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seize  作者: カネミズ
20/21

19.

19

土日の練習が終わり、それから何週間かの練習が過ぎていく。そして一週間の始まりを告げる月曜日が再び始まった。今週末が新人戦。「横手市新人卓球体育大会」が開催される。

家の地域には強豪と呼ばれる高校も複数ある。ひとつは横手南高等学校、そして鳳高校のふたつだ。どちらも全県大会出場の切符を毎年勝ち取ると言われている二強だ。特に横手南高等学校は毎年、団体戦は三人しか出場しないという話を聞いた。『部員がただ少ないのでは?』とも思ったがどうやらそういう訳ではなさそうだ。部員は人並み毎年いるらしい。しかしそこの高校の監督が強い選手三人で団体には出場させている。おそらくランキング戦上位の選手ばかりを集めた少数精鋭なのだろう。確かに六人より三人の強い選手の方が効率がいいかもしれない。レベルの高い選手だとダブルスをいきなり変えてもすぐに対応でき、シングルスでも余計な不安を持たずに自信をもって試合に臨めることだろう。しかし毎年、その三人は三年生や二年生のため、去年の選手が出るかどうかはわからない。去年の三年生は確実にいなくなっているため、横手南高等学校も新体制で挑んでくることになるだろう。それはうちや他のチームも一緒だ。もしかしたら他の学校は有力な新人一年生を手に入れている可能性だってなくはない。

 今日も今日で、厳しい練習が行われている。栗田監督は特に怒ったり、どなりつけたりしてはこない。が、強制的、無意識的に部員をやる気にさせるオーラとエネルギーを持っている。

そのため、部員たちも無意識的に練習に集中し、汗水たらして努力をおこたらないからこそ、毎日が厳しい練習となってしまう。

「それで、お前の課題は?」

「課題はフットワークなんで、左右へ振ってください」

「またそれかよー。お前はもう十分フットワークは早いし、鍛えたと思うぜ?」

そう会話しているのは愛貴と泰成だ。練習メニューには、課題練習と言うメニューが存在する。

これは計十分と短く、互いに五分ずつ、課題を言い合いそれを相手選手が相手の課題克服のため手伝うというメニューだ。

「いえ、まだやります」

「はあ~、いい加減その完璧主義者みたいなところ直した方がいいって」

「まだ、完璧じゃありませんよ」

「おいおい、効率だぞ効率。ひとつのことを極めても、それ以外をおろそかにすると試合には勝てないぞ。俺の経験上だが」

「経験上って、あなたは別に努力しなくてもできてしまうタチじゃないですか・・・・」

「え?もしかしてわかっちゃう?俺の天才ぶり」

わざとらしく聞き返してくるので無視する。

「ま、じゃあ三球目攻撃な」

「は?」

「だからお前の課題練習はフットワークじゃなく、三球目攻撃をやる」

「勝手に決めないでください」

「俺がフットワークは十分だと認めたんだ、だから大丈夫だ」

「いいえ、フットワークをやります」

「お前なあ~」

と二人の会話は話しだすときりがない。どちらもお互いの主張を認めることも受け取ることもしないため、お互いにN極とN極のように決して合体することはない。

「おい、お前ら、いい加減さっさと球打って練習しろ。今週大会なんだぞ」

二人の会話に水を指すように止めたのは副キャプテンである梁田健登先輩だ。

「おいおい、待てって。だってこいつよ~」

「うるさい。言い訳するな。とりあえず、練習しろ。打て。体に染み込ませろ」

まるで泰成先輩の意見には耳を貸す気はないらしい。それはそうだ。言い訳だらけ、人の話も言うことも、命令も聞かないのだから。しかし卓球は一人前だ。

「・・・・・・・・・・・・」

少し機嫌が悪い顔をした後、口を開口させる。

「じゃあ、これだけは言っとくぞ、いくら練習しても楽しんでないやつがいくらやってもうまくなるわけないからな」

愛貴への遠回しのあてつけに一瞬、癪になったが、泰成先輩と話すと、意外と論理を通してくるため苦手なところがある。卓球でも勝てそうにないが、口でも勝てそうにない。彼は口も達者なのだ。つまり嘘もとてつもなく達者なのだろうと思う。そんな会話をしている愛貴と泰成を隣の台で梁田先輩の相手をしている弦矢は、ばかばかしくて相手にしてられない。と、いわんばかりの表情をこちらへ向けていた。



