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今の時期の体育の授業は、体育館での活動となる。平鹿高校には体育館が二つあり、ひとつはアリーナとも呼ばれる入学式や卒業式などのイベント、放課後はバスケットボール部やバトミントン部が使用している体育館だ。そしてもうひとつが小体育館、サブアリーナとも呼ばれ、おもに部活動でしか使われていないが、学校祭などでは一役買うらしい。
そのアリーナと呼ばれる大きな体育館で、同じクラスのバスケ部すら、翻弄するプレーを見せている国安優希と呼ばれる男。
「はいっ!スリーポイーント!」
現役バスケ部も優希を止めよと死に物狂いでくらいついてくるが、圧倒的に優希の方が技術も動きも上回っていた。
バスケットボールは五対五で行うスポーツだ。しかし、今のこの状況では、一対一。周りの選手はパス、または走ることしかしていない。はたから見ると、他の生徒はシャトルランをしている中でバスケをしている優希と現役バスケ部生徒にしか見えない。
五対五で始めたはずが、いつの間にか一対一となっている。
「おいっ。」
はあ、はあ、はあ、と荒い呼吸をしながら、ドリブルしている優希をの動きを止める。
「なに?」
すっとぼけた声が愛貴の耳へと届く。
「お前ら、はあはあ、経験者ばっかり、はあはあ、楽しむな。未経験の人にもやらせろよ」
「あっ、そっか、忘れてた。ごめん」
そう言うと、他の未経験者にバスケットボールをパスする。そのパスも勢いが強かったのか生徒は取ることが出来なかった。
「たまには、人の事を思って行動したらどうだ、はあはあ」
「もう~、うるさいな、もう~おまわりさんは。してるよ、俺だって一応」
いつの間にか愛貴は優希に『おまわりさん』というあだ名を付けられている。付けられた理由はおそらく、口うるさいからだろう。
「お前だけ目立って面白くても、周りが面白くないなんてそんなのスポーツじゃないだろ」
「・・・・・・・・確かに。」
「だろ?」
「あ~~、もう分かった分かった!気を付ける気を付ける!」
投げやりに返してきた言葉に反省の色は見えなかった。やはり優希は自己中心的だ。だけどなぜか憎めない。運のいい奴だ。
体育のバスケは、十分間隔で変わりばんこに今までやっていた生徒からやっていない生徒に移り変わっていく。女子と男子では体力や体格の差があるので、別れている。
貴衣も優希と同様、プレーがひとりだけズバ抜けてうまい。そのため周りの女子生徒からパスを出してもすぐに貴衣の元まで戻り、貴衣がシュートするという流れがとなりコートで繰り広げられている。
そんなこんなで体育の授業はチャイムと共に終わりをつげた。
「ねえ、愛貴」
体育館から三階にある教室に向かうために階段で貴衣に話しかけられる。
「ん?どうした?」
「今日放課後、時間ある?」
ランキング戦はあるものの、別に時間を延長してやるということをこの部活はしない。メリハリがあるからだ。
「ああ、大丈夫だけど。どうした、なんかしたのか?」
相談?それとも、なんか話でもあるのかとも思ったがそういう訳じゃないらしい。
「最近、駅の近くのファストフードショップの期間限定シェイクが飲めるらしいのよ」
なにか思い当たる点がある。昨日リビングの台所を見ていると、そんなCMが激しく水々しいBGMと共に流れていた気がするが味がなんなのか覚えていない。
「ああ。あれか、何味だっけ?」
「パイン味っ!」
「ああ。いいかもな。」
「でしょ~、じゃあ放課後行こうね!」
「え!放課後どっか行くの!」
相変わらずのテンションで階段の後方から叫ぶような声を発してきたのは国安優希というトラブルメーカーだ。
「ええ、まあ。もしよかったら優希も行く?」
貴衣と優希は中学からバスケを通して知り合いだ。そのため気軽に話し合える仲なのだ。
「おう!いくいく!それでどこ行くんだ?」
「駅前のファストフード店。そこで期間限定の・・・」
と貴衣が言い終わる前に、
「あっ!もしかして、パイン味のシェイクのこと!?」
「うん!そうそう!なんで知ってるの!」
貴衣も優希と同じくテンションが上がる。
「俺さ、ネットに動画投稿してるから日ごろから常にネタ探ししてんだ。再生数稼ぐにはやっぱり最新のものを視聴者に提供しなきゃいけないわけじゃん?」
そんなこと俺と貴衣に言われても、そうなんだ。と言うしかない。
「そうなのか」
「そうなんだ」
愛貴と貴衣は異口同音でそう言う。
「そうなんです!だからちょうど良かった~」
まるで安堵の息のようにホッとした表情になる優希。底なしの夢追い人と底なしの体力を再び思い知らされる。
「じゃあ今度こそ、放課後行こうね!あっ、集合場所は生徒玄関でいい?」
「おっけ」
「オッケー―」
貴衣に対してふたりは同じ言葉で言葉を返した。
久しぶりに今日の授業は寝てしまった。それに今日はニュースがある。今まで俺を含め、優希や貴衣のクラスである一年二組の数学担当は、二十代前半の女性教師だったが、産休のため一年の休暇に入ってしまう。もともと入学当初からお腹が大きく、『あなたたちとは一か月しか入れない』ということをその女性教師から伝えられていた。しかし、うちの平鹿高校の数学教師は他にも数名いるため変わりを務めてくれる先生がいた。が、その先生が栗田監督だったのだ。
別に嫌ではなかったが、やはり監督という存在を前にするとどうしても、『寝る』なんて思考にはその授業だけにはならなかった。その代わり他の授業では寝てしまった。




