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前編

短編の予定が長くなったので、前後編にわけました。

お祭り・・・

夏祭り・・・


夏祭りといったら浴衣よね!

これで課長を悩殺して襲ってもらいなさ~い!


・・・ってさ~、言われたけど、酷いと思わない?

私の気持ちは無視なんだもの。


今の私はうちの課の女性社員に連れられて行った呉服屋で、浴衣に着替えさせられたのよ。


それで、暫定彼氏?である桐谷尋昇(きりたにひろと)課長とお祭りの会場そばの駅前で待ち合わせ・・・の前に、久し振りに大学の時の友人と会っているのね。


えー、なんで暫定彼氏なのか説明しますと、春に起こった私が住んでいたマンションでの水漏れ事故のことを話さないといけないですね。


・・・あれは4月になってそれほど経たない時のことじゃった。その日は朝から踏んだり蹴ったりなことが起きておってのう。私は少しブルーな気分だったのじゃ。そうしたら、とどめとばかりにマンションの管理人からの電話で、わしの部屋から水漏れがしていると言われてしもうたのじゃ。急いでマンションに戻り見たものは、部屋の中に雨が降り、壁を滝の様に流れる水じゃった。呆然自失をしたわしらを桐谷課長が引き戻してくれてのう~。住むところに困ったわしを空き部屋があるからと、課長のマンションに連れて行ってくれたのじゃった~・・・。


と、昔話口調で言ってみたけど、まあ、そういう訳で私は課長の部屋にお世話になることになったのよ。


それで・・・何故か課長に狙われていたらしいのよね、私。お世話になって2日目の夜。課長にキスされて、ずっと私の事を思っていたと言われて襲われました・・・。


そして、課長の気持ちに会社の皆は気がついていたとかで、同居が始まって最初の週末を過ごして出社したら、昼休みに女子社員に取り囲まれましたよ~。


聞かれるままに何があったのか話したら・・・皆に罵倒されたのよ。これも酷いわよね。


だってさ、キスはされたけど、何もなかったのよ。それを素直に話しただけじゃない。それなのに「課長、可哀そう~」ってなに?


そりゃあさあ~、私も悪いかもしれないけどさぁ~、だからっていきなり押し倒されたって困るのよ。


何と言っても恋愛初心者なのよ、私は! 

キスだけでもいっぱいいっぱいなのに、それ以上は無理! 

気がついたら意識を手放して、気絶しちゃっただけなんだから。


と、いうわけで会社では公認カップルとなったのだけど、どうしたって私の意識がそうならないのよ。


桐谷課長は爽やかで素敵な人だとは思うのよ。でもね、そんな人が私の事を好きだなんておかしいでしょ。きっと気の迷いだと思うのよね。


だから、暫定彼氏というわけなの。


でもなぁ~、優しいのよね。一緒に暮らすようことになった時に、私用の食器を買ったのよ。その時に前々から好きだった『ツイン(キャット)』シリーズの新作を見つけたの。

それは湯呑で夫婦茶碗ならぬ、夫婦湯呑になっていたのよ。片方だけでも可愛いけど、やはり二つ揃ってこそなのよ。


このシリーズは隠れた仕掛けがたくさんあるのよ。湯呑みたいに向きを揃えればキスしているように見えるとか、箸の場合は並べると二匹が毛糸玉で遊んでいるのが判ったり、お皿なんて、大中小揃えると、二匹の日常が判るようになっているとか・・・。茶碗も仕掛けがあるらしいのだけど、いつも売り切れでどういう絵柄か知らないのよ。


そんなだから自分用に一つだけ買うのはしのびなくて、買うことを諦めたのよね。そうしたら課長ってばこっそり買ってきてくれて、その湯呑にお茶を入れてくれたりしちゃったのよ~。


あー、思い出すだけでも腹が立つ~!


えっ? 何故かって?


だってさ、その湯呑と軽いキスだけなら、私もコロリといったと思うのよ。それが人を呼吸困難にさせられたのよ~!


目が覚めた翌朝になんて言われたと思う?


「免疫なさすぎ!」


よ! 

どこがよ! 

いきなりがっつかないで欲しいわよ!


というかさぁ~、私はもう少し雰囲気を楽しみたいというかさ~。ゆっくりデートしたりしたいのに~。


油断するとすぐ押し倒してくるのよ! ムードもへったくれもないじゃない!


