の肩の上で高々と夜空を見上げた朔十が、光り無き空に目一杯声を張り上げる。

「俺の世界だ! 俺の空だ! 明けない夜の中で、お前たちは全員夢喰と化して、永遠の夢を見るんだ!」

 響き渡る朔十の声に、朔十以外の皆が険しい表情を見せる。盟治や憬一郎、利九や師走も戦わねば、刃向かわねばという気持ちを無くしたわけではなかったが、朝海と旭が共に朝力を失った今、その気力を完全に削がれてしまっていた。

「ハハハハ! 刃向かう者も居ないことだし、早速始めるとしようか。人間の夢喰化を」

 そう言って高々と右手を掲げる朔十に、すべての光りを失った朝海が、それでも立ち上がろうと膝を立てる。

「朝に砕けし夢よ、闇深き夜の中に眠れ。“御夜棲……!」

「“夜蝶やちょう”」

「何? ううぅ!」

 夢喰化を行おうとした朔十へと、どこからともなく降り注ぐ無数の黒蝶の刃。身を伏せて堪える朔十だが、夢屑は蝶に夜力を削り取られる。

「この力はっ」

 険しい表情を見せながら、はっきりとした確信を持って朔十が顔を上げる。

「“宵”……!」

 皆が戦う力と意志を無くしたその場に、大きな黒翼を広げて姿を見せたのは硝子であった。




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