毒
(おかしい。これは本当に毒なのか?)
毒入りワインを飲んだ瞬間、ユリアスは違和感を覚えた。
たしかに毒は入っているようだ。しかし…彼の耐性ではこの程度の毒では多少胃が悪くなる程度だ。
しかし耐性がないであろうシェアラは隣で苦しんでいる。
(一応、苦しむフリをしておこう)
テロワによる暗殺計画を知ってから手を回せる限りの策は全て講じてきた。自分の為、そしてリレイナの為にできること全て。
担当医師にも予め話をしておいた。
「たしかに毒の症状ではありますが…容量をお間違えになったのでしょうか?」
「まさか!」
「シェアラはどうだ?」
「苦しんでいらっしゃいますが命に別状はありません」
「様子見だな。私も苦しみ伏せっているということにしておいてくれ」
「わかりました」
(レイニー、すまない。もう少し待っていてくれ。すぐに助け出す)
(それにしても…ふっ…スープも毛布も断るとは…この期に及んで相変わらず強情だな)
結局色々考えているうちに彼は一睡もできなかった。
空が白み始める頃、窓をコツコツと叩く音がきこえた。
見ると、それは彼の護衛をしてくれていたツェルマール家の兵士だった。
離れることなく彼についている近衛兵に窓を開けさせ彼を招いた。
彼は驚くべき内容の手紙を持参していた。
ーーーーーーー
「身体は大丈夫か?…まぁ正確には毒ではなかったし大丈夫か」
イヴァンが笑った。
王宮内、敷地の外れに建つ舞踏会用の城。
そこならユリアスも外出する必要がないし、舞踏会の時以外は誰もそこへは近づかない。
夜が更けた頃、ユリアスとイヴァン、そしてベルナルドがそこにある応接室で顔を合わせた。
もちろん姿は見えないがたくさんの近衛兵達が厳戒態勢を敷いている。
「さて、夜は長い。ベルナルド、ゆっくり聞こうか」
「では君はイジメられていたわけではなく、毒を渡すよう脅されていたのか」
「はい。父の研究室から。でもサエドラに言われるくらいで持ち出すわけはありません。脅されようが何をされようが。
すると彼はテロワ殿下の名前を出したのです。
「それでも殿下の指示だという証がないと言い張っていると、ついに殿下自身が私に会いに来られました。そして毒を渡すよう命じられたのです。
「そうなると断ることはできません。
それで私も色々策を考えました。なんとか殿下の指示という証拠を残したいと。でもいくら考えてもそれを思いつきませんでした。
「私は殿下に父の研究室に来て頂くようお願いしました。そこでお渡しすると。
お恥ずかしい話ですが…父の研究室は街の食堂の2階を間借りしています。
そこへテロワ様に来て頂くことで、1人でも多くの者に殿下の姿を目撃してほしかったのです。
それくらいしか私には証拠を残す方法が思いつきませんでした。
「私は毒入りの袋を2つ用意しました。
1つの袋には毒を。もう1つの袋はごく少量の毒と無害の粉を混ぜたもの」
「それでか!弱い毒だと不思議に思っていたのだ」
「はい。ユリアス様が飲まれたのは毒入りではありますがほぼ無害な粉です」
「助かったぞ」
「いえ。毒を渡したことに違いはありませんので」
「まぁそれはいい。で、続きを」
「はい。それは本当に偶然の予期せぬ出来事でした。奇跡でした。
私は毒だけの袋をテロワ殿下に見せ、匂いを嗅がせ、指で触らせました。『サラサラなのでよく溶けます』なとど言いながら。
「そして殿下は毒を触った指をご自身のハンカチで拭いたのです。
私は言いました。『毒がついてしまったハンカチは危険なのでこちらで処分しておきます』と」
「ハンカチ…」
「はい。これです」
そう言うと、ベルナルドは袋にいれたハンカチを丁寧にテーブルに置いた。
「正直、ここまで期待はしていなかったのですが…神が味方をしてくださったのかもしれません」
彼はそっとハンカチを裏返した。そこには王室の証であるオサラマンディ家の紋とテロワの名前が刺繍されていた。
「あっ…」
それを見たとたんユリアスは思わず声が出た。
「このハンカチを然るべき液に浸せば、たとえ少量でも必ず毒が検出されます」
「そしてこれは我が父からだ。例のパルドニーツェ侯爵が振りかざした王室の念書。やはりテロワの名前が書かれている」
「勝ったな」
イヴァンが右手を差し出した。ユリアスがそれに応え、そしてその手をベルナルドに差し出した。
「ベルナルド、よく名乗り出てくれた。君の勇気に敬意を表する」
「とんでもありません!私は…何度もリレイナ様に助けられました。それなのに…今この瞬間もリレイナ様が捕らえられていることは…私の罪です」
「いや、私の罪だ。彼女を巻き込まない方法もあったと思う。全て私が至らなかったせいだ」
「そろそろ陛下がお越しになる」
「へ、陛下が?!」
「ああ。事情を伝えておいた。
ベルナルド、すまないが、もう一度同じ話を、次は陛下に話してもらえるか?」
「も、も、もちろんです」
「大丈夫だ。ユリアスがいる。君に悪いようにはしないさ」




