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親友の友達、私のクラスメイト  作者: 秋羽


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10/18

そんなはずない。

高校生になってからもうすぐ2度目の夏休みがやってくる。今年は去年同様部活漬けのつもりでいる。

 休みの日は友人と遊ぶ。

 そのつもりでいる。


 夏休み前最後の休日。私は自分の家ではなく友人の家に来ている。


「鷹野さんの好きそうなの買ってきたから」

「いやぁ、申し訳ないね、全部好きだから嬉しいよ」


 鷹野さんとの約束を守ってもらうために今日は昼過ぎに駅前でケーキを買って、鷹野さんの家に来た。

 1度来たことがあったけど、念の為に住所送ってくれた彼女はやはり優しい。


「外暑かったよね、飲み物どうする?」


 彼女は冷蔵庫を開けて、尋ねてきた。ついでにケーキの入ってる箱を冷蔵庫の下段に入れた。

 もしかしたら、私のために買ってきてくれた飲み物があるかもしれない。


「なんでもいいよ、おすすめで」

「そうだな、じゃアイスティーにしようか」

「作ってくれるの?」

「うん、私も飲みたいし」

「じゃミルクがいい」


 彼女は私にダイニングが見えるところに座るよう案内してくれた。

 まるで貸切したカウンターの様で、特別感が溢れてる。



「鷹野さん紅茶好きだよね」

「そうね、紅茶も珈琲も好きだね」

「大人だね」


 彼女は「そんなことないよ」って謙遜しながら微笑んでいた、私からしたら彼女は大人に見える。ひとりでなんでもできる、立派で眩しく見える大人。


 彼女のことはほとんどわかってない、だから知りたい。

 ずっと見てたい。


 手際のいい彼女を見てなんだかそわそわしてしまう、手持ち無沙汰のような感覚。

 視線を感じたのか、鷹野さんは少し困ったようにぎこちない。


「そんなに見られたらいたずらできないじゃん」

「え、なんかする気なの?」

「勝手にレモンに入れたりとか?」

「ずっと見とくね」


 鷹野さんは私の緊張をピンポイントで解してくれる。

 気になってたことを一瞬で忘れさせてくれる。


 手元を見ながらちょくちょく、鷹野さんの顔を見てたけど目が合うことはなかった。



 鷹野さんの作ってくれたアイスティー。私はミルクを入れたからアイスミルクティーだけど、少し後悔した。

 すごく美味しくて、勿体ないのに。

 鷹野さんはアイスティーを飲んでいる、冗談でもお揃いだね、なんて言えたのに。

 自分の選択が間違えたことに落ち込みそうになる。


「宮下さんゲームとか得意?」


 鷹野さんはテレビテーブルの周りにあるケーブルを繋げ、ゲーム機の画面をテレビに写してくれた。


「ゲーム好きだけど、あんまりしないかな」

「まじ、なんか得意そう」

「カーレースのゲームならめっちゃ得意」

「うわ、まじか苦手なんだけど、、」


 カセットは持っているようで、すぐに準備してくれた。

 苦手なのに、私のできるゲームを選んでくれることに心が躍る。

 優しすぎて胸が痛む。


「これコントローラーね、あ、ケーキ忘れてた」


 待っててと言わんばかりにソファーから立ち上がり、冷蔵庫からケーキを出してくれた。


「どれがいい?」

「鷹野さんのために買ってきたから好きなの選んでいいよ」


 どれにしようかなと、腕を組んで悩んでる彼女の姿に目が離せない。

 今日はいつもと違う髪型になってることに再度気づく、学校では下ろしていたはずの髪の毛はハーフアップになってて可愛い。後ろのシュシュも似合ってるのに、かわいい。そんな一言が言えない。