小体育館入口付近にある自販機のそばで座っている愛貴。

「どうした?そんなんじゃいつまでたっても泰成には勝てっこないぞ。天才くん」

ラバーケアをしている愛貴にからかってくるようなセリフを吐いてきたのは、梁田先輩だった。

「・・・・もしかして、俺と泰成先輩の契約知ってるんですか?」

「聞いた聞いた、泰成に勝たないと、部活、辞めれないんだろ?」

そこで軽く、コクっと頷いておく。

「あの時は負けるかと思ったよ。流石にいきなり入ってきた新入部員に負けるわけにもいかないけどな」

「ランキング戦のことですか」

「んだ。」

突然のなまり言葉に視線を梁田先輩へと送るが、彼はじっと俺のラケットをじっと凝視している。

「でも、いきなり霞が入部してたら勝てなかっただろうな。」

「勝てますよ。梁田先輩、やりにくいっすから」

「ん?謙遜?」

そういう言い回しはなんだか恥ずかしい。

「俺さ、相手のプレー一回見ないと勝てる気しねえんから。」

「どういう・・・」

健登先輩のそのセリフの意味が分からなかった。

「なんて言えばいいかな~、俺、技術や力で勝つんじゃなくて頭で勝つタイプだから。」

「ああ確かに。なんか見てて分かります」

「やっぱりか~。」と頭をかく梁田先輩。

「だから相手のプレーを分析してからじゃないないと勝てないし、自分もいきなり戦うのが嫌なんだ。でも試合はいっつも試合したことないやつとぶっつけ本番勝負だろ?」

「ええ大抵はそうなりますね、じゃあ毎回試合する前に相手を分析してるんですか?」

「まあな~、だからできるだけ練習試合や大会では当たりそうな相手とか、当たったら嫌だなと思う相手は分析しまくる。効率悪そうに見えるだろ?でも俺にとってはこれが一番効率がいいんだ。携帯で相手の動画を撮ったり、何度も相手の練習風景、癖、苦手なコース。すべて調べ上げる。だから霞が初めて練習試合に来た時もお前のプレーばっかり見てた。こいつとは闘いたくないな~って思ってさ。」

効率という言葉。最近それの大切さが分かってきたような気がする。

「効率ってそんなに大事ですか。俺、それよくわかんねえっす」

「いいよな~その感覚。俺には分かんねえわ。いきなり勝つ気まんまんで行く気持ちが分かんねえし、どうやったら勝てるかって自然と頭の中で考えちまう。試合してるとき「考る」ってことしてんの君たちって?」

「君たち」はつまり泰成先輩や弦矢や俺のことをさしているのだろう。まるで変人扱いされているみたいだ。

「考えてないわけじゃないですけど、俺、頭からっきしだし、作戦練るタイプじゃないで。でもその場になったら自然と相手の嫌なコースついてたりしますけど」

「はぁ~、その本能で試合するってか、ぶっつけ本番で戦える神経がわからん」

「不安症ですね」

「そうな~、その『物事はなるようになる!』みたいな勢いが俺にはまったく理解できん。」

「でも、よくこういいますやん、なるようにしかならないって。勝海舟も似たようなこと言ってますよね」

大阪弁のような口調でゴクゴクとのどごしを鳴らして現れたのは、自称、そして実際、天才と言われている優希だった。手元にはもう少しで空になりそうなペットボトルがぽちゃぽちゃと音をたてながら、波打っている。

「おお、國安」

と梁田先輩が言うと、「うす、おつかれっす」と軽く返答し、残り少ないペットボトルの中身を一気に飲み、再びそばの自販機で、小銭をいれ、スポドリを買う。すぐさま取り出し口から雑に取り出すと勢いよくキャップを開けて、半分以上飲み干す。

「うぷっ、物事はなるようになるっすよ」

優希もどうやらそういう考え方らしい。つまり先ほどの「君たち」グループ側だ。

「そうか~?だって物事はなるようになるって言葉ほど、怖いものなくないか?それってつまり負けに収まるってことだろ?負けるのが当たり前になって負けるのに慣れて。この言葉程恐ろしいものはないよ。なるようになって生きていったらなにも変わらないまま生きてしまうことになるのがこえーんだよ俺」

確かにそれも正論でもある。

「なるようになる。確かに怖いですね」

「だろ?ある程度の所で収まってればいい。っていう甘えだろ」

「だから、信じて努力ですよ?」

「「は?」」愛貴の声と健登の声が重なり合う。

「信じて努力しなければ、悔しい思いも、辛いと思うこともない。けど信じて努力しないと決して勝つことも嬉しいことも幸せになることはない。努力の仕方なんて人それぞれでいいんですよ」

優希は時々名言を吐くことがある。

「信じて努力・・・・・」

「信じて努力かあ~~。相手に不安抱えて、疑ったり、分析しかしてこなかったからな俺。やっぱ頑張って信じてみるかあ~」

梁田健登先輩。彼を一言で述べるな「賢い」につきる。相手の読みをはるか上をいっているのだろう。分析する洞察力も、不安から来ているのだろうが、それでもこの人は頭で卓球をするタイプだ。

「健登先輩、相手誰でしたっけ?」

優希が突然思いついたセリフを話し出す。なぜその質問をしたのかは愛貴には分からない。

「横手南高校・・・・」

「お、マジすか・・・・」

「俺、運苦手なんだよね・・・」

「運苦手?」

その聞いたことのない言葉に違和感を感じてどうしても、聞き返してしまう。

「そう、運。運って理不尽だよね・・・。ま、頑張って勝つしかないんだけどよ」

すると、少しの沈黙が三秒ほど続いた。

「やっぱり先輩、未来に対して不安持ちすぎっすよ。後輩の俺が先輩にアドバイスなんて馴れ馴れしいとは思いますけど、未来なんてどうなるか分かんないっす。誰も十年先の未来も、ましてや一週間後どうなってるかなんて検討はつくけど、確実ではないっすよ?その場に応じて今、この一瞬を生きる。自分を信じればいいんです。自身の力を軽んじているだけじゃ、元々勝てる訳がないです。自分の力を信じて、今、目の前の試合に全力を捧げる。それこそが唯一の自分の勝つ道でした。僕がバスケをやっていた頃はですけどね」

