150 残り26日 勇者、魔物の軍勢を蹴散らす
勇者アキヒコは、ドワーフのギンタ、魔術師ペコ、クモコと共にスフィンクスの背に乗り、兵士たちと並んでハイオーク率いる魔物の群れと対峙した。
オークの群は、報告では300体のはずだった。
実際には、オーク300にゴブリン、コボウルトが加わり、総勢で1000に迫ろうという大部隊となっていた。
同数の人間の軍隊で互角、オークが力に勝る分、勝敗はわからないところだ。
すでに半数を失っている王国軍だったが、本来の目的は魔王に支配された平原の町カバデールの解放である。道中で予定外に出くわしたスフィンクスと樹木の迷宮で数を減らしたかといっても、撤退する時ではなかった。
アキヒコは兵士たちと並んで魔王軍と相対し、覚えたばかりの炎の道を横に展開することで、最前列を焼いた。
魔物たちの足が重く鈍り、重度の火傷を負いながら兵士たちに襲いかかった。
兵士と魔物が入り乱れての乱戦となった。スフィンクスにペコに従うよう命じ、アキヒコはギンタ、クモコを連れて戦場に飛び降りた。
雷鳴の剣と火事場の盾をふりまわすアキヒコの影で、ギンタがハンマーをふりまわし、クモコが糸で魔物の動きを鈍らせる。
アキヒコたちだけで、兵士100人に匹敵する働きをしただろう。
王国軍も約3割を失った。
だが、魔物の群れを駆逐した。
この世界に来たばかりの頃、アキヒコはオークに怯えていた。
今日、アキヒコは一人で100体以上の魔物を狩った。
「さすが勇者だ」
兵士たちの隊長の1人が、アキヒコの肩を叩いた。
「僕たちは……多分王都に戻る。カバデールの解放、頑張ってくれ」
これから先の、アキヒコたちの行き先は決まっていない。ロンディーニャに相談すれば、たぶん料理の修行のために戻れと言われると思っていた。本来は、戦争に加担する予定ではなかったのだ。
「ああ……魔王本人が出でこない限り、なんとかなるだろう」
隊長は頷き、アキヒコの背中を押した。
勇者アキヒコはギンタとクモコを連れて、スフィンクスの背中に戻った。
※
スフィンクスは、勇者アキヒコに敗れるまではずっとザラメ山脈の山中の窪地で寝て過ごし、なぞなぞを考えていたという。
スフィンクスを駆けさせ、戦場を離れた。
野営の準備をし、アキヒコは持ち物の中から愁いの写しを取り出した。
魔力を注ぐ。すぐにロンディーニャ姫が応じた。
「あらあら。さすが。あっさり繋がって……焼けるわね」
食事の準備をしながら、愁いの写しを覗き込んでいたペコが舌を出した。
鏡面の中で、ロンディーニャが笑った。
『無事、ペコに許されたようですね。アキヒコ、これ以上増やすことは許しませんよ』
アキヒコは頷いた。何を、と問う必要もなかった。
「ロンディーニャ、開発中のお菓子のできはどうだい? ペコも合流したし、僕たちも手伝いに戻ろうか?」
アキヒコに問われ、ロンディーニャ姫は少し間を置いた。
『文献に従ったスイーツの再現は順調です。問題は……私たちの中に魔王が味わった未知の味を知っている者がいないことですが……アキヒコに戻って来てもらっても意味が無いというのは、料理指南役や厨房の女たちの共通の認識です。まあ……私たちに振る舞った料理の出来を考えれば、当然でしょう』
「……そんなに?」
ペコが尋ねた。アキヒコが肩を落とす。ロンディーニャが笑う。
『今日の食事当番をアキヒコにすれば、ペコにもわかるわ』
「……いえ。こんなことで、死にたくありません」
ペコが首を振る。ロンディーニャは話を戻した。
『ですので、戻ってもらわなくとも結構です。それより、レシピを再現する厨房を確保してください。いきなり魔王の城で作るのは無理でしょう。それから、王都の食材は決して恵まれているとはいえません。古のレシピを再現はしましたが、現在のもっと優れた食材を使用すればより美味しく改良できるのではないかと、料理指南も言っています。ですので……この国で最も物資にめぐまれた町、交易都市港町ラーファに行ってください。冒険者登録が済んでいるなら、冒険者組合の厨房を借りられるかもしれません』
「……わかりました。では、ラーファでまたお呼びします」
『はい。ペコ……アキヒコがあまり悪さをしないよう、しっかり監視してくださいね』
「はい。アキヒコには、私の目をつけておきます」
ペコは言うと、懐から使い魔を取り出した。
ナツヒコと名付けられたネズミである。