 ケーキを食べながらゲームするほど器用じゃないから、先にケーキとアイスミルクティーを頂くことにした。


「うまいがすぎる」


 彼女はリアクションが大きくて、わかりやすい。

 ひとくち食べる度に美味しいと頭の後ろで腕を組む。

 何度美味しすぎると言ってくれるので、作ってない私まで嬉しく思う。


 ふと目に入ったものに気を取られる。

 今の今まで気にしてなかったのに、、


 ネックレス…

 誕生日前日からおそらく毎日つけてる。

 誰から貰ったのかは知らない。

 でも、きっと大事な人から貰ったのだろう。じゃなければこんな大切に扱うことはない。


 さっきまで気づかなかったのはきっと鷹野さんがブラウスのボタンを2つ外したからだろう。


 あまり見たくないものをしてしまった気分になってくる。


「ねえ、鷹野さん、、そのネックレスってさ、誕生日プレゼント?」

「そうだよ、かわいいよね」

「うん、、似合ってる」


 自分でもわかるほど声が硬い。

 たかがネックレスなのに。


「これひーちゃんからもらったの」

「ひーちゃん?」


 聞き覚えのない愛称だった。

 少なくとも鷹野さんがいつも一緒にいる2人の名前ではない。


 鷹野さんなら他にも誕生日プレゼントをくれる人は沢山いるけど、学校で私が知る限りネックレスのような、親しい人は知らない。私が知らないだけかもしれない。

 誰かのか知りたい。聞きたい。私の知ってる人でも知らない人でも心が落ち着くことはない。


「ゆきのお姉ちゃんだよ」


 雪には姉がいるし、鷹野さんと仲良いことも聞いてきた。

 知ってるけど、知らない人。

 私が想像するよりも仲良いのかもしれない。


「仲良いんだね」

「そうね、まぁ生まれる前からの仲だからね」


 私が知ることのない鷹野さんを知ってる人。


「6歳上だけど、まぁ、友達かな?」

「仕事手伝ってるんだよね」

「ゆきから聞いた?」

「え、うん、ごめん、勝手に…」


 他のことを考えてしまった。

 おそらくきいてはいけないことを聞いてしまったのだろう。

 たしかに、内容はあまり人に知られてはいいことじゃない。

 私なら普通にここから逃げ出してしまう。


「どんな仕事かは聞いてないけど、どんなの?」

「そっか、漫画家だからそれのお手伝いだよ」


 よかった。さっきの失言をカバーできた。


 焦っていた私は目の前にあるミルクティーで喉をうるわした。


 鷹野さんから逸らした目線をもう一度戻すと彼女はたまに見せる困ったような顔をしていた。


 私はこの困った顔に愛おしいという感じを覚えた。

 初めて見た時は衝撃を受けた。

 この人はこんな顔もするんだ。

 困らせたい訳じゃないけど、その表情がほしい。


 落ち着きを取り戻すためにゲームしよと声をかけた。

 その頃には鷹野さんもいつものように笑っていた。



 鷹野さんの素の笑い方は意外と豪快で清々しい。もう一度でも何度でも見たい。

 学校では大人しい、上品さを忘れない笑い方をしている、ずっとにこにこしてる。

 けど家にいる鷹野さんは色んな表情をする。

 負けた時にする悔しい顔、納得いかない顔。

 勝った時にするドヤ顔、にやっとしてる顔。

 考えてる時にする真剣な顔。

 そして考えてる時は瞬きの回数が増える。


 もっと知りたい。もっと見せて。

 もっと、もっと、もっと。


「宮下さん時間大丈夫?」


 鷹野さんの一言で現実に引き戻された。


「今日はそろそろ帰るかな」

「駅まで送ろうか?」

「大丈夫だよ」


 鷹野さんともっと一緒に遊びたい。

 今までの友達よりも仲のいい友達になりたい。


 だから私は思いついた。


「鷹野さん、もし良かったら夏休みも遊ばない?」

「私は全然いいけど、宮下さん部活だよね」

「夏休みでも毎週火曜と土日は休みだから、遊べる日だけでも遊ぼうよ」

「いいよ、予定すっからかんだから合わせるよ」


 約束ができたことににやけが止まらない。

 友達と遊ぶことがこんなにも楽しいなんて。


「また連絡するから絶対遊ぼうね」

「いつでも連絡して」


 鷹野さんを優しい。全てが優しい。

 目つきも気遣いも行動も雰囲気も全てが心地良い。


 できることなら毎日一緒に遊びたい。だけど、それは叶わない。


 だから今のできる約束をする。


「また終業式で」


 ばいばいというのは寂しい。彼女は家の前まで送るよとってくれて、もっとここに居たい気持ちが大きくなる。


 帰らないといけない。

 寂しい気持ちを忘れずに拾い上げて鍵を開けた先に人影があった。


「あれ、今帰り?」


 目が合ったのは雪だった。

 何度も忘れかけそうになるけど、鷹野さんと雪の家は目の前だった。


「そう、ゆきはバイト帰り?」

「そうなんです、大変疲れましたのです」


 雪はわざとらしいリアクションでこっちを見てくる。

 何かを言いたげだったけど、何も言ってこない。

 この時間が少し気まずく、鷹野さんに助けを求めようと振り向いたら彼女は見たことないぐらい不機嫌そうな顔をしていた。

 こんな顔は知り合ってから初めて見た。


「言っておくけど、なんもねぇからな」

「まだ何も言ってないし」

「目で伝えてきてんだよ」


 2人の仲の良さに気が滅入る。

 このふたりの関係性よりも深いところには行けない。


「ななせもまたあそぼうねん」

「あ、うん」

「じゃばいばぁい」


 彼女の適当さは今に始まったことじゃないけど、今日はなんだか意味がある気がする。

 観察されたような眼差しだった。


「宮下さん大丈夫?」

「え、うん大丈夫だよ、私も帰るね」


 なんだか居心地が悪くて、早く帰りたい。

 帰りたくはないけど、この場から離れたい。


 雪に対するほんのわずかな恐怖心がある。

 今は上手く鷹野さんに笑えない気がする。


 私は早足で鷹野さんの家から離れた。

 ドアの閉まる音が聞こえなかったから、きっと鷹野さんは私が曲がり角に入るまで見送ってくれていた。



 今日のことを考えて、気づいたら既に電車に乗っていた。

 ずっと楽しかった。ずっと笑っていた。

 また遊びたい。


 昨日鷹野さんに握られた手の感触を思い出す。

 いきなりで驚いたし、距離もかなり近かった。

 最近鷹野さんのことをずっと考えていたからつい、余計なことを考えてしまっていた。

 もっと鷹野さんに手を握られたかった。


 邪な考えを早く振り離したい。


 ポケットの中でスマホが震えた。

 通知が来ていた。


 ――雪からだった。


『今度の土曜日遊ぼうよ』

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