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極相色彩のケイオスライン  作者: 路崎舞
断章『エピローグ』
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断章11話『旅行のお約束』

「お待たせしました。こちら、当店自慢の『天界パフェ』となっております」


 レティシアとイリスの意識が戻って数分後、イリスがスープの最後の一滴を飲み干したのと同時、店員さんがデザートを持ってきてくれた。


 黄色のジャムを纏ったホイップクリームに、オレンジの皮で作られた飾り、透明な器を横から見て初めて顔を覗かせるアイス、黄土色でサクサクしそうな食材の層。


「……こほん。私のおすすめです。今回の食事代は閣下が持ってくださるそうなので、遠慮せず召し上がってください!」


 つい先程までコーンスープを飲んでいたイリスが咳払いし、口を開いた。


 因みに、イリスもそうらしいが、意識を奪われていた間の記憶はない。ミネア曰く、「原因は分かったし、お願いもしたから大丈夫」とのことなので、異変は解消されたと考えて良さそうだ。


「わぁぁ綺麗だわっ!! この、サクサクしそうな食べ物は何ていうのかしら?」


「コーンフレークですね! 原材料は、さっきミネアさんが飲んだコーンスープと同じです」


「なぬ。にわかには信じられないな」


「そう仰ると思いまして、こちらで現物をご用意いたしました。こちら、当店で取り扱っておりますコーンでございます」


 フォレオスの疑問に、傍で控えていた店員がどこからかさっと取り出し、現物を見せてくれた。四角っぽくて、黄色い模様――つぶつぶ? が沢山ある。それに覆われていて、中身がどうなっているのかは分からない。


「これ、食べれるの?」


「もちろんでございます」


「そうなんだ。じゃあ、コーンは、帝国では皆食べてるの?」


「慧眼ですね。ありがたいことに、当店は幅広い階級層の方々にご愛顧いただいております。そのため、手頃な食材で貴族階級の方もお楽しみいただける極上の一品を提供することが、当店の指針でございます」


