051.スペースユニバース(6)
結局、6枚ほど大判のステーキを焼いたところでララがまだかかる? とキッチンを覗き込んできたため、ステーキを乗せた一枚の大皿を持ちリビングへと向かった。
見ると、レイアウトが変わっており中央に四人掛けの机と椅子があり、先ほどの声の持ち主だろう二人がナイフとフォークを構え俺の姿をジッとみつめていた。
男は同い年くらいだろうか? 若い青年がオールバックで綺麗な姿勢で座っている。
顔も整っており、主役クラス並みに作り込まれているように感じる面立ち(特徴はないが整っている感じ)に主要キャラ感がぷんぷん漂ってくる。
服装もジーパンに水色のカジュアルシャツと、清楚系を着こなしている。
対して女性は金髪幼女だった。
朱い瞳を輝かせながら、床に届かない足をぶらぶらさせていた。
服装も赤色のフリルドレスと、NPCならではの服装だなと変に感心してしまった。
しかし先ほど聞こえてた喋り方からは想像がつかない容姿に、まだ別に誰か居るのではないかと周りをみるも、残るはララだけだった。
ララは白シャツにミニスカートという色々と視線に困る服装をしている。
顔も美人だし、サラサラな黒髪もさることながら透けブラに視線がくぎ付けにされかけた。
「イイ、紹介する。この人がタンタラ・タン。レベルファイブの一人で、私たちの管理人」
「初めまして、イイ君。僕がタンタラ・タンだよ、タタンって呼んでくれて構わない」
「よ、宜しくお願いします」
管理人と紹介され、思わず姿勢を正して返答してしまう。
「そしてこっちが」
「マリー・ルッシュムですわよ。マルムって呼んでよしなに」
「何、変な言葉遣いして」
「うっさいわ! 最初の五秒が大事なんやで、あほぅ!」
なるほど。見た目と中身は完全にアンマッチだこの子。
「せっかくのメッキも、一瞬ではげてもぅたわ。そんな訳で、改めて宜しくやで!」
「あ、はい」
「そしてこの人がイイ、さっきの匂いの元です」
その紹介の仕方、色々誤解をうまないかね?
「えっと、イイです、どうも」
「まぁ細かい話は後や後、気合入れて髪もお団子にしたんやからはよソレ食べようや!」
「ん、それもそうね」
「楽しみだ。さぁ、食べよう」
どうやら、このステーキの匂いにつられて訪れたらしい。
これも料理を作れば発生するイベントだったのだろうか? いや、とにかく情報のすり合わせを進めない事には何も判断できない。
判断の必要もなく、ゲームの世界だからNPCという結論で良いはずなのに、そんな真理とは裏腹に目の前のこの人たちは没入者、いや……本当に存在していると確信しかけている。
この短い期間に何度となく繰り返した自問自答にも、この後のララの話で真理を覆しこのRLをプレイする事となる。
「う、うめぇ……」
「アハハッ、タタンもそんな台詞はけるのね。でも、本当においしいわ」
「……これはアカン、アカンで、うちの知ってるステーキとは格が違うわ。神や、神がここにおるで!」
「そうひぃえば(もぐもぐ)、イイさんは侵略者なのですか? それとも国から訪れた遣いの者だったり? いや、それなら事前に話があるはずだしなぁ(もぐもぐ)」
「タタン、さっきイイの事はララからログもらったやろ? あれが全部ちゃうの? あっ、ちょっおま、何うちのステーキとろうとしてんねん!」
「満足そうな顔して、手が止まっていたじゃないですかマルム。最後の一枚は誰も食べないのなら、僕が食べても問題ないだろう?」
「アカン、アカンて! 余韻に浸ってただけでソレはうちが狙ってたんや!」
「そんな小さな体で、二枚はきついでしょうに。無理せず、僕が食べてあげるからその手をは・な・せ!」
「お・ま・え・こ・そ・は・な・せぇぇ!?」
