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あるパラノイアのバイト初日

 やっと採用されたカラオケ店のバイトだが、初日にして早くも俺の素顔が暴かれようとしている。教育係の女子大生が妙な質問や注意ばかりしてくるのだ。こいつ、俺の何を知ってやがる……。


「お客さんが帰った後は部屋の中に忘れ物がないかよく確認してください。特にスマホの忘れ物が多いので」


 お、俺が盗難スマホの転売で小銭を稼いでいることを暗に言っている!? 


「最近は電子タバコも結構落ちてます」


 もちろん、電子タバコも売り飛ばしている。


「次に見て欲しいのは機材の破損ですね。盛り上がってモニターを壊しちゃうお客さんもたまにいます」


 今度は俺がストレス発散の為に家電量販店のテレビを殴っていることを指摘された。なんて奴だ!


「次に清掃ですけど、注意して欲しいのは割れたグラスやボトルの破片です。よく見ずにダスターで拭くと怪我することもあるので」


 これは3年前の大晦日の傷害事件のことだ。俺は割れたビール瓶で当時対立していた組織の若い奴の腹をえぐった。警察からは逃げおおせたが、奴等がまだ俺のことを狙っているのは間違いない。もしかしてこの女、あの組織の──。


「ちょっと、松本さん! さっきからぼーっとしてますけど、話聞いてます!?」

「ご、ごめんなさい! 考え事をしてました」


 急に激昂しやがった。こいつもカタギじゃねえな。俺には分かる。まだ若いが、こちら側の人間だ。用心しなくては。


「もう、しっかりして下さいよ! じゃ、気を取り直してカラオケ機器の説明です。松本さん、カラオケは行きます?」

「よく、一人で」

「なら基本的な操作は大丈夫ですね。たまにお客さんから質問があるんですけど、うちで入れてる機器は過去の履歴が消せないのでそこだけ覚えておいて下さい」


 過去の罪は消せないって警告か。どうやらこの女、俺とやり合うつもりらしいな。


「あと、マイクですけど……」

「……はい」

「最近はお客さんがナーバスになっているので、しっかり消毒した後に清掃済みのカバーを被せてくださいね?」


……包茎を笑いやがった。こいつは絶対に許さねえ。俺はまた、罪を重ねることになる。


カラオケルームに浮かぶ女の作り笑いに、決意を固めるのであった。

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