「やっぱ、お前すげえよ。ていうかなんでバスケしないで卓球を?」

梁田先輩がした発言に俺も考えが一致した。入部当初から聞きたかった。

なぜ国安優希と言うバスケットボールで有名な選手がわざわざ名もない卓球部に入部したのかということを。

「いや・・・・・・・ちょっとトイレ言ってきていいですか?腹痛くなっちゃって」

そう言うと彼は、まるで言うのを拒むかのように、または逃げるように愛貴と梁田先輩

の前から去って行った。梁田先輩との二人だけの空間は沈黙を発生させる。話題がないのも癪だったので、

「ひとつ聞いても?」

と話題をつくった。

「ひとつだけ?」

その返答は、俺の聞きたいことがたくさんあることを見抜いたからだろう。

「えっと・・・じゃあ、いろいろと。」

いろいろどころじゃない。聞きたいことなどありすぎて減らない。この部には違和感だらけだ。監督や部員だけではなく、なぜここまで強いと感じるのに名をあげることができないのか。

「ふふっ、いいよなんでも聞けよ」

この人に聞いたのには理由がある。実際この人は卓球以外の知識も豊富そうだし、尚かつ唯一チームの統制を取れていそうだからだ。でも今聞きたいのは部活についてだ。

「なぜ、泰成先輩と海翔先輩はダブルスを組まないんです?ふたりとも全国にいける程の力を持っているのに。あそこで組んだら、団体戦勝つのなんて楽勝なんじゃ・・・」

「それなー。みんな霞と同じこと言うんだよな~。」

「みんな?」

「そう、みんな。大会とか行くたびになんであの二人は組まないの?って中学の時の卓球仲間とかによく聞かれる。俺自身も泰成と組むよりも、海翔と泰成が組んだ方がいいと思っている。」

その通りだ。そしたらこのチームは県でも全国に行ける候補として名をあげることができるのに。

「しかし俺たちが一年のとき、部員は泰成、海翔、俺、集人の四人だけ。その当時でも泰成は個人で必ず勝利数を上げてくれた。海翔だって必ずと言っていいほど勝利数を上げてくれる。でも勝ち進んで相手が強くなるのは必然だ。」

「まあ、そうなりますよね」

「そうなると泰成や海翔が取っても、俺や集人が負けてしまう。でもそこで俺たちも考えたんだ。先に三つ勝利数をあげればいいじゃないかと」

「だから泰成先輩と海翔先輩のダブルスを?」

「そうだ。」

その返答に目を輝かせた顔を健登へと向ける愛貴。まるで夢のようなコンビだ。もし完成したら、どんなダブルスでも勝てそうにない。左利きドライブマンに右利きカットマン、しかもふたりともフットワークも以上に速く、そしてドライブマン&カットマンという比較的勝ちやすいダブルス。

「が、実際ふたりにダブルスをやらせてみると歯車がまるでかみ合っていなかった。ダブルスは一人がリードしたり戦略をたてたりして行うものだが、二人は個性が強すぎて『俺が回れば、私も回る』という歯車の初期的な動きがとてもじゃないが行われなかった。二人とも違う方向に回ろうとして、何も動きがとれなくなるんだ。」

さっきまでの夢のダブルスの輝きが頭の中から一気に消えてなくなった。

「だから健登先輩と泰成先輩が組んでるですか・・・」

「まあ、元々俺は戦略立てるの得意だから。比較的大抵のやつとはダブルスが成り立っちまう。だから泰成じゃなくても、海翔ともダブルス組めるぜ」

「じゃあ去年だって、全国は無理でも、東北大会くらいは・・・・」

「うん、やっぱそう思うよな~」

どうやらそう思われていたことは知っていたらしい。

「今までは真田先輩と泰成先輩は必ず勝ちをとってくれた。でもそこふたつとっても、他をおとしてしまう。」

「でもダブルスを真田先輩と泰成先輩で組めばいいじゃないですか」

「見てたら分かるだろ。ふたりの歯車の合い様を。まるでかみ合ってない。お互いの歯車が互いを消し合ってしまっている。二人は個性が強すぎて、『俺が回れば、私も回る』という歯車の初期的な動きが、とてもじゃないが行われていない。二人とも違う方向に回ろうとして、なにも動きがとれなくなるんだ。」

確かにその意見には信憑性があった。二人はうちの一番手エースと二番手エースだ。ふたりとも卓球への愛やプライドは相当でかいだろう。その為、勝つための卓球や自分の卓球と言う存在も必然的に大きくなってくる。

「だから俺たちは後一勝の平鹿なんて言われてたよ。」

その異名は、つまり必ずセットは取れるが、他を落としてしまうということを言いたのだろう。後一勝ができない。

でも待てよ?今の二年生が一年生時代のときに二年生はいなかったのか?泰成先輩ほどの天才はいないだろうが、並みの強さは身につけれるはずだ。

「なんでこの部にはあなた方二年生し・・・」

「それは、霞も薄々感づいてるんじゃないか?」

と言いかけたところで言葉をさえぎるように、言葉を重ねてくる。

確かに、そう言われると頭の中でいろいろな予測はしていた。

最初から三年生はいなかったのか?それともいたが退部した?でも退部する理由がこの部からはいくら探しても探すことはできなかった。でも、ひとつだけ頭の中で引っかかるものがある。それは栗田先生が去年、この学校へと赴任してきたこと。そして栗田監督が新任式で言い放った『卓球部を全国に行かせること』という発言。

「・・・・つまり」

「つまり?」

その愛貴に言わせようとする聞き返しにおもわず喉をならす。

「強制退部・・・・」

「そうだ。ちゃんと三年はいたんだこの部には。でも強制退部させられた。」

「どうして・・・いたほうが絶対戦力になってたのに・・・」

「ん?そうか?」

梁田先輩は眉間をゆがめながら俺の顔をじっと見てくる。

「だって、部員がいれば部費も増える、練習だっていろんな戦型の選手と試合できる、いいことしかないですよね?」

「例をあげるぞ?会社の利益の話だ。」

突然に話がかけ離れたので今度は愛貴が眉間をゆがめる。

「会社の利益や目標があるとする。しかし、本当に利益を上げていたり、目標ラインに到達しているのは、従業員が百パーセントの内、二十パーセントの従業員だけだ。つまり残りの八十パーセントの従業員は何もしてない訳じゃないが、会社にとってはあまり必要な存在ではないということになる。」

