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プルーム森の吸血姫  作者: 杠葉 湖
第2章 忌まわしい記憶の彼方に
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第2章 忌まわしい記憶の彼方に 1

 長いようで短かった雨季も終わり、ノーザン地方に夏がやってきた。

 雲一つない、真っ青な青空上に輝く陽が地表を照り焦がし、陽炎が揺らめき立つ。

「あづい……」

 そんな気候の中、ルディは額から滝のように汗を滴り落としながら、果物や木の実が入った籠を背負って山道を歩いていた。

 徐々にこの生活に慣れ始めたルディにとっても、それは死活問題に直結する事態であった。

 ただでさえ暑い中に、暑苦しいメイド服の服装である。いつ精神力の限界を突破して突然倒れてもおかしくない。

「た、ただいま……」

 館についたルディは、ギギギー……と錆びた音を立てながらゆっくりと扉を開けて、中へと入る。

 そしてそのまま座り込んだ。

「なんじゃなんじゃおんし?これくらいで根を上げとるのか?全く情けない奴じゃ」

 そんなルディを見て、リーザはため息をつく。

「おんし、それでも男か?そんな軟弱な精神で、よく今まで生きてこられたの」

「そ、そんなこと言ったって、リーザ。この服、暑すぎるよ。薄着にさせてよ……」

 朦朧とする意識で、汗で滲む視界になりながら、ルディはリーザを見る。

「ほう?主人を呼び捨てとな?」

 リーザは蔑むような視線でルディを見るが、今の彼には全く効果がない。

「……ほんに、仕方のない奴じゃ」

 リーザは再度ため息をついた。

 相手がこうも張り合いがなくても、からかったところで意味がない。

「しっかりせんか。そんなことでわらわの従者が務まると思っているのか。ほれ、肩を貸してやる。立てるか?」

「う、うん……」

 籠の紐を肩から外し、おぼつかない足取りで立ち上がる。

 そして、寄りかかるようになりながら、リーザの肩に手を回した。

「女子の肩を借りねば歩けぬとは、ほんに情けない奴じゃ。どうやらおんしを基礎から鍛えなおす必要があるようじゃの」

「ははは……お手柔らかに頼むよ……」

 リーザの言葉にルディは力なく笑うと、よろよろと歩きだす。

「世話のかかる奴じゃの。おんしほど手がかかる人間は初めてじゃ」

「…………」

 ルディは無言のまま、自分の部屋へと向かう。

(こやつ、ほんに体調が悪そうじゃの。わらわも少しきつく当たりすぎたか)

 ルディの様子に、リーザは少しだけ不安を覚える。

 しかしそれは、彼が死んでしまうという不安ではなく、せっかく手に入れた玩具がなくなってしまうかもしれないという不安であった。

「……ねぇ、リーザ。聞いてもいいかな?」

 やや間を置いたのち、ルディが口を開く。

「なんじゃ?」

「リーザは……そんな服装で暑くないの……?」

「そうじゃの……」

 何気ない疑問の言葉であったが、リーザは一瞬暗い表情を見せる。

「この服装は、わらわそのものじゃなからな」

「そうなんだ……。でも、たまには違う服も着てみればいいのに……その方が……」

「うん?なんじゃ?最後の方が、よく聞き取れんかったぞ」

 リーザは聞き返すが、ルディからの返答はない。

 そして、それっきり会話を交わすことなく、彼の部屋である地下室へとついた。

「着いたぞ」

「ありがとう……」

 部屋の中に入ると、ルディはリーザから離れ、そのまま錆びれたベッドの上へと身を投げ出す。

 そして、そのまま意識を失った。

「ほんに、世話の焼ける奴じゃの……」

 そんなルディを見て、リーザはニヤリと笑った。

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