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一章 ~フィリシア・フィリウス~ (10)

 魔法の使い方を教えてやる、カルロはそう言うと私に杖を持たせ、お母さんの前に誘導する。


「杖を構えて、魔法式の構築は俺がする、君は自分の中の魔力の流れを感じて杖に魔力を込めるんだ。」


「待ってカルロ、どういうこと?私に何をさせるつもりなの?」


 そう聞きつつも、私には彼が私に何をさせようとしているのか想像がついた。まだ会って数時間しか経っていないが、彼がどういう人間なのかは少しずつわかってきた。


「今から教えるのは攻撃魔法だ、どういう魔法なのかは、俺とプロイドの勝負を見てたからなんとなくわかるだろ?君の魔力ならこの家を吹き飛ばすくらいの魔法が撃てると思うぞ。」


「家を吹き飛ばすって、何言ってるの!?私そんなことしたくないよ!」


「新しい人生を進むんだろ?なら変わらないといけない。そして変わることを選んだなら、もう元の人生には戻らない覚悟が必要だ。その覚悟を、俺はさっきお前に聞いたつもりだったんだがな。」


 変わる覚悟、戻らない覚悟、だからって私が育ってきた家を壊さないといけないの?いや、本当はもうわかってる。だってカルロの言葉を聞くまで、私はどこか退路が存在していることに安心していたから。私は一度深呼吸する。


「わかった、カルロ、私に魔法を教えて!」


「よし、それじゃあやってみよう。魔力は血液のように全身を(めぐ)っている、それを杖に流して魔力を通じて杖と自分を一体化させるイメージをするんだ。」


 私は目を閉じて、自分の体内(なか)に集中する。たしかに何かが全身を流れて満たしているのが感じられる。これが魔力なんだ。体の内部に集中することなんてなかったから気づかなかった。

 魔力の感覚はなんとなくつかめた。あとはこの魔力の流れを杖に伝える。どうかな?できてる気はするけど。私はそっと目を開ける。


「えっ!?何これ、私がこれを作ったの?」


 そこには透明な大きな球体があった。これが攻撃魔法なの?球体は空間を歪ませていて、奥に見えるお母さんや家がぼやけた感じになっている。


「すごいな、初めてでこの大きさのエネルギーを作れるとは。魔力の感覚をつかむのも早かったし、やっぱりすごい才能だな。」


「ちょっと!何なのこれは!?何をする気!?」


 家の前でお母さんは私の作った魔法に怯えている様子だ。


「お母さん、そこを退()いて!」


「フィリ…嘘でしょ、何で…」


 この家には私たちの思い出が詰まってる。嫌な思い出もあるけど、幸せだった思い出だってたくさんある。でも私はこの家を壊すことを、私自身が変わることを決めた。


「いや、退く必要はない。」


 えっ?まさか…


「何を…言っているの?退かなくていいって、それじゃあお母さんが!」


「フィリシア、あの女が生きてる限り、お前はここに縛られたままだぞ。」


 カルロが初めて私のことをフィリシアと呼んだ。その声はとても冷たく、彼の言葉が鋭く私に突き刺さる。


「俺は魔王を倒す、そのためには強い仲間が必要だ。だから君が強くなる上で、ノイズとなるものは排除していくつもりだ。」


 私が強くなるため、カルロの言ってることはきっと正しい、でもその決断は正しいからってできるものじゃない。


「でも、どうするか決めるのは君だ。俺の言ってることはとても残酷で、もし君が嫌ならやめていい、そのときは俺一人でこの街を出ることにするよ。」


 私の人生だ、私が決めないといけない。私はどうしたい?私は変わりたい、でもお母さんを殺すことなんて…いや、悩んでる時点でとっくに答えは出てるんだ。


「カルロ、私も…君と一緒に前に進んでいくよ!」


「…覚悟は決まったみたいだな。」


 魔法の発現によって生じたエネルギーで、丘には風が吹き荒れている。


「フィリ、本当に私を殺すの?何でよ、アイツがいなくなって、これから二人で一緒に頑張って暮らしていこうって、そう思ってたのに。」


 これから…か。


「お母さん、私はお父さんが家を出ていったときからずっとそう思ってたよ。」


 お母さんははっとした顔で言葉に詰まった。


「そっか、そう…なのね、私はずっと自分のことばかりで…ごめんね、ごめんねフィリ。」


 お母さんは泣きながら私に謝罪した。その言葉に嘘は感じられなくて、お母さんが本当に私を愛していたことは伝わった。いや、ずっと伝わってた。伝わってたからずっと苦しかった。

 ひどいこともされたけど、それでも私はお母さんを恨むことはできなくて。だからいつか昔みたいに一緒に笑って過ごせたらって思ってたけど、もうそれが無理なのもわかってた。


「お母さん、今までありがとう。」


 私は最後に感謝を伝えて魔法を放った。お母さんは最後に少しだけ微笑んでこう言ってくれた。


「フィリ、私こそありがとう、幸せにね。」


 放たれた魔法はお母さんを跡形もなく消し飛ばし、私たちの家を(えぐ)っていった。家はそのまま崩れ落ちていき、やがて辺りは静かになる。

 カルロが私の頭をポンッとすると涙が溢れて止まらなくなり、私はしばらく彼の胸で泣いた。


 私の人生は今日大きく変わった。彼が変えてくれた。私は泣いていた顔を上げる。するとそれに気づいたカルロと目が合った。彼の目は冷徹で少し怖い、でもそんな彼に私は()かれてしまう。私はこの先の人生を彼のために生きると決めた。

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