02:勇者様日記
勇者様と呼ばれ歓迎された。
魔王を倒して褒美をやろうと言われ、断った。笑顔で。
皆に優しくしていた。笑顔で接した。俺には力があった。
だから、皆を信じている。
【牛の月/火の日(晴れ)】
いい天気だね、と言うとメイミがそうですね、と返してきた。今日も、メイミ――いや、俺のハーレムは可愛い子ばかりだ。メイミはこの国の第一王女で、金髪碧眼の理想の〝お姫様〟だった。少なくとも、同じ世界から来て同じクラス名だった氷室が、珍しく笑うくらいには。アイツ、いつも無表情だからな。
さて、と。今日は誰と一緒に過ごそうか考えていた時。その時に、情報が来た。情報をくれたのはメイミ。何でも今日、魔導師が来るそうだ。魔術師の高位であり、魔術を導く者である魔導師。そのオモテナシをするために、授業が潰れた。
どうも、楽しくない。どうして俺が、魔導師なんかのために動かなければならないんだ?
だが、誇り高き勇者であり誰でも優しい俺は、文句一つ言わず作業に取り掛かる。それにしても、魔導師が何の用だろう。
疑問に思い、こういうことにいつも情報を持っている氷室を呼んだ。無表情がこちらを向く。
別に氷室でなくてもメイミに聞けばいいのだが、出来るだけ氷室の傍にいなければならないため、わざわざ声をかけた。
俺は、氷室が国に反逆しないために――監視しなければ、ならない。
よく小説であった。勇者召喚に巻き込まれた人間が、騒動を起こすもの。そういう傍観、とかいうやつでも、王子と恋に落ちたりするものがあったのだ。それを国王様に言うと、俺は戸籍を貰う代わりに、それがないように監視し、阻止する役目を持っている。
王子に近づけさせない。これが絶対の条件。
これを守らなければ、これはこのハーレムと離れなければいけなくなるから。もう、あんな平凡な暮らしは御免だ。
おっと、はいはい。メイミが困っている。助けてやらなければ。
ああ、なんて楽しいんだ、異世界というのは!
【牛の月/木の日(曇り)】
今日、学園に来た魔導師に呼ばれた。なんでも、異世界の人間である俺と氷室に会いたいんだと。まあ魔導師といえど、勇者である俺に会いたいというのは当たり前であり、そもそもヤサシイユウシャサマはそういう出会いを断らないため、二つ返事でオーケーした。だが、会って後悔する。
〝見たところ平凡だな?〟
魔導師は、美形だった。後ろで緩く結った長めの銀髪。目はアメジスト。知的そうな容姿に似合わない、ニヤニヤな笑みを浮かべている。そんな魔導師がそう言った。
平凡? ――ふざけるな、そんなはずはない。
俺は勇者であり、ハーレム主だ。異世界に来てからすぐにある、最強の力もある。
それが、今、平凡だと? 勇者にそんなこと言っていいと思っているのか。
あからさまに態度に出してはいけない。温和な勇者は、そんなことで怒ったりしないのだから。
だが、結局口論になった始末。そして、その口論を止めたのは、その魔導師の言葉だった。
「あの子が可哀想だな、こんな餓鬼に付き合わされて」
あの子と称されたのは、氷室だった。こんな餓鬼と言われたのもイラついたが、そこで氷室の名が出たのは予想外だった。
驚いた俺に、魔導師――オースティン・カルフォンが鼻で笑っていった。
「お前が本当に〝優しい勇者様〟ならば、どれだけの人が喜んだだろうな」