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硝子蝶  作者: 無夜
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投稿ミスりました。。。こっちが先。

2004年 8月の夏コミで無料配布

 不気味な硝子の蝶がいる庭のある家にやってきた女。 ホラーなのか耽美なのか作者本人もいまいちわかりません。

 薔薇で出来たアーチをくぐったその先は、噴水のある小さな中庭……。その世界を囲むのは、饐えた甘い香りを放つ黄金色のサンフレアー。

 さんさんと降り注ぐ美しい夏の陽光が、そこだけ弱かった。

 杉の大木の落とす緑色の影は濃い。噎せるほどの薔薇の香気を含んだ風は涼しく、真夏の日の昼寝の場所としてうってつけ。

 長い椅子に横たわっている女も、そう思ってここに来たに違いなかった。

 白い肢体が小袖から露になっている。

 血の気のない体。纏わりつく黒い髪。

 まるで、人形のようだ。真紅の唇が小さく歪む。喜悦……?

 襟は大きくはだけられ、静脈の浮く乳房が見えている。

 そこに、さらに濃い影が差し込んだ。

 猛禽と見紛うほどに大きな羽翅を持つ、蝶が舞い降りたのだ。

 女の口はさらに大きく歪む。石榴の色をした真っ赤な唇。罪の林檎を連想する。

 蝶は巨大な羽翅を擦り合わせ、それが硝子ででも出来ているかのような不思議な音を立てる。

 グラス・バタフライ。ステンドグラスのような透ける羽根。濃厚な赤と緑。それらが透けない黒で縁取られている。

 蝶は女の胸に止まっている。

 女は笑う。

 蝶は女の胸に長い口吻をつきたてる。

 乳を飲むように、心臓にその丸まったストローを差し込んで、命を吸う。


 りゃあぁぁぎいぃぃ

 きーぃぃぃ

 りぃぃぃー


 硝子のゼンマイで動く仕掛けのように、不協和音が響く。耳障りで、乱暴な狂気を誘発するような高い音。


 女の肌はさらに色を失う。白いを通り越して、今や透けるほど。

 唇だけはいやに赤くて。

 それだって、いつしか青味を帯びてきた。

 ああ、失われるのだな、あの女は。

 食われてしまうのだ、あの巨大な蝶に。


 りりぃぃ


 不愉快な音が静まり返った中庭を満たしていく。

 女は仰け反り、さらに胸元を露出させ、腹の辺りまで見えてしまうほど。焦れるように組替えられ、足が開けば裾が乱れて。暗がりがさらされる。

 情交を覗き見るような、いやらしさ。

 以来、その女の姿を見ていない。その女が誰だったのか、俺はよく知っている。

 俺の母だ。

 ただし。

 俺の母はこの記憶よりずっと前に、とうに死んでいるはず。


 鳶より巨大な、ステンドグラスのような蝶と、死んだ女。ありもしない中庭。

 狂った夢を、幼い頃に見ただけだろう。

 このやましい、エロティックな夢を当然俺は、父や祖母に語ることはなかった。

 ただ、きぃきぃという硝子の擦れる音は今でも耳に残っている。

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