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168 残り17日 勇者、魔王軍の襲撃を告げる

 勇者アキヒコたちは、地下帝国王城を切り抜け、南に移動した。

 地下帝国の端にあたるだろう。ドワーフ達が作ったのか堅牢な造りで、それ故に100年放置されても崩壊せずに済んだと思われる、まだ復興の及ばない民家に隠れていた。


「アキヒコ、まずいわ。魔王が引き連れている軍団……とんでもない連中よ。ラミアの軍勢だけじゃない。鬼族にカエルの王が率いる粘液軍団までいたわよ。それも、凄い勢いで走っていた。魔物の軍の移動は早いわ。人間の軍と違って、ついてこられない兵士は食料か置き去りにするのだもの」


「……わかっている。ロンディーニャ姫と連絡を取ろう」


 愁いの写しを取り出し、アキヒコは魔力を注ぐ。


「……えっ? これ、クモコよね? 珍しいわね、ロンディーニャ以外が写るなんて。でも……私より先にクモコが写るのね……」

「この写しは、順番は関係ないんだ。ペコだって写ったさ。だから、あの時ペコが軍隊にいることがわかったんだ。クモコ……どこだい? 森の中?」


 アキヒコは、よく見ようと顔を近づけ、うっかり魔力を流すのを辞めてしまった。

 そのために、はっきりとは見えなかった。隣のクモコが写ったのだと思ったが、どう見てもクモコは森の中にはいない。


「森の中じゃったか? わしには、暗くてわからなかったが」

「そうか……ドワーフはずっと洞窟暮らしだものな。そのギンタが暗くてわからないというのなら、僕の気のせいだろう。もう一度……」


 アキヒコが魔力を注ぎ直し、ロンディーニャ姫が写った。いつものように美しく、明るい光を纏っているかのようだ。アキヒコを見つけて柔らかく笑い、張り出たお腹をゆっくりと撫でた。


『アキヒコ、場所を変えたようですね。スイーツの出来はどうですか?』

「順調です」

『よかった。魔王の討伐後は……私にも振舞ってくださると期待していますよ』


「はい。もちろんです。しかし……ロンディーニャ、より深刻な事態が起きました」

『なんですか?』


 ロンディーニャ姫の表情が引き締まる。穏やかな国王より、王族としての風格を感じることがある。


「魔王が、全軍に指示を出すのを聞きました。王都を目指し、人間の世界を終わらせろと」

『そうですか……』


 アキヒコは、ロンディーニャ姫がまた王都に戻ってくれと言い出すのではないかと思っていた。

 魔王ハルヒの所在が不明であるため、魔の山にかならずしも行く必要はないかもしれない。魔王の懐に入り、油断を誘うのであれば、本拠地である魔の山の方がやりやすいとは感じていた。

 だが、ロンディーニャの反応は、アキヒコの予想とは違ったものだった。


『想定されたことです。ダークロードを放った時に……王都を蹂躙しようという意向があることはわかっていました。私たちも、無策でいたわけではありません。王都護衛隊、ロイヤルガードと呼称している重装甲部隊を創設、王都外壁の補修、長弓部隊の増員、宮廷魔術師による範囲魔術の研究……そのほかにも、城を部隊として戦うことを想定した訓練をしてきました。期間は十分だとは言えませんが……ダークロードが率いる部隊は、剣での攻撃がすり抜けるような魔物達が主力となっていたことが、混乱を招いた最大の要因です。軍を持って攻めてくるなら、軍をもって当たるまでです。アキヒコ……あなたは自分の仕事を全うしてください。究極のスイーツを作り上げ、魔の山に向かうのです。魔王が、全軍に指示を出したまま魔の山から動かないのなら、絶好の好機です。もし……魔王自ら王都を滅ぼしに来たのなら……魔の山に凱旋する時には、流石に油断しているでしょう』


 王都を守る姫の言葉は、アキヒコをむしろ不安にさせた。


「ロンディーニャ……それでは、魔王が王都に乗り込んできた場合には、勝てないと言っているようなものじゃないか」

「アキヒコ……姫さまは、覚悟はできている。そう言っているのよ。姫さまの覚悟を無駄にしてはいけないわ」


 魔術師ペコがアキヒコを止めた。


「……魔王を倒すために、王国の姫を犠牲にする勇者なんていません」

『アキヒコ……魔王の軍がどの程度かわかりますか?』


「いいえ。ただ……地下帝国のラミア女王は、魔王を支持しています。ほかの魔物達に嫌われている魔王であれば、その軍も恐る必要はないかもしれませんが……魔王の呼びかけに応えるため、鬼族の戦士達がものすごい勢いで走っているのを見ました」


『さすが……アキヒコの妻だった女性ですね』

「今は……違います」


『ええ。ですが、それだけ魔物達に慕われる女性が……結婚した男の子どもを宿した女に、苛烈な仕打ちをするでしょうか? 私のことは心配しなくて構いません。魔王軍に敗れれば、国の形は失うかもしれません。でも、魔王を倒せれば復興するはずです。その時、アキヒコはこの子と、王国を率いていくのですから』


 ロンディーニャ姫は、再び下腹部を撫でる。


「ロンディーニャ姫、僕は一度、魔王としてのハルヒと戦い敗北しました。ハルヒであれば、軍として敗北すれば、撤退を選択するはずです。もし戦場に魔王がいても、ハルヒ個人を怒らせることがないようにしてください。魔王軍にある程度被害を出せれば……」

『最後の兵が死に絶えるまでは攻撃してこないと……まるで人間の国同士の戦争ですね』


 ロンディーニャ姫は笑みをこぼした。笑えるような状況ではないはずだ。

 映像が消える。


「……アキヒコの子どもを宿している姫さまだからこそ、危ないんじゃないかと思うんだけど……」


 ペコが唸った。アキヒコは、ロンディーニャ姫は見せない渋面を作った。


「わかっている。多分……ロンディーニャ姫もね」


 アキヒコは、愁いの写しを荷物にしまった。

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