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143/203

143 残り30日 魔王、魔王城で決断する

 魔王ハルヒは、ユニコーンに跨り、堕天使サキエルのみを引き連れ、魔の山に向かった。

 ユニコーンは疲れを知らないかのように駆け続けた。清純な乙女を乗せている限りその力は無限に湧くのだと、並行して飛んでいるしているサキエルが語った。


 巨大なカメが沈む沼地を越え、バイラコーンの生息地を駆け抜けた。

 深い森の中でもユニコーンの足は止まらず、地下帝国への入り口を飛び越え、ハーピーの生息地を駆け上がり、魔王城に至った。


 この世界に降臨した当初から求めた、魔王城が完成していた。

 岩と大木で組み合わされた厳つい造りで、3階建の3階部分は全てハルヒのみが使用する場所となっている。


 一見廃墟のように見えるが、岩と大木をしっかりと組み合わせ、粘液を出す魔物が固めてある。

 盤石の城である。

 城の中までユニコーンで入る気になれず、角のある白馬を降りた。

 ハルヒが地面に降りると、魔王城の開け放たれたままの門から、やつれた影がよろよろと飛び出してきた。


「まさか……まさか……魔王様、ようやくお戻りいただけた……」


 人間に似た容貌とはこんなにも醜くなれるのかと思うほど醜く、こぶとイボだらけで、爛れた肌をした魔女サリーだった。

 ハルヒは魔女の手を取り、自分の両手で包んだ。


「ええ。長らく留守にして悪かったわね。王の資格を持つ配下を召喚して任せたはずだから、問題はないと思っていたのだけれど」

「ええ。ええ。問題はございません。まるで……魔王様がご降臨なさる以前のようでございます」


 魔女サリーは肯定した。だが、その言葉はハルヒを安堵させるものではなかった。

 ハルヒが現れる以前に戻った。その状態を魔物たちが望むなら、ハルヒがいつまでも魔王ではいられない。


「私は、山ガエルの王ジャバを召喚して留守を任せたのよ。うまく行っていないの?」

「ご自分で、ご確認ください」

「わかった」


 ハルヒは、サキエルと魔女を従えて城に入った。


 ※


 城の3階は完全にハルヒ用の室である。玉座の間を3階の中央に据えた以外は、全ての部屋がハルヒの自室だ。自分の部屋に入れる魔物は厳選したいという、ハルヒのわがままである。

 部屋数は多いが、基本的に扉はない。魔物たちが気づかなかったからである。


 まだ自室には行ったことがハルヒだが、1階から2階までを通過するときに、扉がないことは気づいていた。

 扉について考えながら歩いていると、3階の玉座の間で言い争う声が聞こえた。


「魔王様はこんなことは認めない! 弱いものを餌にすることなどない!」

「そんなことはない。強いもののみで魔王軍を構成するべきなのじゃ!」

「なら、ドレス兎が側近であるはずがないだろう!」

「あれは非常食なのじゃ」


 どうやら、魔王の判断について争っているらしい。片方の声には聞き覚えがあった。

 港町ラーファから、一族を引き連れて戻ったようだ。


 ハルヒが玉座の間の敷居を跨ぐ。

 言い争っていた巨漢2人の動きが止まった。

 一人は赤鬼族のノエル・ド・ブッシュ、もう一人は魔の山の留守を預けた山ガエルの王ジャバだ。


「ま、魔王様! お戻りであれば、言っていただければ……」


 ノエルが膝をついた。ジャバは玉座に腰掛けていた。

 動こうとしていた。だが、はまり込んで動けないように見えた。

 ハルヒは2人の視線を受けながら、中央に進んだ。


「私は、私に従う者は虐げない。ずっとそう言って来たはずよ」

「はっ。この者は魔王様のことを理解していないのです」


 ノエルはジャバを糾弾した。

 玉座にはまり込んでいたジャバが抜け出す。ハルヒに場所を明け渡す。

 ハルヒの認識では、統治に特化した能力を持つ魔物だ。そういう魔物を求めて、頭に浮かんだ魔法陣で召喚したのだ。


「しかし……強い魔物に絞る必要もあるでしょうね」

「ほら、魔王様のお言葉をよく聞くのじゃ。余の言葉に過ちはない」

「魔王様……では……」


 唇を噛むノエルでも、得意になるジャバでもない。口を挟んだのは、ずっと背後についてきたサキエルだった。

 ハルヒは頷いた。


「弱い魔物まで巻き込めば、余計な被害を出すことになるわ。強い魔物のみを選別する必要があるわ」

「いよいよですね」

「ええ。この国に間違った文化を根付かせた、人間たちの世界を終わらせるわ」


 ハルヒの宣言に、やや遅れてついてきていた魔女サリーが腰を抜かした。

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