裏道の少年
遠くから賑やかな音が聞こえる。雨の夜、荒れた波に船体は大きく揺られていた。潮の香りの中に、少しずつ都会の匂いが混ざってくる。
ボーーーー
大きな汽笛の音で少年は目を覚ます。バラ積み貨物船の積荷の隙間から少年は這い出る。雨と波によって滑りやすくなっているため、少年は慎重に動く。少年がゆっくり体を起こし顔を上げると、積荷の隙間からきらびやかな光が覗き込んでくる。真っ暗な空を照らす、明るい建物群。観覧車。遠くから聞こえる、眩しい音。少年は初めて、眠らない街の、光や音で包まれた夜を見た。
東京の夜は眩しく、キラキラ輝いていた。
広島の田舎から家出するように上京してきた少年からしてみれば、目の前に広がる光景はとても魅力的で幻想的なものだった。
船が港に到着した。降ろされていく荷物に紛れて少年は二日ぶりに地上に足をつけた。
その後、光に導かれるようにして、少年は行き先もわからぬまま夜の東京を彷徨い歩いた。一時間、二時間、三時間。あまりにも長い時間を少年は歩き続けた。二日間を船の上で飲まず食わずで過ごした少年には、もうほとんど体力が残されていなかった。残された力を全て使いはたして、少年は裏路地で倒れるように眠りについた。
雨はさらに強まるばかりだった。少年の体は少しずつ温度を失っていく。息をするたび肩が大きく動き、吐息はだんだんと弱くなる。
ーNo.1 低体温症. ー
外的要因により体温が下がっていき、放置すると心機能や呼吸機能の低下を招き、重症化すると命に関わる状態。
少年の体温は、少しずつその境界へと近づいていった。
キィーーーーーッ
自転車が裏路地の前で自転車が急ブレーキをかける。雨ガッパを着た男が自転車を降りる。
ピシャ、、ピシャ、、
水を踏みつけ、音を立てながら少年に近づいてくる。男は少年の脈を測ろうとする。男は驚いた。少年の体温の低さに。脈はかろうじてあるが弱い。
「かなり危ねえな」
男は自分の着ていたカッパを少年に着せた。雑に、だが丁寧に男は少年を担ぎ上げ自転車に跨った。
そのまま、自転車を漕ぎ男は雨と少しの光で構成された夜の中へ消えていった。




