第15話 仲直り後
とっくに日も沈み、智咲と和解できた後になってようやく両親が不在ということを知らされた。
「あれ父さんたちいないの?」
「そーなの。だからわざわざ私が買い出しに行ってたんだから!」
「そうだったのか。悪いかったな、手伝うよ」
華徒がそう言うとリビングのソファから立ち上がってキッチンへと向かう。
まな板を見るときれいに切り分けられた野菜たちが並んでおり、兄は少し感心するのだった。
「包丁の使い方上手くなったな」
「まぁね、兄さんに教えてもらったから当然!」
「さすがは俺の妹だ」
もちろん!と両手を腰に当てて野菜を自慢している妹。兄はこれをやさしく横目で笑いながら華徒は自分のエプロンを腰に巻くのだった。
「ところで今日は何を作るんだ?」
こんなに多い野菜を切ってIHに大きな両手鍋を用意していた。
「今日はカレーだよ」
「おっ、じゃあ味付けは俺の出番だな」
「スパイスからカレーを作る兄さんよろしくお願いします!」
一部世論ではスパイスからカレーを作る男は彼氏として減点されるのだとか。一体全体どういう世の中になってしまったのだろうか。しかしながら、妹は学校でZ世代と呼ばれる若者たちに、兄のカレー技術を自分の特技のようにアピールするのだった。
「別に強調しなくていいけど、了解した」
野菜と鶏肉の処理を終えた妹は手を洗うとソファに速攻ダイブ。両手両足を広げて寝転がりながら不満をキッチンの方へぶつけていた。
「美咲さんには悪いことしたけどやっぱり気に食わないぃー!」
「なんだってそんなに?」
「だって私の兄さんだもん!知らない女が兄さんと遊びに行くなんて一万年はやい!まずは私と顔合わせして了承を得た上でするべき!」
そのなんともいえない屁理屈は一言一言に可愛さが並べられていくようだった。
「なら今度話してみるか?」
「話す!絶対に渡さない!」
クッションを両手で抱えた妹が右手をピーンと伸ばして指をさす。まるで彼氏と仲いいだけの女を狙い撃ちするメンヘラ彼女のように。
「わかったよ。でもご令嬢さんだから、いつでも暇ってわけじゃないと思うんだ」
「あの金髪お金持ちだったの!?」
ゲッと口を止めを歪ませてボソッと「ついに兄が金に釣られちゃったよ」と吐き捨てるのをしっかり聞こえていた。
「あまり彼女のことを悪く言うな。別に智咲が思ってるような関係じゃないから」
「でも、私よりおっぱいおっきいもん」
(対抗心そこから沸いてたのかよ!)
たしかに妹は智咲に劣らないくらいの美しい体系をしていた。週末には早朝からランニング。毎朝のストレッチも欠かさないし、スキンケアなどの美容にも一切の妥協はしない。そんな美咲が全国的美少女に後れを取るのはそのバストサイズだった。まだ中学二年生という成長期ではあるが、今現在両者の胸を比べてみるとその差は明らか。妹キャラとしてはそのバストサイズでも申し分のない大きさ、むしろ同年代の中では平均より大きいだろう。しかし、それを高校生ラブコメのメインヒロイン級が相手ならどうだろうか。
「圧倒的な差だな」
「言うな!妹の前でそんなこと言うなー!」
自分が言ったことを肯定されたら文句を言う。先週からの反抗期もそうだが、この妹はどれだけ理不尽で矛盾しているのだろうか。しかし、クッションをポンポン叩く妹もリモコンでソファを叩く妹も世界一可愛いのだから仕方がない。
と、そのときソファにおいてあった俺のスマホからバイブ音が鳴った。
「あーわるい。手離せないから代わりに出てくれ。」
「私が出ていいの?」
「別におまえに見られて困るような連絡先なんて入れてねぇよ」
「その発言は満点だよ兄さん」
少しニヤっとした妹になにか不信感を感じたが、野菜たちが焦げ付かないように調理を進める。つもりだった。
『華徒くん?ずっと思ってたんですけど、どうしてコンビニから帰っても、連絡先つないでくれなかったんですか?電話番号の紙、入れてましたよね?』
その電話の冒頭の発言は『来週の日曜日空いてますか?』のメッセージを未読にした状態で追って連絡が来たものだった。それをスピーカーモードにして俺に聞こえてきたときには体がゾッとした。
「ちょっと、智咲!?」
だらけて寝転がっていた妹が電話を持った瞬間に立ち上がり、何か身構えるような姿勢になっていた。
「どうも妹です。その紙なら私が預かっているので兄は見ていないかと~」
その敬語ながらも煽りを入れた発言に俺はスマホを手渡したことを後悔することになった。
「あら、妹さんでしたか。ならお兄さんに伝えてください。下着まで見た女の子の連絡を無視するとはいったいどういう事なんだ、と。」
「美咲ー!誤解を招く言い方をするな!」
その性格の悪さがにじみ出る智咲と美咲の会話に俺が手を出せるわけがなかった。
「あ華徒くん聞いてたんですねちょうどよかった。来週の日曜日についてなんですが、カフェでお茶なんてどうですか?」
その言葉に焦りも感じられず、しかし腹黒さ表すこのタイミングのこの発言に華徒は頭を抱える。もちろん身構えた智咲もスマホを返すつもりはなく扉があるリビングの端っこ、俺の対角線上をキープしていた。そんな状況でスマホを回収できるわけもなく、華徒は明日からの学校生活をあきらめるのであった。




