142 残り30日 勇者、戦場に立つ
勇者アキヒコは、魔王ハルヒを残された期間で殺さなくてはならない。
魔術師のペコに誓った翌日、ペコとギンタ、下着の身につけ方を学んだクモコを連れて天幕を出た。
南の方角に、まさに街道を断ち切るかのように巨大な岩が出現し、兵士たちの行軍を阻んでいる。
「アキヒコ、あなたたが触れば縮むんじゃないの? あれ、ザラメ山脈にささっていた聖剣でしょ」
「ああ……しかし、あれは僕には扱えない。縮んだが取り落とし、うっかり元に戻ったらどうなる? 聖剣に押しつぶされて王国軍が全滅になんてことになったら、僕は魔王を倒す前に此の国を逃げ出さないといけなくなる」
「それもそうね……」
小さくなった剣状の物質が元のサイズに戻る条件を、アキヒコはハルヒほど突き詰めて研究したことはない。慎重にならざるを得なかった。
「聖剣は道より広そうじゃが……前の方は少しずつ進んでおるな」
「聖剣を回り込んでいるみたいね」
ペコが、ザラメ山脈に聖剣が食い込んだ部分を指差した。
兵士たちが列を作っている。
道が悪いのか、1列に並んで進んでいるが、順調に進んでいるなら、一晩かけてもほとんど進んでいない現在の状況は不自然だ。
「それにしても、遅すぎるわね。ちょっと話を聞いてみましょう」
ペコが大股で歩き出した。
「誰に聞くんだ? 知り合いでもいるのか?」
「私は、この軍に正式な魔術師として参加しているのよ。隊長たちとは面識があるわ。それに、問題が起きているなら勇者の出番でしょ」
「あ、ああ……」
ペコに引きずられるように、アキヒコは兵士の群に突っ込んでいく。
「……アキヒコの奴……嫁の尻に敷かれる姿しか想像できんな」
「尻に敷く」
ギンタのつぶやきに、クモコが笑った。
※
魔術師ペコを見ると、階級はわからないが隊長だろうと思われる男が頭を下げた。
「魔術師殿、そちらは……まさか……」
「そう。勇者アキヒコよ。道が塞がれたのはわかるけど……この岩の向こうに行かないとどうにもならないんでしょう? 何をのんびりしているの?」
「勇者殿、お会いできて光栄です」
隊長はアキヒコに握手を求めた。アキヒコは応ずる。その背後に、魔王と瓜二つのクモコが立っているが、そちらには目が行かなかった。ハルヒの容貌までは、兵士たちには伝わっていないのだ。
「それで、ペコが言う通り、どうして進まないんです?」
「道が狭いのはご覧のとおりですが……この岩を超えると、不思議に街道が森になっています。それも……まるで迷路のように入り組んでいるようです」
「迷路なら、大勢で攻略すれば済むでしょう」
「迷宮の出口に巨大な魔物がいて、なぞなぞを仕掛けてくるのです。間違えれば命を奪われ……なぞなぞに挑むのも、順番に並ばないと、どこからか矢が飛んできます。しかも……樹木でできた天然の迷路は、生きているように通路が変化するらしく……手間取っております」
「通路が変わる段階で……いえ、突然出現した段階で、天然の迷宮ではないんじゃない? まあ、それはいいわ。アキヒコの言う通り、人海戦術でどうとでもなるでしょう。問題は、巨大な魔物が出すなぞなぞね……難しいの?」
「わかりません。挑戦した兵士は、全て死にましたので」
アキヒコは、魔物がなぞなぞを仕掛けてくるという話に、思い当たることがあった。だが、アキヒコがいた世界の物語だ。なぞなぞの内容が同じとは限らない。
それに、全く同じ問いかけを繰り返しているわけではないだろう。あえて口を挟まなかった。
「ふむ……それで、あの順番は守らないといけないの?」
ペコは、聖剣という名の岩を回り込むために並んでいる兵士たちを指差した。
「まさか。あの岩を越えた先は地獄です。誰も、好き好んで行きたいわけではありません」
「なら……任せてよ。アキヒコに」
「おお。頼みます。お前ら、勇者が先陣を切る。道を開けよ!」
ペコの無責任な言葉に、隊長が声を轟かせた。
兵士たちが喝采し、勇者アキヒコに道を開けた。
勇者アキヒコは、魔王ハルヒが仕掛けた迷宮と、命がけの謎解きに挑むことになった。




