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049.スペースユニバース(4)

「まずはイイの事から教えてほしいな。知ってる事全部、私生活から、何から何まで」


 これはイベント、だよな? 全部教えろって言われても何から話せばいいかスッと出てこない。


「えっと、名前はイイ、だ」

「知ってる」

「大阪生まれ」

「知らない、リード」

「ん、じゃあ日本は?」

「知らない、リード」

「あー、じゃあ地球は?」

「知らない、リード」


 なるほど。


 ここは地球とは別の場所という設定らしい。

 ちなみに、知らない時はリードと言えば話のタネを広げ、知ってる場合は狭めていくというルールを事前に打ち合わせている。


「あー、地球ってのは俺の住んでる星、で良いのかな? その中に日本って大陸があって、その一部の領域を大阪っていうんだ。そこに俺は住んでいる」

「へぇ、一人暮らしなの?」

「ん、肯定。自宅からここに没入してるんだ」

「知らない、リード」

「ん、どこに引っ掛かった?」

「没入って、何?」

「んー、VRMMOってゲームの世界に入ったら、あれよあれよと今に至った次第で」

「ゲームの世界? まぁ、アナタはその地球という星から私たちのいる場所に来たって訳ね」


 話せば話すほどNPCとの会話というよりも、本当にある別の世界の女の子と会話しているような。

 そんな気分になってくる。


 そして、一通り俺の話を続けた。

 地球がどんな場所か、食事はどんなものを食べているのか、学校とはどんな場所なのか。

 地球の人口がどんだけいるのか、技術がどんなに進んでいるのか、学生の学力はどんだけあるのか。

 そして、話はローグライフへうつる。


「それじゃ、あの時本当に消滅デスポーンしてたんだ……」

「ああ、体力はゼロになるとマイルームって場所に戻されるんだ。本来なら所持品全てをその場に落とすはずなんだけど、バグかな? そのままマイルームに持ち帰ってた」

「そのおかげで私はアレが食べれて、生き残る事が出来た訳ね。それにしても遊ぶ機械でこんな場所までくるなんて、面白い場所もあるもんね」


 俺の横で体重を預けながら、ララは続ける。


「そして、何よりも願い事が自由に適わない、そんな呪いの無い世界って凄く輝いて見えるな」


 確か強く願えば何でも叶う世界だった、か? そのペナルティとして、ダンジョンの主になる設定だったと、ララが言っていたはずだ。


「努力しても、どんなに強く願っても理不尽な程に遠い夢しか見えない俺の世界は、希望という言葉を枯らしてしまった、そんな世界だよ」

「……そうかな? 届かないからこそ、目指せるんだよ。目指したからこそ、ソレを制御して扱う事が出来るんだよ。そうじゃなきゃ、夢が何でも叶う私たちの世界は皆幸せだよね? でも、現実は制御しきれない力と秩序なき想いの交差に人類は疲弊しきっちゃってるわ。そう、努力を忘れた人類は呪われてしまったのよ」


 ギュッと手を握られると、ララは更に続ける。


「私はそんな呪いに負けないためにも、努力は惜しまない。どんなに嫌な事でも、頑張るって決めたの。だからこそ挑戦者になったし、呪いを一つでも解けるように何度だって挑むの。この命尽きるまで……はぁ、お腹すいちゃったなぁ?」

「そういえば、部屋の隅にある冷蔵庫空っぽでしたね」

「リード。普通じゃないの?」

「えっ? 冷蔵庫って食材冷やす物だよね?」

「んん? 冷蔵庫って、余った食べ物を置いとく場所だよね?」


 おーう。こんな電化製品までも設定が違いますか?


「ほら、ご飯が運ばれてくるじゃん? 余る事あるじゃん? それをこう、突っ込んどく感じ?」

「ご飯が運ばれてくるって? デリバリー?」

「頼んで見た方が早いか、見てて」


 ピンアウトさせると、俺には見えないコンソール操作をしてみせるララ。

 僅か五秒も足らずに操作を終えてしまうと、ニッコリと微笑んで見せる。


「基本朝、昼、晩に一人一回注文出来るんだけどね、これは今日の昼食分。勿論一人分しかないから、イイは追加で何か作ってね?」


 そういうがはやし、壁の一部がウォンと音を立て切り開くとトレイにのった昼食が出てくる。

 パンにビーフシチュー、それに牛乳だ。

 完全に学校の給食のノリである。


「これが私たちの食事よ。数十年先まで献立は決まっているから、絶対に食べたい物がある日はダンジョンに行くのを控える程ね。まぁ私の話は後にしましょう、あっ、好きな食べ物はイイの作ってくれた食べ物よ!」


 口の端に涎を輝かせながら言われると、本気であのウサギ肉がお気に召したようだ。

 ちゃんと調理してあげたくなる、何だこの気持ちは!?


「わかったよ、キッチン借りるよ」

「やったー、続きは食事の後ね!」


 キッチンで俺はここの技術力は地球と比べちゃダメだなぁ、とか、ゲームとか妄想上だと何でもありだなぁと思い知らされる。

 温度調節できるフライパンや無限に補給できる調味料やら、めちゃくちゃハイテクシステムキッチンで俺はウサギ肉を黙々と焼いていった。

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