「その一環として、パフェの材料にも高級食材を一つも使用していないんですよ。それなのにどれもが閣下の舌をも唸らせる一級品なんですから、正直私も意味が分かりません」


「褒め言葉と受け取っておきます。では、『天界の庭』を心ゆくまでご堪能くださいませ」


 ゆっくりと頭を下げ、その場を離れる店員を見送り、レティシアは机に置かれた『天界パフェ』に目を落とす。


「いただきます」


 甘い香りを漂わせるパフェに、スプーンを恐る恐る進める。黄色のジャムが流れ落ちるホイップクリームを掬い、口に運び――言葉を失った。


「――イリス、これ」


「ふふっ、私のおすすめですからね! それに、レティシアさんならきっと気に入ると思いましたよ」


 美味しさを言葉にできず目で伝えると、イリスは得意な表情を浮かべてそう胸を張った。


「ん〜〜っ、美味しい!! スプーンが止まらないわっ!! ――あ、でも食べ過ぎは注意よね」


「いえ、気にせず食べ進めて大丈夫ですよ、ミネアさん――今、私達は何をしているんでしたっけ?」


「……そうよね、そうだわ。思いっきり、今を楽しまなきゃ!」


 「観光」――その免罪符を得て、ミネアが発奮し、スプーンを進める手に遠慮が無くなる。と、彼女はふと横を見て、


「フレ君、食べないの?」


「えぇ……すみません。何だか気分じゃなくて……」


「なら余が食べよう!」


「陛下!?」


 そう豪語するフォレオスが、横からひょいっとかっさらってしまった。フレディもだけど、お酒臭かった。


「うむ! 美味だな!」


 簡潔に感想を述べつつ、酔っ払い王様がもりもりと食べ進めてしまう。――その姿に、レティシアの内部で火が灯った。


「……私も」


「張り合う必要ないですからね? レティシアさん」


 スプーンを握る手に力を入れ意を決したものの、眉をひそめたイリスに咎められてしまった。


 ゆっくり味わうことにした。


「はむ」


 顔を見せたアイスを口に含む。……美味しい。なんだろう、少しネバネバ? 粘度がある。その食感がどろりと糖度の高いジャムと合っていて、手が止まらない。


 試しにオレンジもアイスと一緒に食べてみることにした。


「――ん」


 思いの外相性が良かった。


 そうして一口一口味わっていくうちに、カツンと、底に当たる感触が返ってきた。見ると、サクサクしそうなコーン何とかの層だった。


「――んむ、美味だった! ごちそうさまだ。……お、レーたんそのコーン何とやら、アイスと接している場所以外はサクサクで味もお」

「こほん! ……フォレオスさん、レティシアさんからワクワクを奪わないでください」

「そんな蛮行、余にできるわけがないだろう。余は、これから食するレーたんの不安を解消しようと……」

「陛下、『侵色』様の顔色をしっかり見てあげてください」


 フォレオスが顔を見てくる。スプーンを口に含みながら、気持ちはにかんでみた。


「む…………空回りだったか。すまなかった、レーたんよ」


「……ん。気にしなくていいよ、王様。はむ。王様の感想聞いてたら、あむ。むしろ楽しみが増えて美味しかったから」


「――レーたん。フォレオスと、そう呼んではくれないか?」


 フォレオスの謝罪にそう応じると、彼の表情が一瞬で切り替わった。会談の時と同じ、真剣な眼差しで要請する国王に、特に断る理由もないため素直に受け入れることにした。


「……フォレオス。これでいいの?」


「――ミネア、聞いたかい? レーたんが、フォルオスと、そう呼んでくれた!」

「えぇ、聞いたわフォレ君。でもイリちゃんが怖いからそろそろ自粛しましょうね」

「む……」


 押し黙るフォレオスを目に映しつつ、レティシアは最後の一口を堪能した。空っぽになった入れ物を手に持ち、


「イリス、おかわり頼める?」


「はい、それは大丈夫ですが……スイーツのお腹は幾分か残した方がいいですよ。この後も、食べ歩きますから」


「そっか。なら、ごちそうさまでした」

「……ん、さも、さも! ごちそうさまでした!」


 イリスの進言に前向きにおかわりを放棄し、黙々と食べていたサンドラと共に手を合わせた。




「ふふっ、美味しかったわね! イリちゃんはよくここで食べるのかしら?」


「はい! 私的にお邪魔させてもらっています。お財布にも比較的優しく、デザートだけでなくご飯も美味しいんです。それなりの頻度で通っています」


「そっか。だから詳しかったんだね」


 たしか、馬車の中でも『天界の庭』は話題に挙がっていた。店員さんとも息がピッタリだったし、『天界の庭』の人からは『聖女』イリスというより顔馴染みのお客さんという認識なのかもしれない。



「では、そろそろ出ましょうか」


 と、そこでイリスが席を立ち、声を掛ける。まだ、次の観光地が待っている。そのことに頬が緩むのを自覚し、隣でニコニコしているサンドラと視線を交わし、外へと歩き出した。


「ありがとうございました。また、お越しくださいませ」


 丁寧に腰を折る店員に見送られ、幸せな気持ちで『天界の庭』を後にした。



   □■□          □■□



「ふふっ、たくさん食べたわねぇ……お口とお腹が幸せだわぁ」


「同意だ、ミネア。あれほど甘くて美味しい食べ物が、この世界にあるとはな」


「……スイーツ、食べたことないんですか?」


「あぁ。娯楽に興じる余裕があるのなら、本を読んでいたからな。一分一秒が惜しい当時の余にとって、食事は生命維持の手段でしかなかった。今のように食に幸福を感じたことは、一度もない」