「ええっと、つまり・・・先輩が言いたいことは・・・リストラ?」

やっぱり頭を回転させるのは苦手だ。

「いや、少し違う。どちらかと言うとやる気のある選手しか集めない。無駄な人材、意思のない人材はいらない。栗田監督はそういう人だと思う。確かに能力や技術はスポーツには重要だ。それよりもあの人は全国に行くために必要か不必要かということだけを見ているんだと思う。あれほど卓球にも人間にも詳しいんだから、全国にいけるチームがどんななのか分かるんだろ。」

「じゃあその三年の人たちは無駄な人材だったんですか?」

「ぷっ。ずばずば言うな霞は。おまわりさんみたいだな。」

誰かにも言われたような気がするが、そんなこと今は気にしている暇はない。

「それも少し違うな。そう言ったらあの時の俺だって無駄な人材だったと思うぜ?」

あの時?

「あの時?」

「ああそっか分かんねえよな。」

疑問符を浮かべる俺にはたと気づいたようだ。

「去年、栗田先生が赴任してきて当時の俺たちが最初に渡されたのは、入部届と退部届だ。」

効果が異なるその二つの紙を渡された理由が少しずつ愛貴は理解してきた。

「会議室に当時の部員全員集合させられて、こう言われた。『今から全国を目指すことになる。部活は今まで以上にきつくなる。明日まで提出。能力や技術は不問だ』と」

「いきなりですか?」

「ああいきなりだ。そして全員に両方の届出が配られた後、栗田先生はそのまま会議室を出ていった。会議室には部員と手元にある選択が強制された紙二枚だけが残った」

「栗田先生は部員の意見は聞かなかったんですか・・・」

栗田先生のあの赤いオーラの中の冷たさを垣間見た瞬間だった。

「ん?ちゃんと聞いてるんじゃないか?だからこその入部届と退部届。今までの卓球部はなくなった。今度は全国に行くチームになる。ついてくるか?こないか?って問題だと思う」

「それで三年生の人たちはついていかない方を選んだんですね」

「俺ももし、泰成や海翔がいなかったら退部してたかもなあ。だってあの二人がいないこの部に全国いける可能性なんてほとんどないだろ?」

確かに、そういわれると、「あります」とは決して言えない。

「結局俺も流されてんだよ、周りを見て、周りがどう動くかを見て、予測して、その時がきたら対応する。絶対誰かの後押しや可能性が見えない限り動かない臆病者だ。でも可能性がなかったり誰かの後押しがないと動けない自分も真実。でもその代わり今、全国を本気で目指している自分もいるのも真実。だから今の俺は無駄な人材じゃないと思ってる。この部にとって必要な人材だと思ってる。」

「先輩、やっぱり頭いいってか、強いですね」

やっぱり、このチームって・・・。頭の中でそんなことを考えている。

「そうか?逃げまくりだぜ俺?練習からも苦手なものからも嫌なものからも逃げまくってる。ぶっつけ本番もできない。逃げてるけど、やっぱり立ち向かってるのも真実だな~。逃げると戦うは表裏一体。逃げてもいいんだ、でも戦わないのは無しなっ」

そう言って立ち上がると、

「じゃ、そろそろ俺、バスの時間だから。また明日、練習でな」

その後ろ姿がやけにかっこいいと思うのは俺だけだろうか。でも、確かに梁田先輩の背中はかっこよかった。



「相手を気にしすぎ。」

「え?」

次の日の練習の休憩時間いきなりそう唐突に話しかけてきたのは、うちの二番手エース真田海翔だ。というより会話するのが初めてなんだが、絶対こちら側から話かけないと、話しかけてこないタイプだと思っていたが、そんなことはなかったらしい。

「名前、愛貴だよな?」

名前忘れるか普通。

「ええ、まあ、はい。」

「それが愛貴の重荷になっている」

まるで淡々と伝えたいことだけを紡いで言葉に発するさまはまるで、頭のなかで設定されていることをただ話すロボットのようだった。

「自分が相手を気にしすぎているってことですか?」

コクっと頭を頷かせる海翔先輩。

「他人の意見や、プレーがどう見られるかなんて気にする必要なない。どうせどいつもこいつも自分のことで精一杯なのだから。だから自分を信じるだけでいい」

どうやら助言をしてくれているらしい。

「あ、ありがとうございます・・・」



練習終わり、持ってきた水筒や自販機で買った飲み物が全てなくなってしまい、一階の水飲み場のところまで歩いていく。小体育館を出て少し言った場所に水飲み場が用意されているため、シューズのまま渡り廊下を渡っていく。渡り終え、前方に続いている廊下には、優希もすたすたと歩いていく姿。廊下を少し行った曲がり角の先に水飲み場は構えている。曲がり角に入りそうな優希を

「國安っ・・・・・」

と言いかけたところで、曲がり角付近で愛貴の足が止まる。と同時に國安の足も止まる。しかし國安の足が止まったのは俺の声ではない。水飲み場にいる海翔先輩と集人先輩だ。ふたりは同じ中学出身なため仲が良いのだ。

