気持ちはこれ以上増えない
今日の宮下さんはいつもよりそわそわしている。
どこか落ち着かない、そんな様子。
何を考えているのだろう。
私はそんな宮下さんを見て、なにか話題を作らなければと頭をフル回転させていた。
私は宮下さんが好き。
友達以上になりたい。
今この場で好きだといえば宮下さんはどうするのか。
帰ってしまうのか、それとも応じてくれるのか。
私は、後悔しない選択肢を取れるのだろうか。
人生はいつもそうだ。
選択しなければならないのに、正解がない。
私は正解しかない道を歩んでた。
いばらな道を歩むぐらいならば平坦な道でいい。
初めて、道のない道を選択した。
でも後悔はない。
この選択は後悔したくない。
私は…前を向いてる。
「鷹野さん何買ったの?」
宮下さんは私の手にある紙袋を指さし聞いてきた。
「お楽しみって言いたいところだけど、ケーキだよ」
宮下さんのために買ってきた。
一緒に食べたくて、一緒に味を共感したかった。
最近私は自分でも理解できないことをする。
人のためにこんなくさいこともできたのかと感嘆する。
「わざわざ買いに行ったの?」
彼女は少し申し訳なさそうだった。
自分のためにわざわざ少し遠出をしてまでする必要はないと言わんばかりに。
違う。そんな純粋な理由じゃない。
彼女を駅まで迎えに来る理由が欲しかった。
普通に迎えに行くといえば彼女はきっと遠慮する。
でも、ついでに一緒に家向かおって理由なら断れない。そう思ったから。
「早く夜になって欲しい」
早く花火をしたい。花火をしてる所を目に焼き付けたい。
「えー、私はゆっくりでいいかも」
「どうして?」
「だってそんな早く夜になられると鷹野さんと居れる時間減っちゃうでしょ」
驚いた。
普段の彼女は遊び足りないとか、一日終わるの早すぎるとか感想しか言ってない。
理由を初めて聞いた。
私といることに意味を感じてくれることの優越感。
もしかしたら彼女も同じ気持ちなのかもしれない。
そんな期待をしてしまう。
だけど、彼女と私の気持ちは同じじゃない。
私はあくまで彼女のクラスメイトでしかない。
この関係は切り離せない。
恋というのは厄介だ。
人を脆くしてしまう。
私はこの感情が苦手なのかもしれない。
裏切られる。もしくは私が離れる。
正解のない道は歩む必要があるのか。
ネガティブな事ばかり考えてしまう自分は自分らしくない。
「鷹野さんは…お泊まりよくするの?」
彼女との距離は少し近づいた。
「ゆきとしかしたことない」
親友と呼べるのはゆきしかいない。
そもそも家に上げる友達は宮下さんで二人目だった。
ほぼ家族であるゆきを考えなければ、宮下さんが初めて家に招待した人。
そう考えれば初めから宮下さんは私にとってどこか特別な人だったのかもしれない。
私の線引きを曖昧にしてくる彼女。
そんな彼女のことが恐ろしい。
私の中で大きくなっていく、私を変えようとしてくる。
「夏休み終わちゃっうの寂しいな」
「私も…宮下さんともっと会いたかった」
思っていたことを口に出してしまった。
彼女は一瞬立ち止まった。
余計な一言だっただろうか。
「私も…もっと…鷹野さんに会いたかった」
彼女も同じことを思っていた。
その事実だけで安心した。
「早く引退できないかな」
「部活の人達が聞いたらびっくりだよそれ」
「来年になれば引退できるけど、次は受験なんだよね」
来年の今頃はきっと受験勉強をしている。
もしかしたら今以上に宮下さんに会えなくなる。
受験もあるし、卒業もある。
そうなれば今とは違う関係になっている。
赤の他人じゃなければなんでもいい。
私が我慢すればいい。
「卒業したくないな」
「まだまだ高校生してたいよね」
「ずっと今のままがいい」