最後に一枚にフォークを突き立て、火花を散らしながら視線と言葉が交差するそんな時。
「ねぇララ、あの二人って仲良いね」
「ん、そりゃ夫婦だからそんなものでしょう?(もぐもぐ)」
平然と二枚目を平らげているララは答える。が。
「うぇぇ、夫婦!? 幼女となんて、犯罪レベル……いや、ゲームだから実は18歳以上でしたとかいうオチでは」
「ん、レディに向かって年齢の詮索してんのか? 失礼なやっちゃ、ちな、うちは9歳や!」
「ギルティィィィ!」
「ふっ、もらった」
「ぬぁぁ! うちの、うちのステーキがぁぁ」
俺との会話に一瞬気を取られたマルムはステーキ争奪戦に敗れたらしい。
「絶対に、許さない!」
「まぁまぁ、まだ作れますから……」
殺気を感じ取り、そんなフォローをするとタタンまで食いつてくる。
「調理技術持ち、ですか。そんなロストテクノロジーを扱うとは、やはり侵略者? いや、僕はウェルカムだよ!」
「良いかいなタタン? まぁレベルファイブのあんたが良い言うなら良いんやろうけど」
「イイさんは、情報が欲しいんだよね? 僕たちについて、この世界について。そしてダンジョンについて」
ちゃっかりステーキを食べ終えたタタンは、何から話そうか悩んで見せている。
「ちょっとタタン、私達の時間にこれ以上割り込むつもり? いくらレベルファイブだからといって」
「あー、そのレベルファイブって何? レベル概念があったり、する?」
「あーもぅ、イイまで……いいわ、そこから話をしましょう」
「うち、難しいのはややから寝とくわ、ほなねぇ」
ぽんっ、と音を立て部屋の隅に小さなベッドが出現すると、んしょんしょとよじ登りすぐにくぅ、と眠りについてしまった。
「それじゃ、始めましょう」
ララの話はこうだった。
レベルファイブとは、この村の管理者を指す単語。
レベルが管理者でファイブは五名というニュアンスらしく、どうやらレベル5だから強い! とかそういう類ではなかった。
また、その管理者は男性五名で構成されているそうで、基本的にこの村の女性全ての旦那に該当する、らしい。いわゆる一夫多妻制がとられている。
村の外にある家に住む人々もいるそうだが、そこは完全に無法地帯らしく統制がとれているのは村の中だけらしい。
無法地帯というのは欲望のままに生きた結果、滅びへ向かった人類種の住む場所を指しているそうだ。
道中に居たサーサという女性も、無法地帯の住民という扱いらしい。
正常な人類はこの村に住む100名強と、国に住む僅か数千のみらしい。
願えば何でも叶い、暴走を続けていく人類は本当に滅びる寸前まで追い込まれているそうだ。
だが、話はここでは終わらない。
「第千弐百零零号艦大陸:消滅時間、で生き延びる為には時の巫女姫を助け出すか、俺達管理者が管理し続けるしかないんだ」
ん、今気になる単語が?
「あの、もう一度」
「ん? 俺達が管理しなければ」
「そこじゃねぇ! 今、何かぶっそうな大陸名が聞こえたんだが!?」
「第千弐百零零号艦大陸:消滅時間の事か? 今、この宇宙空間に幽閉されている我ら住む宇宙移住艦大陸がどうかしたかな?」
まさか、まさか……。
「まさか、宇宙船、とか言わないよね?」
「ん、わかりやすい表現するねイイは」
俺は深呼吸をすると、大きく息を吸い込み。
「確かにぃ!? VR技術はエスエフッ要素が強いってイメージあっけど、スペースオペラ要素はやりすぎだろぉぉぉぉ!?」
思わず立ち上がって想いのまま叫ぶと、ゼェゼェと肩で息をしてしまう。
急に大声を出したせいか、マルムが眠気眼に起き上がっていた。
「ん、ご飯作るの?」
縮小したログに、こっそりと二つの項目が追加で残されていた事に俺は気づかない。
『餌付けを理解しました』
『宇宙攻略を理解しました』