國安は折り返した先にある二人の会話を聞くべく、愛貴に気づき、

「なんで、いっつも優希はあんな強いんだろうなって。」

「・・・・・あいつはあいつなりの個性で動いてるんだから別にいいだろ」

「でもさ・・・羨ましいな」

「後輩に憧れる意味がわからない」

と言い終えると、水道の水を手に溜めて、顔を洗う。

「いや、別に憧れているわけじゃないんだけど、来年くらいにはもう國安にも勝てなくなるのかなあ。」

確かに國安の成長スピードは尋常じゃない。もともとバスケで名をあげるほどの身体能力とは言えど、技術の習得力、絶妙なコツと言った言葉で教えられないことをやり遂げて見せる。ここ一か月でおそらく俺の中学一年生あたりまでの力は身についている。小学生から始めるより、高校から始めると練習の質も高くもらえる経験値も多いだろう。にしても國安はあまりにも早すぎる。

「集人先輩」

「く、國安!」

突然、噂をすればやってくる現象が目の前で起きる。いつの間にか曲がり角を曲がって姿を現す優希。

「先輩は、もっと逆に自分を出していったほうが良いと思います。元々周りに溶け込むタイプの先輩は、心から幸せが欲しかったり、勝ちたかったら葛藤は逃げられませんよ。」

「おい、先輩になんで上から目線なんだよ」

助言なんて先輩にするなんて失礼な態度は愛貴は許せなかった。だから俺は勢いよく曲がり角から姿を現した。

「いいよ、大丈夫だよ愛貴。俺は気にしないよ」

と仏のような笑顔をこちらへ向けている集人先輩。

「練習風景を時々見て思うんだ。みんなに比べて、自分は卓球に対して情熱を持ててないんじゃないか。実はみんな心のそこから卓球が好きで、勝ちたくて頑張っているんじゃなかって。でも、実は俺、愛貴や弦矢みたいにそこまで卓球に力を入れたことがないんだ。というより入れられない。みんな必死なのに、冷めている自分が時々すっごく憎たらしくなる。そういうのってありかな?ごめん、卓球始めたばっかの優希に言ってもしょうがないんだけどね、あはは。」

「ん~、それのなにが悪いんですか?みんな心の底から好きな人なんてそういないんじゃないんです?それでもどこか少しでも燃えている部分があるから続けていられるですし、少しも燃えていなかったらとっくに部活なんて辞めてると思いますよ。」

そういいながら水飲み場に近づき、水道の水を飲み干す優希。

「あ、ああ。たしかに・・・」

優希の正論に苦笑いしながらも、どこか納得しているようだ。水分補給を終えた優希は、

「うぷ、しかも、好きなことがあれば嫌いなところが見えてくるのも当り前じゃないですか。あ、でも一番やばいのは無関心だと思います。何にも心も体も興奮しないような感覚、それだけは危険ですよ。」

「前にも言ったけど、僕はさ、朝空を飛ぶツバメの声を聞いて、学校でみんなと笑って、家に帰る途中、時々カレーの匂いがするときがある。そんなのでとっても幸せを感じる。心の底からなんか俺って幸せだなあって感じる。でも、ありがとう。優希のおかげで振り切れたよ。僕はずっと不変が良いと思っていた。変わらず葛藤もなく、そしてなにより、負けてもみんなが平和なまま、楽しみながら生きていくのがいいと思っていた。でも、やっぱり負けるより、勝つ方がいいよね、うん、絶対そっちのほうがいい。確かに負けても平和は来る。でももっと僕は、いや、僕を幸せにしていいんだね」

「当たり前じゃないすか。」

「当たり前っすね」

「・・・・・・・・当たり前だ」

優希、愛貴、海翔がそれぞれ集人に意見を述べる。

「ごめんね・・・・・。僕はうさぎとかめの話で例えると、亀なんだ。そして亀でもとびっきりの指示まち亀。國安はうさぎで國安だけじゃない。同じく生まれて、同じくスタートしたはずなのに、泰成や海翔、そして一年の弦矢や愛貴。みんな自分をまるでいないかのように一瞥もしないで追い抜いていく。そんなうさぎたちを僕は数え切れないほど見てきた。でも亀で生まれてきたのなら亀らしく勝負して見せる、そう決めたんだけどな・・・。だからもっと厳しく決めることにしたんだ。確かに亀は亀、いきなり亀からウサギにはなれない。だから亀でも指示がないと動けない亀じゃなくて、自分で自分に指示をしようと思うんだ。指示が来るのを空を見たり、休んだりしてるんじゃなくて、自分で動いてみる。」

そして少しの沈黙が続く。

「僕の負ける理由は、自分が勝つことに誰かが自分に対して怒りを感じてしまうかもしまうかもしれない。」

「でも、それって強い人から介入されたくないだけじゃないすか?」

優希の突拍子もない言葉に集人先輩は反応できない。

「え?」

「そんなの自分を軽視し過ぎですよ。先輩は誰よりも根気があるし、自分の正しいと思ってることやってるんで他人のことなんて気にしなくていいと思います。自信をもっと自分にあげていいと思います」

