098.銃之支配を奪い取れ(14)
『それじゃ、AI君がどの辺りに居るかマップを』
『解析、発見』
『……案外近場で足止め食らってるのね』
この階層は危険だと、そんな報告と共にSOSを求めるメッセージがきたから、あの場所にボスみたいなのが居るのかしら?
『菜茶、SOSなんて受信していないぞ』
『AI君もプロゲーマなんだ。意地でも助けて、なんて言わないだろう?』
それでも、と。
この世界はゲームというにはやり過ぎている。
痛みも、NPCの人間らしさも、没入感が全て現実のものかと錯覚してしまう。
この没入感による感覚支配が、私の記憶に何らかの影響を及ぼしているハズなのだ。
全くけしからん話である。
「まったく、本当に第四階層まで来ちまうとはなぁ。なぁお嬢ちゃん、頼むからこの階層では無茶な道選びはやめてくれ」
ルバーに思考を遮られたが、特に何も思い出せないアレについては後回しにしよう。
「ん、流石にこの服のまま走るのは控えようかしらね?」
破けた服に視線を落とすと、つられてルバーも胸を凝視してくる。
「あっ、いやこれはそのっ!」
「何良い歳したオッサンが照れてんだよおい」
「ぬぉぉ、俺はまだ若いですね! とか、そのアフロの量が羨ましいとかだな!」
「ふん」
とりあえず鼻で笑っとくと、ガックシ肩を落として歩き出した。
「とりあえずな? この第四階層ってのは宇宙船の重力制御がされていない地区があるんだ。そこでの戦闘なんてあったら最悪。酸素も薄いし、もしエリアから1分以内に抜け出せなかったら酸欠になってあっという間にあの世のお世話になるって寸法だよ」
「ふぅん」
「ちなみに1分ってのはそのエリアで普通に呼吸しようとジッとしてての場合だかんな? 戦闘でもしてみろ、一瞬でコロッといっちまうからな! わかったな! 絶対だぞ!」
『完璧、振られてますよ菜茶」
「一分以内にあの小部屋を突破したら良いのね?」
「おいおいおいおい! 仮にお嬢ちゃんが行けたとして、俺はどうすんだよ! 行きも帰りもままらなねぇじゃねぇか」
私が指さしたのは、まさにその無重力エリア。
その小部屋の先にAI君が居るようだが、一向に動く気配が無い。
ならば確認しに行くしかない訳で。
「わかったわ、ハウル」
『了解、アレですね』
『ええ、任せるわ』
私は右目を手で覆うと、胸中で呟く。
『チェンジ、解析極』
ゴーグルデバイスからの情報をハウルデバイスが全て引き取り、次々に解析をしていく。
だがあまりにも多い情報量に出来る解析は視覚データからの計算のみ。
だが。
左目だけの視界となった今、瞳から右脳へ伝わる情報は超高速処理を実現するのだ。
よって、私とハウルの今の演算能力は……そうだな、とても凄い!
『菜茶、いちいちモード切替の度に台詞を吐いたり説明するのは何なんだ?』
『……独り言よ、悪い?』
『ッカァー!』
『あんた、口癖が変わってるわよ』
『……冗談だ。変な事を聞いてしまった、すまない菜茶』
さて、と。
「ちょっと静かにしてて」
「お、ぉぅ」
小声で応答したルバーの気配は見事に消えている。
もしも現実にこんな技術をもった人間が居ればきっと現実の現実でNo.1目指せるわね。
そんなどうでも良い事を考えながら、計算を開始する。
小部屋を覗くと、幸い敵の姿は見当たらない。
地面からは高さ5m程の場所に扉すらない入り口があり、出口を10m先の少し目線を上げた場所に確認した。ついでに、嫌なものまで見えてしまう。
『設置型無人機関銃が二個とか、バランス悪すぎない? この部屋』
『照準、100%いけるぞ菜茶』
『ええ』
部屋の丁度真ん中に鎮座する設置型無人機関銃の距離はたったの5m。
最初の私とは装備が違うのだよ装備が。
私が頷いてみせると同時に、視界に小さな〇が出現する。
それに続き左手を支えに右手で銃を構えると、目を細めた。
まるでスコープを覗くかのように、的が拡大されて見えた。
『調整、完了。後は菜茶のAIMに期待している』
『あんたのアシストが嘘ついてたらぶっ壊すからね」
『再調整、完了。空重力空間での弾道は完璧だ、だが重力の』
ポイッ、とアイテムボックスに大量に余っている鉄くずの一つを投げ込むと、一瞬でハチの巣にされ粉々になっていった。
『見えたかしら? あんな感じの重力感よ』
『……再再調整、完了。これで完璧だ』
何だか最初の〇より倍くらい円が大きくなっているけど、おおよそ私の計算とニアリーだ。
つまり。
「一撃必中ってね。排除するわ」
パシュパシュ、と一個目のターゲットを正確に打ち抜き、更に二個目のターゲットに対しては照準が合致した瞬間にトリガーを引いていた。
流石私ね。
「なっ、おいおいマジかよぉ。ッカァー! さっきの部屋もそうだが、ここも突破不可能と言われているんだぞ? それなのに、はぁ、俺、自信失くしそ」
「ほら、ごちゃごちゃ言わないであっちのドロップ拾って向こうで合流!」
「うおぁ」
襟首をつかんで斜め上にルバーを投げ込むと、私は斜め下にあるドロップを回収して向こう側まで移動した。
「あんた、いつまでそこでジタバタしてんの」
「す、すまねぇ嬢ちゃん……もう一回投げてくんね?」
無重力状態での移動がうまく出来ないルバーを再び掴み飛ばし、私たちはAIの居る部屋へと向かう。