今のように、宮下さんと一緒に歩いてたい。
そう遠くない未来の話をしてるうちに家に着いた。
ゆきの家をちらっと見たけど、誰もいない。
家族旅行に行ってるからいないのが正解。
私も誘われたけど、今年は違うことを優先したかった。
「八月も終わるけど、まだまだ暑いね」
私はケーキを冷蔵庫に入れ、冷蔵庫に入ってたペットボトルを二本手に取り、ソファに座ろうとしていた宮下さんに声をかけた。
「私の部屋いこうか」
「え?」
彼女は驚いてた。
おそらく私の部屋に行くことが予想外だったからだろう。
今までこの家で遊んでたことは何度かあるけど、私の部屋に行くことはなかった。
別に部屋にあげたくない訳ではなかった。
ただ部屋を片付けてないから入れれなかった。
見せたらダメなものが散らばっていたから。ただそれだけ。
日菜のお手伝いするための資料や原本が床にある状態で宮下さんを向かい入れる訳には行かない。
今日は事前に書斎の中に置いたから大丈夫。
何度も確認して、掃除機もかけたし。
「階段上がって一番奥の部屋」
「鷹野さんは来ないの」
「お菓子とか用意して持っていくよ」
「待ってるから一緒にいこ」
一緒に部屋に入ると緊張するから、別々で入ることを提案したが、彼女は一緒に入る方がいいのだろうか。
好きな人を家に上げるというのは緊張する。
けど、このどきどきが楽しいし、嬉しい。
何をしても宮下さんのことが気になる。
今日余計な一言を言わないように気を張らねば私はきっと取り返しのつかないことをしてしまう。
「いこっか」
私はお菓子や飲み物を手に取り階段を上がった。
宮下さんは後ろからついてきて、周りを見渡していた。
初めての場所が気になるようだった。
「どうぞ」
「失礼しまぁす」
彼女は部屋に一歩近づく。
「なんか、鷹野さんの部屋ってシンプルっていうか、おしゃれ?」
「まあ、割となにもないよね」
この部屋は白基調でほんとに必要最低限のものを揃えたって感じ。
私が唯一拘ってるとするとベッド周りだ。
「ぬいぐるみ多いね」
「ゲーセン好きだから、めっちゃ取る」
「これはなに?」
「抱き枕」
宮下さんはベッドの下にある長いぬいぐるみを指した。
むかし水族館に行った時にチンアナゴのでかいぬいぐるみを親に買ってもらった。
「抱き枕使うんだ」
「むしろ抱き枕ないと寝れないかも」
「え、意外?」
小さい頃から抱き枕を使っていたらしい。
抱いてたらなんか落ち着くし、寝やすい。
「ぬいぐるみ好きなんだ…」
彼女は独り言のようにブツブツなにかを言っていた。
私はチンアナゴのぬいぐるみを見ながら、彼女のことを考えていた。
それからの時間は正直いつも通りで、漫画や小説、ゲームをしたりした。
宮下さんがこの家に来るようになってから私は色々なゲームを買い揃えた。
宮下さんとやりたいゲーム。
一緒にしたい。
この時間がほんとに好き。
時が止まって欲しいぐらいに好き。
私の感情はこれ以上大きくなれないほどに大きくなってしまった。
一度自覚してしまうと後戻りはできない。
私は彼女と付き合いたい。
心の中で謝りながら彼女の横顔を見つめた。
綺麗な人だ。
「今日夜ご飯何食べたい?」
「宮下さん作ってくれるの?」
「できるものなら」
「じゃオムライス食べたい」
夜ご飯はデリバリーすればいいと思っていたけど、宮下さんのことを見ていたらどうしょもないぐらいに彼女のためになにかをしたくなる。
彼女の願うことを叶えてあげたい。
「オムライスぐらいなら余裕だわ」
どんなオムライスにしようかと悩み窓を眺めた。
夕日が見える時間まであと少し。
早く暗くなって欲しいのに時間も止まって欲しい。
矛盾してる自分に嫌気がさす。
どうか、私の心を奪わないで欲しい――