「あまりにも、先輩はネガティブなことしか考えなさ過ぎてます。だからもっとルーズにポジティブな面だけ見ていきましょうよ」

「そうだな。分かった。来週の新人戦が俺たちの初陣だからね。楽しみながら生きていくのがいいと思っていた。でも、やっぱり負けるより、勝つ方がいいよね」

開き直った集人先輩の言い放った『来週の新人戦』という言葉に、心臓がぐきりと跳ねる。



 集人先輩と海翔先輩との会話はさりげなく終了した。愛貴も優希も帰りは自転車となる。

「あのさあ・・・」

愛貴が優希に聞きたいことがあったが、前にこのことを聞こうとして逃げられたため。少し聞きずらかった。

「なに?」

優希はスマホの画面に熱中している。どうやら昨日撮ったであろう動画をネット上に投稿しているらしい。

「なんでそこまでして俺を入れたかった?」

愛貴は勢いまかせに優希に聞く。優希はハタと気付くように手元の携帯の画面から愛貴の顔へと視点を変える。下唇を噛んだ後、なにか戸惑うような動きを見せたが、わりきったのか開口して話し出す優希。

「増田ひろやって知ってる?」

何を言うかと思えば、いきなり聞いたこともないような名前を出してくる。だがその名前で連想されたのはなぜか泰成先輩だった。その連想された記憶は、初めて泰成先輩と会ったときの帰り道、空家となってしまった同級生の家の記憶だった。

「・・・・・・・・・たしか自殺した俺たちの同級生だろ?」

「そうだよ。その子が何部だったか知ってる?」

「う~ん、ごめん、わかんない・・・・」

「バスケ部。バスケ部だったんだ。」

その時に何を言いたいのか、どういう方向に話が進んでいくかはなんとなく分かった。

「そうだったのか」

愛貴の口から出た言葉はこれしかでなかった。

「それで、殺したのは俺なんだ」

え?今なんつった?

「は?・・・どどど、どういうことだよ」

いきなりカミングアウトされて頭がパニックを起こし始める。

「こここ、ころしたたたって、おおお、お前が!」

「いや、包丁で刺したとか直接殺したわけじゃないけど、遠回しに殺したのは俺なのかなって思ってるんだ」

「だだだ、だからどういうことだよ」

今だに愛貴の頭のなかはパニック状態のままだ。

「幼馴染。ひろやとは幼馴染だったんだ。」

「それで?」

「それで小学生の時からずっと一緒にスポ少バスケやっててさ、ひろやは物は大切にするし、俺があげたことすら忘れてた昔のプレゼントをずっと大切にもっている人情があるやつだった。俺のやることにも全部助言してくれた。「お前は犬みたいに騒ぐな、しかも周りを巻き込んで。」そんなこと言われてさ、そんな自分の生き方に誇りをもっていた。本当に今が幸せって感じだった。でも中学の学年が上がるにつれてあいつはずっと、忙しそうにしてた。部活、勉強、部活、勉強。実際、俺もひろやと関わりにくくなってあえて疎遠にしてた。なんか分かるだろ?自分の株を気にしたり、どんなやつとつるむのかって中学になると気にし始めるじゃん?

「うん」

「それが出始めてさ。愛貴は分かんないかもしれないけど、忙しくしているせいでひろやは周りから変人扱いされてさ、根はまじめだからそうなるのも当然だけど、それを気味悪がられていじめられてたんだ。どんだけいい高校目指してたんだか知らないけどな。後から聞いた話によれば、親に矯正されてたらしい。だから俺もひろやと仲良くなんかないようにわざと周りに見せてた。悪口とかもあえて言った。そしたらいつのまにか俺の隣には、ひろやじゃなくて違うやつが普段からいるようになった。関わる暇もなくなって、あんなにバスケが好きで続けていたのにさ、部活にもひろやは顔ださなくなって。顔出したとしてもなんか『心ここにあらず』みたいな感じでさ、あいつとは歯車があわなくなっちまったんだ。そしたら、いつか学校にもこなくなって、それから・・・、自殺したんだ。なんか家でクビつってたらしい。だから・・・だから、あいつみたいに死ななくていいような環境をつくりたい。俺はそう思ってる。いろんな面白いを知って、教育をエンターテイメントにしたいと思ってる。どうやるかはまだわからないけど。このままじゃいけないと思ったんだ。このままじゃ俺みたいな思いをする奴が増える。ひろやみたいな人間も増える。だから、社長なったり、ブランドショップつくったり、プロ選手なってスポーツ界、いや世界を変えれるくらいの影響力が俺は欲しいんだ。子供が希望を持てるような環境を世界に広げたいと思ってるんだ。まず今できることを行動に移してる最中なんだけどね・・・」

「そうなのか・・・・」

愛貴はその言葉しか返せなかった。

「昔から目立って、自分が中心に回っていた。だから、俺は特別だ。まあ、今思えば勝者っていう役割になりきって価値のある人間なんだって思ってさ。俺の為だったら、負ける奴がいるのは当然だ、搾取される奴がいても当然だ、俺には勝てっこないだろう。って思ってたんだ。だからあいつが俺から離れていっても不思議に思わなかった、あんなに助言してくれたひろやに対して思ったとしても『可哀相だな』くらい。スクールカーストの上に立てればいい。その為ならひろやは搾取されてもいいってくらいだった。でもあいつが死んで気づいたんだ、俺は誰も守れないって。それってつまり、無理矢理自分に価値をつけてるただの自己満足野郎だったんだって。バスケがいくら強くても満足しているのは自分だけだって。そう思ってからなにもかも楽しくなくてさ、バスケでいくら評価されても嬉しくなくなった。そのうちバスケが楽しくなくなった。有名になったり、みんなより上に立っていれば、名誉があれば、幸せだと思ってた。でもそんなの意味ないと感じるようになった。自己満足のせいで、俺じゃなくてもあの時誰かが動いてくれたら、一言でも声をひろやにかけれたら、ひろやは助かってたんじゃないかって。そんな時だった。俺たちは下のアリーナでバスケ練習してたろ?そしてお前の卓球部は二階のサブアリーナで。」