そうしたら、鈍い私が悪いみたいに言われたのよ。なんか、散々アプローチをしてきたとかさぁ~。


でもね、よ~く考えて欲しいの。私が新入社員として入った時の、課長の態度が酷かったのよ。『女は皆自分に惚れている』みたいに思っていたみたいで、私は仕事のことで話し掛けているだけなのに、かなりつっけんどんな態度だったのよ。


それが2年目に課長の補佐(人事課長に桐谷に興味がない君みたいな子が丁度いいと言われました)になって、最初はつっけんどんな態度だったのに、仕事のしやすさからか態度が軟化したのよ。


それだけならまだ良かったのだけど、打ち上げの飲み会のあと、二次会と称して連れていかれたバーで「もしかして萱間は俺に興味ないの?」と聞かれたから、満面の笑顔で「はい!」と答えたあとから、急に私の事を構いだすんだもの。


これは『自分に惚れない女がいるのは許せない』という嫌がらせだととっても仕方がないよね。ねっ? そう思うよね。


だからこの2年課長の口説き文句もどきはスルーするか、話半分にしか聞いていなかったの。

これを悪いって言うのなら、目の前に出てきやがれ~!



「はいはい。萌音の気持ちはわかっているからさ~。そろそろ気持ちを落ち着けなさいよ」


喫茶店で待ち合わせをした、大学の時からの悪友である綾瀬智絵(あやせちえ)が、向かい側から手を伸ばして私の手をポンポンと叩いてきた。


私は(萱間萌音(かやまもね)といいます)といえば、一気に話して言いたいことを言えたから、少しすっきりして頼んでいたアイスティーのグラスを持って、ストローで一口飲んだ。


「はあ~、ほんっとうに、智絵に会いたかったよ~」

「それは私も同じよ。会えなかったのって、そろそろ4カ月かしら」

「違う。もう、5カ月目に入った。正確には4カ月と8日よ」

「相変わらず変なところ几帳面よね」


そう言って智絵が笑ってくれて、その笑顔に安心をした。


「ところで、メールに書いてあった内容だけど、その課長との生活は萌音を駄目にするのね」

「そうなのよ。だってさー、課長がいる時はなんにもやらせて貰えないのよ」


私はむくれた顔で智絵に言った。


「周りはさ、『何でもやってくれるなんて、流石課長』なんていうけどさ、お互い働いているわけじゃない。まして私は課長の補佐についているのよ。仕事の大変さはわかっているのに。たまに私が先に帰れる時があったりして夕食を用意するとさ、すっごく喜んでくれたのよ。そうしたらまた作って食べてもらいたいって思うじゃない。なのに、それをさせてくれないのよ。これが、好意からだって分かっているから黙っているけどさ、いい加減にして欲しいわよ!」


アイスコーヒーを私と同じようにストローで飲んだ智絵は、また笑顔になった。


「で、他には? なんかないの」

「そうねえ・・・あっ、これ!」

「ん? これって?」

「だから、今日智絵と会えたことよ。いくらさ、一緒に暮らしているからって、なんで土日も一緒にいなきゃならないのよ。誰かと出掛ける約束をすれば、『相手は誰で、どんなやつだ』って煩くて。終いには男と会うんじゃないかって言いだすのよ。そうしたらうかつに出掛けられないじゃない。だから智絵に会うのも我慢したのよ」