「なんなら、酒も初めてだったぞ」と付け加えるフォレオスの顔はご機嫌そうだったが、その一言一言が悲願達成前の王様みたいに重かった。


 ――そんな時、ぱんっと、沈みゆく空気を打ち消す音が響き、発信源であるミネアが明るい表情で、


「はいっ、暗い話はここでおしまい! フォレ君にはこれからたくさん幸せになってもらうとして、イリちゃん、目的地まであとどのくらいかしら?」


「そろそろ着きそうですよ――あ、ほら。あそこです」


 イリスの指さす先、多種多様な見た目をした人々が行き交う商店街が見えてきた。


「……本当は、観光名所も紹介したかったのですが」


「すまないな、イーたん。事情が変わってしまったのだ。なに、国交が回復すればいつでも旅行できるようになる。詳しい紹介はその時に頼めるか?」


「……そうですね。はい、任せてください!」


 意気揚々と胸を叩き、フォレオスの依頼をイリスが自信満々に引き受ける。



 ――帰国の予定を早めたのは、ナフィリンとの密談を受けてのことだ。内容は話してくれなかったが、一刻も早く王城に戻り、仕事をしなければならなくなったそう。


 ただ、とんぼ返りというのも味気ないので、せめてお土産をということで、一行は観光客向けの商店街へと足を運ぶことにした、という経緯だ。




「大切な人にひと品! 帝都お土産『シャラド印の星餅』はいかがですかー?」

「お子様にお土産を渡したいそこのあなた! 是非、当店にお寄りください!」


「ねぇ、あそこ、寄っていい?」


 「お子様」という単語に惹かれ、声が聞こえた方向に指を指す。


「うむ。いいぞ。孤児院の子供達か?」


「うん。ちょっと寄ってくる」


「あぁ。ではしばらく別行動としよう」


 フォレオスの許諾を得て、レティシアはサンドラを連れて――イリスも後から店内へ駆け込んだ。



 □ ■ □



「いらっしゃいま――お嬢ちゃんたち、三人で来たのかい?」


 店内、嗄れたおばあさんがレティシア達を出迎えてくれた。呼び込みの人とは違う人っぽかった。


「はい。子供へのお土産に自信があるとお聞きしたのですが……」


 話が複雑になるからと、そう嘘をついたイリスが本題に切り込む。しかしイリスを目に映したおばあさんの表情が驚きに満ち溢れていった。


「あ、あ、あなた様は……『純白』――いえ、『救国の聖女』様ではございませんか!?」


「…………はい。そうです。それで、お土産の方はどうなんですか?」


「はわわ……あ、これは失礼を。ぬいぐるみ、お菓子、『ネルの威光』、子供が興味を持ちそうなものは粗方揃っております。お好きなものをお見繕いくだされ」


 イリスの言葉に驚きを飲み込み、そう微笑んでくれるおばあさんに感謝しながら店内を物色する。


「持ち帰る労力を考えると、お菓子が良さそうですよね」


「――孤児院の皆には、このお菓子がよさそう」


「さも、いいとおもう、よ! おいしそう、みんな、よろこびそう!」


「ふふっ、ですね。では、こちらをお願いします」


「ええ、かしこまりました。他にご入用のものはないのかい?」


 お土産の包装の片手間、おばあさんが確認してくれる。


 一応、再度店内を見回す――と、ヴァインに良さそうな商品が目に止まった。


「あれ。あれください」


「……あれでいいのかい?」


 おばあさんの再度の確認に、レティシアは軽く頷く。


「た、確かにヴァインさんなら気に入りそうですが……」


「きの……けん?」


「木刀だよ、サンドラ。なんか帝国っぽい文字も書いてあるし、お土産にピッタリだと思うんだ。ヴァイン、喜んでくれそう」


「……お嬢ちゃんがいいなら、私はいいんだけどね。じゃ、包装しとくよ」


「うん、お願い」


 手を差し出すおばあさんに、即座に木刀を持ってきて、手渡した。


「お会計は私がしますので、お二人は他のところを見てきていいですよ」


「ありがとう、イリス」


 イリスの心遣いに甘えて、サンドラと一緒に他のところを見て回ることにした。



 □ ■ □



 最終的に、ヴァインには帝国印の木剣、ニックにはシャラド酒、孤児院の皆にはお菓子をお土産として購入してもらった。


 その際、フレディにもお菓子と『ネルの威光』を買ってあげた。王国に着いてから渡すつもりだ。

 「今度お菓子でも買ってあげよう」と思い定めていたものをようやく果たせた形だ。少しでもフレディの疲労が和らいでくれたら、喜んでくれたら嬉しい。




 そんなこんなで、楽しい時間もあっという間に過ぎ、早くも帰国の時間となった。商店街で合流したレティシア達は、モーハルラントと事前に打ち合わせしていた場所に向かった。

 道中フレディが「帝国に残っていいですか? 馬車、もう乗りたくない……」とずっと嘆いていた。

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