「うん。」

「そのときお前の姿みたんだ。苦しそうに練習してたけど、なんだか笑っちゃうくらい真剣に楽しそうに生き生きしてやってったしょ?それ見てなんか一皮むけるみたいにスイッチ入ってさ。今まで卓球なんてダサくて、つまんねー、自分に魅力なんてこれっぽっちもつかねえって思ってたんだけど、お前の姿見て、「あ、スポーツってこれか」って思ったんだ。そして後悔した。もしかしたらあいつのこと救えたんじゃないのかって。もしかしたら、俺が殺したんじゃないかって。自分がなにか一声かけてたら生きてたんじゃないかって、自分の為ばかり動いてた俺がバカらしくてさ。だから高校いったら絶対、お前と同じ部に入って二度とあいつみたいなやつを生み出さないようにしたいんだ。どうやればいいのかは考え中だけど。なのにお前は電池切れ状態だった。嘘だろ・・・って思ったよ。でも、卓球も合気道もフットサルも辞める気はない。人間的に大事なものがあるような気がするんだ。この行動には。」

「そうだったのか・・・・今だから言えるけど、悪かった。」

「いいよいいよ。でも、愛貴が卓球続けてくれるってだけで嬉しいよ。お前がいればもっとこの部活はよくなるのになあって思ってたとこなんだ」

「なんだよそれ」笑い交じりに返答する。

「でしょ?前言った通り、俺が一生懸命やってれば人が集まってくるんだよね。あと、欲しい人材も実は今だに見抜けるんだ~~」

「お前、そんなこと言ってると嫌われるぞ」

「もう、慣れてるそんなこと」

けらけらと満面の笑みを返してくる。

「卓球以外にそんなにやって、疲れないのか?」

「ん~、多分疲れてる。でも、全部やってみたいんだ。なにかを諦めてどれかを続けるのは性に合わない。だから全部やらせてくれる両親に感謝しているし、絶対、将来裕福にさせてやりたいし、ひろやみたいな人をこれ以上増やしたくない。俺は世界のみんなを笑顔にしたい。それだけなんだ。大丈夫だよって。悩んだり苦しんでいる人に言ってやりたい。」

「だから俺にスポーツを学ぶために卓球をやってんのか?」

「ううん、違う。卓球だって大好きだぜ?でも俺は卓球が好きというよりは卓球を見て笑顔にしたいんだみんなを。今はプレーもそんなにすごくはないし、注目も浴びてないかもしれない。でも本当に世界のみんなを笑顔にしたいんだ。でも親や先生に俺の夢を言うとみんな笑うんだよ。でも俺は本気なんだけどな。つか、笑われるのもなれた。だから全然夢とかの話でも、笑い話でもないんだ。ほんとに俺はそう思ってるから。でもやっぱり本気で目指した人しかたぶん叶わないと思うんだよね俺。」

俺も実際、自分本位で、自分のものさしでいままで人を見下していた。もし中学時代の俺のままだったら、誰かを悲しませていたかもしれない、実際、部員からは怒りを買っていた。下手すれば、誰かをブーメランのように遠まわしに殺しだってしているのかもしれない。そんな自分が存在していたと思うと恐ろしくてたまらなくなる。でも、そんな自分が時々また顔を出そうとする。そのときはなにがあろうと立ち向かう。決して背を向けず、『前ならえ』すらも決してしない。とにかく闘い続けなきゃいけない。

と愛貴が心の中でそう呟き、意思を強くしていると、考えていることを読むように、

「俺は、逃げるのはやめたよ、逃げたらまた逃げ始めるから。」

「え?」

「夢から逃げない、有名になることからも逃げない、救うことから逃げない。全国に行くことから逃げない。」

俺も逃げない、そう決めていた時期もあったんだけどな。でもいつの間にか逃げてしまっている、いつからだ。こんな臆病で逃げ癖がついてしまったのは。

優希は俺と似たような過去を持っている。もしかして俺は吐いた毒の混じった言葉のブーメランを人にも当て、自分にも帰っていたのかもしれない。俺の吐いた言葉が誰かの自身や夢を奪っていたのかもしれない。下手したら誰かを殺している可能性だってあったかもしれない。

「で、夢は決まった?」

そのふいにきた質問にすべて見透かされているような気がした。

「・・いや」

「なんだよ。夢は言わなきゃ叶わないぞ」

言いたいのはやまやまだけど、なんだか発することが出来なかった。でもここで言わなきゃ。俺、もう逃げたくない。

「俺さ、俺・・・全国・・・全国行ってみたい。中学の時に果たせなかった夢叶えたいんだ。」

優希は「え?」という表情を浮かべじっとこちらを見つめている。

まずい、何言ってるんだおれ。

「お前、言ったじゃん。逃げないって。これでも本気なんだって。だから俺も頑張ってみる」

まてまて何言ってんだおれ?絶対変な奴だと思われた。

「ふふふふ・・・ははははははは」

夢を聞いて腹を抱えながら笑いだす優希。

「バカにしやがって。でも本気でもうこの夢から逃げないからな」

涙を拭く動きを見せると優希は言葉を発する。

「ああ~、よかった。夢もってくれて」

「はあ?」

その返答に最大の疑問符を浮かべる。世間では、夢の話や理想を語るとおかしな奴だと思われるのが一般的だ。と思っていた。

「俺さ思うんだ、人間ってなにか目標や夢をもっていないといけないって。なにか自分に芯が入ってないと周りに流されてしまう。そうなるともう自分が誰だか分からなくなって、人のせいにして、そんな自分を許せなくて怒りを感じ、自分を許せないから他人も許せなくなって他人にも怒りを感じる。そう思わない?」

