第26話 適性試験その2
それからまたしばらく待たされた。ファティマがカーテンの奥へ進んで十分くらいは経ったろうか。その間に、エンリケはテリーを訓練場の外へ運んだ。
「テリーは最近訓練をさぼっていてな。弱すぎて参考にならん」
テリーを運びながらエンリケは言った。だからより強力な魔物を利用して俺の実力をはかるのか。本人は気絶しているだろうが、聞こえていたらマスター相手でもぶちぎれるだろうな。
「なんか……嫌な予感がする……」
「別に試験を受けるのは俺だ。お前が緊張する必要ないだろ」
「そうだけど……なんというか、こんな事態は初めてで……」
まぁ当然か。百年前のメンバーカードだもんな、いろいろ不足な事態が起きる。さっきもファティマがエンリケに指示されたとき、顔色が悪かった。もしかしたら相当な強敵が出るのか。
「おい、いつまで待たせるんだ?」
「もう少しで終わるはずだ……お? 来たか」
ちょうどその時ファティマが戻って来た。でも様子が変だ。小走りでエンリケのそばに寄った。息を切らしている。
「はぁ、はぁ……なんとか……解放できました……」
「ご苦労だった。ゴーイチ、待たせ……」
ドォオオオオオン!!
突然大きな轟音が鳴り響いて、訓練場内が大きく揺れ動いた。
「な、なに……今の音は!?」
「マスター。アレの準備、大丈夫です」
「アレってなんだ? シモーヌ、知ってるか?」
「私も知らない。でも、かなりヤバい感じ」
再び地鳴りが響く。さっきよりもデカい。何か大きくヤバい奴がどんどん近づいてきている。
「言っておくが、これから戦う相手はまだ誰も倒したことない強敵だ。心の準備はいいな?」
誰も倒したことない強敵とはね。たかが適性試験にそんなヤバい奴を出すことないだろうに。
「念のため聞くが、今度こそ倒せば終了でいいんだな?」
「あぁ、そうだ。倒せばお前の合格、試験も終了だ」
「よし……いつでもいいぞ」
ドシン、ドシン、ドシンという大きな足音ともに何かが近づいている。そしてカーテンが吹っ飛んで、そいつが姿を現した。
「ぎぎゃあああああああああ!!」
俺達の目の前に、高さ十メートルは下らない、巨大な竜の化け物が現れる。
竜というか、こいつはどっちかというと恐竜だな。恐竜の中でも、もっとも有名なティラノサウルスに見た目は近い。
「嘘でしょ!? Aランク魔物でも超やばい奴じゃない!? マスター、あなた正気なの!?」
「安心しろ。さっきも言ったがこいつは疑似魔物でな。死にはしないし、そこまで強くはないはず……」
「そういう問題じゃなくて、これは適性試験でしょうが! あんな強敵出さなくても」
「シモーヌ、普通の魔物じゃ駄目だ。ゴーイチの場合はな」
「そ、そんな……どういう理屈よ?」
「要するに、俺は新人じゃないから、ハンデを背負っているということだろ?」
「そう思ってもらって構わん」
「……ゴーイチ」
「おいおい、彼の強さを疑うのか? お前が一番よく知ってるんだろ?」
シモーヌは不安そうな目で俺を見た。今になって思い出したが、俺はこいつと二十年前にも戦ったことがある。あれは確か火山地帯だったが、偶然こいつを起こして戦うことになったっけ。
あの時の俺からしたら強敵だった。倒せたけど、かなり苦戦した。でもあの時の俺とは違う。
「大丈夫だ。あっさり倒してやるよ」
「ごわああああああああ!!」
「マスター、これ以上は抑えられません!」
「ファティマ、そうかすまん! ゴーイチ、準備はいいな!?」
「あぁ、いつでもいいさ!」
「断っておくが、さっきのような小細工が通用する相手じゃないぞ」
エンリケは一応忠告した。確かにあの魔物に護身術はきかないだろうな。となると、この棍棒の出番か。
恐らく何らかの仕掛けであの魔物の動きを封じていたんだろうが、血走ったフレイムザウルスは今にも暴れ出しそうな雰囲気だ。
やはり相手が相手なだけにファティマも辛そうだな。これは速攻で倒す必要がある。
「来るわ!」
シモーヌが大声で呼びかけた。フレイムザウルスの口が大きく開いて、何やら大きな赤い球体が形成された。
「火炎球!?」
巨大な火の玉が口から発射され俺に向かってきた。
「ゴーイチ、避け……」
バァアアアアアアアン!!
大爆発が起きた。またしても一瞬で終わったな。さっきまで俺を見下ろしていたフレイムザウルスは、いつの間にか跡形もなく消えていた。
「これは……!?」
「おい、倒したぞ。これでいいんだな?」
「な、なにが……起きたの?」
「なにって……〈フルスイング〉で奴の火炎球を弾き返したのさ」
「はじき返した? それって、鎧の魔物を倒した時と同じように?」
「そうさ。サイズがデカいから当てやすい」
もちろんはじき返したのは、俺のミスリル製の棍棒だ。
火炎球を棍棒の芯に当てる。だいたい球速は150kmくらいだったかな、そんな速度なんて俺にとっては止まって見える。芯に当てるのは造作もないことだ。
火炎球は魔法で火炎の球体を形成し、相手にぶつける攻撃魔法の一種だ。破壊力は抜群だ、しかし球体を相手に投げてぶつけるなんて攻撃は俺のバットの餌食になるだけだ。
「……フレイムザウルスの火炎球まではじき返すなんて……あなたの〈フルスイング〉ってなんでもありね」
「おほめの言葉ありがとう。それよりマスター、試験は?」
エンリケが拍手をしながら俺に近づいて来た。
「見事だ。いやぁ……あっぱれだ。まさか倒してしまうとは」
「鎧の魔物よりは弱いぞ」
「そ、そうか……しかし、驚いたな。今の今まで、奴の火炎球を弾き返しすだなんて芸当をした奴は、見たこともない」
エンリケがかなり唖然とした様子で俺を見ている。さすがの予想外だったのか。そして俺に詰め寄って肩を叩いた。
「……正直、こいつについては一撃でもダメージを与えられれば、それで合格にするつもりだったのさ」
「それを早く言ってくれよ。もしかしてまずかったのか?」
「安心しろ。もちろん合格だよ」
「おい! なんだ今の音は!?」
変な男達の大声が響き渡った。振り向いたら、ドアを開けて数名の男達がなだれ込んできた。
「マスター! さっき爆発音が聞こえたんですけど、一体何が起きたんです!?」
「おい! あれを見ろ!」
ギルドにいた冒険者達だ。広間の中央の床に散らばったフレイムザウルスの肉片を指差した。
「ありゃあ、一体何なんですか!?」
「……気づかれたか。まいったな」
「あの爆発じゃ気づかない方がおかしいわよ。諦めなさい」
シモーヌが冷ややかな目を向けながら言った。試験には合格できたが、俺は早くもギルドで注目の的となった。
二度目の異世界生活、目立たないように暮らすのがこんなに難しいなんてな。
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