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149 残り27日 魔王、出撃する

 魔王ハルヒは、ハルヒに従う主だった魔物たちを玉座の間に集めていた。

 この国の地図を広げ、魔の山を指差した。


「魔の山から、ラーファまでは地下の大洞窟が走っている。かつての地下帝国の女王ラミアはまだ生きていて、私に従っているわ。地上を移動すれば人間たちに警戒され、準備される。ノエル、鬼族を率いてラーファの真下まで移動しておいて。ヤモリ族と獣たち……魔の山にいる戦力はこんなものかしら……」


「我輩たちも戦えますぞ」


 山ガエルの王がゲコゲコと主張した。ハルヒはジャバだけを召喚したつもりだったが、山ガエルの王が召喚されたことで、主に粘液を操る魔物たちが集まってきていた。その中には、不定形の魔物スライムもいる。


「魔の山の守りは必要ないわ。奪われたとしても、奪い返すだけだもの。わかった。ジャバもありったけの眷属を率いて地下道を進んで。言っておくけど、戦う力のない魔物を、食料がわりに連れて行くのは禁止するわ。そんなことしなくても、食料はあるのだから」


「承知いたしました」


 ジャバが頭を下げる。ノエルは驚いたように目を見張った。山ガエルの王は、他人に頭を下げることが想像できないと、ハルヒにぼやいたことがあった。


「ハーピーたちは、最近魔の山とザラメ山地を縄張りに活動しているみたいね。そのままでいいわ。ザラメ山地にグリフィンがいるという報告は受けたけど、ハーピーたちの邪魔になるようなら、途中で潰しておくわ。表立った戦力はそのぐらいかしら」


「少数の魔物たちはどうします? 鬼族や獣族ほどの数はありませんが、希少ですが有力な部族もいます」


 堕天使サキエルが尋ねた。ハルヒは魔女サリーに視線を向ける。


「魔の山全体に情報は伝達できるかしら? これから、人間たちの国を滅ぼす。参加したい者は、地下洞窟から地下帝国に向かって待てって」

「ふむ……この婆やにお任せ下さい。魔王様からいただいた水晶玉、以前のものよりはるかに性能がいいのです」


「それと……魔の山にいるのは、魔物だけじゃないわ。亜人たち……ドワーフは戦いには参加させない。百年間もただ穴を掘り続けた連中だもの。死なせたくはないわ。ダークエルフたちはどうかしら?」

「私が交渉に参りましょう」


 堕天使サキエルが名乗りを上げた。


「ミスリル銀の水盆を私に送ってから、交流がないわ。大丈夫なの?」

「魔王様は、すでにザラメ山地のエルフ族をドリアドごと従えました。同じ盟主を頂くなら、自分たちが有益であることを見せつけようとするでしょう」


「わかった。なら、任せるわ。カバデールで人間たちの移住希望を募ったけど、まだ居ないわね。オークやコボウルト、ゴブリンたち妖魔族も、魔女の呼びかけに答えるでしょう。殺したがるだけで能がないけどね。カバデールで奴隷にされていた獣人たちが、解放されて多数魔の山に住み着いたって噂だけど?」


「我らが従えます」


 魔の山で留守番をしていたトラ族の長ベリーが頭を下げた。チェリーやスモモがいない間は、トラのベリーが獣たち魔物を統括していたのだ。


「私が魔法を刻んだ武器や防具は、魔力を扱える者たちに配分したわね」

「魔物たちの大部分は魔力を使用可能です。各部族で均等に分けました。貸与としてですが」


 サキエルが報告する。


「……貸与……ああ。戦争が終わった後、褒賞とするためかしら」

「それは皆、喜びましょう」


 サキエルが笑った。どうやら、ハルヒの意図とは違ったようだ。大きな問題ではないだろう。ハルヒは最後に言った。


「ユニコーンのように、完全な意思疎通ができない魔物も多くいるわ。それらはドラゴン王にけしかけさせる。もっとも……ユニコーンは私が言えば従うでしょうけど……唯一の懸念は、勇者が持つ支配の首輪ね。私が勇者を捕まえて、首輪を奪う。それまでは、地下帝国があった場所で、連絡を待ちなさい。ラミアに協力して、地下帝国の復活に協力していてもいい。進撃を始めるときは、合図を送るわ」


「承知しました」


 ハルヒがこの世界に召喚されてからの付き合いである、赤鬼族のノエルが答えた。


「では皆、頼んだわよ」


 魔物たちが一斉に答えた。


 ※


 魔王ハルヒは、魔王城の屋上に来ていた。

 共に魔の山を見下ろしていた。

 隣にいたのは、召喚したばかりのドラゴン王である。

 城の周囲で、のんびりと草を食むユニコーンを見つけた。


「魔獣たちはどう? あなたに従った?」

「生意気なユニコーンを含む、全ての魔獣は我に従いました。魔王様の軍が動く時は、従いましょう」


 ドラゴンの王はガラガラと喉を鳴らした。全身が真っ黒の鱗に覆われているが、光を反射すると金色に輝いて見えるのが特徴だ。


「それは結構。ねぇ……あなたも王でしょう? 私……魔王として上手くやれているかしら?」


 ハルヒは、自分に従う魔の山を見下ろして、自分でも理解できないほど、突然尋ねた。ドラゴンの王がガラガラと笑った。


「昨日、申し上げたはずです。『偉大なる魔王様』と……自ら認めない主人に、そのような言い方はいたしませぬ」

「そう……あなた、名は?」


「我は唯一無二であるため、ドラゴンの王であるのです。故に個体名は持ちません。ただ……魔王様から見て、必要であれば……」

「では、プリンとしましょう。どうかしら?」


「ほほう……どのような意味ですか?」

「異世界で……私が大好きだったものの名前よ」


 ハルヒが言うと、お菓子の名前をつけられたドラゴンの王は笑った。


「そろそろ行きましょうか。武器を回収したい。一緒に行ってくれる?」

「もちろんです」


 ドラゴン王プリンが四肢を折り、背の位置をさげる。ハルヒは、首の付け根に跨った。初めからハルヒが乗るための場所であったかのように、ハルヒはすっぽりと収まった。


「ユニコーン、先に行くわ。あなたは皆と来て」


 ハルヒが言うと、草を食んでいたユニコーンが高くいなないた。

 ドラゴン王が舞い上がる。

 自由な、気持ちのいい滑空だった。

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