優希の話はいつも何か学べる。というより似たようなことを俺も考えていたかもしれない。

「うん・・・」

「ま、自分の経験上の話なんだけどね。だからどんなときでも自分を許せるように、精一杯努力して、失敗しても成功しても、自分に『よく頑張った』って言いたい。あれ?俺ってナルシスト?」

「ああ。ナルシストだな。」

「かあ~、ナルシストって他人からの好感度下がるんだよな~。直そっと。」

「いや、直さなくていいんじゃないか?偽るなよ自分を。」

「お?いいこと言うじゃん。でもその通りだよ。体や脳は騙せても心は騙せないもんね」

すると、駐輪場の柱の陰からいきなり人が現れ、足音のBGMがこちらへ近づいてくる。

「・・・・・・・・・お疲れ」

現れたのは弦矢だった。俺と優希の会話を聞いていたのだろうか。弦矢から話しかけられるなんて珍しいというか奇跡的だ。

「お疲れ!」

テンション高めの優希が答える。それに続いて、ぼそっと「お疲れ」と愛貴も言う。

「ルス・・・よろしく」

「「?」」

愛貴と優希は首をほぼ同時に傾げる。

「何か言ったか今?」

優希が弦矢に聞き返す。

「ダ!ダブルス!よろしく!」

勢いに任せて弦矢はそう発してくる。どうやら俺に言っているらしい。

「お、お、おう!」

反射でそう反応してしまう愛貴。

「あはははは。まあ一年生は俺ら三人しかいないし、先輩たちを支えながらこれから頑張って行こう~!」

と腕を上にあげる。まるで『えいえいおー』のような動きを取るが愛貴と弦矢はそのノリに乗らない。

「なんだよ。ふたりとも~」

と言いながら優希は自身の自転車のかごに荷物を入れて、サドルにまたがる。

「新人戦、頑張ろうな!絶対勝とうな~!」

そう言うと、手元の携帯で予定でも見ているのか、チラッと携帯の画面を一瞥してからチャリのペダルをこぎ始める。

「弦矢も愛貴も、覚えてね!人間は成功するように出来てるから!じゃあね!」

そう言って、一度自転車を止めてからそう叫び終えると再び、自分の向かう目的地に自転車を漕ぎ始める優希。愛貴と弦矢も軽く「じゃあ」と言って二人は分かれる。先にチャリを漕ぎ始めていなくなったのは弦矢だった。その後を追うように俺も走り出す。横手駅に着くと五分前に電車は出発してしまっていた。待機場所で待っていると、自動ドアが開く。

「あ、愛貴」

そう話しかけてきたのは、制服姿の貴衣だった。部活終わりで髪は少し湿り気があり、香水か少し髪から香っているような気がした。

「おう。電車十五分後らしいぞ」

「そっか。わかった。」

そう言いながら貴衣は愛貴の隣へと腰を降ろす。入学当初より少し髪が長くなりセミロングほどだった髪が肩にのってしまっている。バスケをやるにあたってその髪の長さでは邪魔になるのではないだろうかと思うのだが。しかし、髪の毛をちらっと一瞥したことに気が付いたのか、

「髪、長くなってきたでしょ?私」

「おう。今ちょうどそう思ってた」

「私、髪長いと似合わないんだよな~」

「いや、似合ってるぞ。俺はそっちの方が良い気がする。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

じっと愛貴の目の奥を見つめてくる貴衣。

「愛貴、なんか変わったね。」

「どこが?」

「なんか雰囲気というか、なんていうか。生きてるって感じする」

「はあ?」

正直言って貴衣が何を言いたいのかは分からなかった。

「自分らしくなった・・・って言えばいいのかな?」

「自分らしくねえ・・・・。元々自分自身ってあんまり意識しなくないか?」

「そう?私は結構、『これが私だ。』みたいな感覚あるけどな~」

みんなもそういう感覚を持っているのだろうか?そう思うと少し遅れている気がしてしょうがなかった。

「来週だっけ?新人戦」

「ああ。まあな。」

「緊張してる?」

顔面をやや下に向けていた愛貴に対して、下から覗き込んでくるように顔色を伺ってくる。

「少し緊張してる。一年ぶりだし。」

緊張もしているし久しぶりの大会のプレッシャー。中学の時の監督は緊張する必要はないと言っていたことがあったが、緊張もある程度は必要だと思う。

「あ~あ、前の愛貴は私の世話が必要って感じだったのに、もう必要ないみたいだね」

「なんだよそれ。おせっかいも大概にしておけよ」

「おせっかい嫌い?」

「嫌いじゃないけど・・・・つか、そろそろホームに電車くっぞ。行こうぜ」

「・・・・・・うん」

なぜおせっかいが嫌いか好きかなど聞いたのだろうか。不思議でならない。電車の窓の景色の情報量は物凄いものがある。毎日見ている景色がいつも通りに流れていく。建物、田園、山、まったく今までとまったく変わらないが、夏に近づくにつれ、だんだんと陽が長くなっていくことをハタと気が付く。冬場は午後四時くらいにはすでに暗くなっていた気がするが、今は七時近くにならなければ暗くはならない。

 動いてそうで動いていない飛行機が飛行機雲をつくりだしている。空を飛んでいる飛行機雲はいつも気づけばなくなっている。そういえば見えなくなるまで飛行機を見たことがない。






















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