智絵は眉根を寄せて考えた。


「それって、見方によってはソフト軟禁よね」

「智絵もそう思う」

「思うわよ。萌音はそいつの所有物じゃないんだから」


流石、智絵。解ってる~。


「他にはないの」

「う~ん。・・・ないかな?」

「何で疑問形なのよ」


智絵がまた笑いながら言ってきた。うん。こんな会話に餓えていたんだな~、私は。


「ところで、萌音はその課長の事どう思っているの」


智絵の言葉に少し身構えてしまった。聞かれるだろうとは思っていたのよね。


「えーと・・・」


言い淀んだ私に智絵は苦笑を浮かべた。


「好きか嫌いかといったらどっち?」

「・・・嫌いではない・・・かな」


私の返答に困った子を見るように智絵が笑う。


「萌音。本当は好きなんでしょう」


素直に頷けなくて、私は膝の上に置いた手をギュッと握った。


「萌音の天邪鬼が発動しているということは、相手が何か気に食わないことをしているか、肝心なことを言われてないのね」


流石親友。よ~くわかってらっしゃる。

なのでコクンと頷いた。


「そうなのよ。桐谷課長ってば肝心なことを言ってくれないのよ」

「肝心なことって・・・プロポーズの言葉?」


外堀をかなり埋められていることは、メールで伝えてあるから、智絵は察したのだろう。


「まあ、それもあるけど」

「それもってことは、愛してるって言われたことが無いとか?」

「うん。それも!」

「え~? じゃあ、まさかと思うけど、付き合ってくださいも無しなの?」

「そうだねぇ~、なかったねぇ~」


あー、思い出しても腹が立つ~。


智絵が思いっ切り顔をしかめている。なんか額に青筋が立ってきている気がするのは、気のせいじゃないよね。


「な~にしてくれてんのよ、そいつは! 萌音と私の中を引き裂くだけじゃなくて、誘拐、軟禁の束縛男か!」


智絵が少し大きな声をだした。向こう3つまでのテーブルに座る人達が、私達のことを見てきた。


「智絵、智絵。落ち着いてよ。一応、誘拐はされてないから。ね」

「・・・軟禁の束縛は認めるんだ」


うん。その通りだと思うもの。否定をする気にはなれないわね。智絵はグラスを掴むと残りのアイスコーヒーを一気に飲んだ。


「萌音。今すぐ荷物を纏めよう。そして家にくればいいから」


そう言って伝票を掴むとレジへと歩いて行った。


「待って、智絵。そこまでしてくれなくていいから」


私は智絵を追いかけて喫茶店を後にしたのだった。



俺は俯いて固まっていた。先ほどから聞こえてきた言葉に打ちのめされていたのだ。


「これで解ったかな~。あなたがしていたことは独りよがりの一人相撲だったってことが」


目の前に座った男が長い前髪の隙間から、睨むように俺の事を見つめている。

認めたくないが、あれが萌音の本心だとしたら、俺はこの4カ月萌音の自由を奪っていたことになる。


それに告白さえしていなかったとは・・・。


頭を抱えて唸る俺に男が声を掛けてきた。


「あのさ、もう少し危機意識持ってくれないかな。智絵が本気を出したら、あなたは萌音と会えなくなりますよ」

「・・・どういうことだ」


俺は顔を上げて男のことを睨みつける。


「さっき言っていたでしょう。萌音の荷物をすべて運び出して、会社も辞めさせて萌音を安全な場所に隠すんですよ。智絵なら本気でやりかねないですからね」

「あんたはどっちの味方なんだ」

「勿論萌音に決まっているじゃないか。だけど、萌音の本音は解っているからこうして協力してあげているんだよ。あと、智絵に本気を出されたら、俺の事を放って萌音のことを構い倒すに決まってるからさ。それじゃあ、俺が面白くない。一応あなたは萌音の両親に暫定的に認められているから、智絵も萌音からSOSが来るまで放っておいたんだよ」


またまた衝撃の事実を言われてしまった。萌音の両親に俺は完全に認められてなかっただなんて。なのに、もっと別のことが気になるとは。


「あんたは萌音のなんだよ」

「俺? 萌音の親戚のお兄さんだよ。ついでに大学のサークルの先輩でもあるかな」

「だからって、名前を呼び捨てか」

「おいおい。名前くらいで嫉妬すんな。俺より年上のくせに余裕ないんだな」

「うるせーよ」


ムッとしてそう言ったら男は鼻で笑いやがった。


「そんなあなたにいいもんをやろう」


そう言って男は紙袋を取り出して俺の方に寄こした。受け取って中身を見た俺は、また固まった。なんでこんなものをこの男が持っていたのだろう。


「これを使って、今度こそ萌音にちゃんとした告白をするんだな。今更言えないとか言うなよ。それが出来なきゃ、女の気持ちがわからない最低鬼畜野郎と、そちらの会社に噂を流させてもらうからな。勿論萌音とはもう一生会えないからね」


そう言うと男は立ち上がったから、俺も同じように立ち上がった。


「あと、萌音って着物が好きなんだよ。特に男の着物姿が好きでさ。正月なんて家族どころか親族も着物を着て集まるから、萌音は毎回興奮して大喜びしているんだよ」


着物フェチ・・・俺は着物は成人式の時しか着てないぞ。


「それも、若い俺らの着物姿はそっちのけで、爺さんやおじさん達の写真を撮りまくってさ。最初は枯れ専かと思ったぜ」


・・・着物を着て大人の色気なんか出せる気がしないのだが。


「まあ、萌音も浴衣を着たことだし、あなたも浴衣を着て萌音に意識させようぜ」


ニヤリと笑う男の一歩後を俺はついて歩いたのだった。



いきなり女主人公の愚痴だらけですみません。

今回のもとが、童話などで『王子様と結婚して幸せに暮らしました~』ってさ、絶対何か起きるよね。そう簡単に行くわけないじゃん。

から、春企画の続編をを思いつきました。

ひねくれ舞花全開でお送りしました~。

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