第25話 適性試験その1
試験会場の中央部に来た。中央に白いラインが引かれている。俺とテリーはラインを挟んで対面した。
懐かしいな。二十年前もここで適性試験と称して先輩戦士と模擬戦闘を行った。まさか二十年ぶりに同じことをやるとは思わなかった。
「ルールを簡単に説明するぞ。制限時間は五分、その間に一度でも相手をダウンさせた方が勝ちだ。ただし……」
審判となったエンリケが俺の顔を睨んだ。
「五分以内にどっちもダウンしなかった場合は、ゴーイチの負けとみなす」
「俺の負け? 引き分けじゃないのか?」
「あのね、ゴーイチ。これは適性試験なの。試合としては引き分けでも、試験結果としては不合格なのよ」
「そういうこと。つまり合格したければ、絶対に俺をダウンさせることが条件だ!」
「……そうだったな」
思い出した。そんな変てこなルールだったな。
とにかくダウンさせれば勝ちなんだな。よし、現役時代に磨いた例の護身術をここで試すか。
「二人とも準備はいいか?」
「いつでもいいぜ!」
「俺もオーケーだ」
「よし……では始め!」
エンリケが試合開始の笛を吹いた。それから一秒も経たないうちに試験は終わった。
「……え?」
「これでいいんだろ? 俺の勝ちだな」
「……が……はぁっ……」
かろうじて息はしているな。やっぱり所詮はランクBか、俺の敵じゃない。
テリーはあっけなく地面に倒れ込んだ。白目をむいて失神している。
スキル〈瞬足〉で目にもとまらぬ素早さでテリーの背後に回り込み、スキル〈神経突き〉で人差し指を背中に押し当てる。俺がやったのはこれだけだ。
格闘は苦手な俺だけど、対人戦ではこの方法が役に立つ。俺がプロ野球の現役時代に磨いた護身術だ。
野球を極めて暇だった俺は、シーズンオフで道場通いもしていた。そこで護身術を学んだ際にこのスキルを身に着けた。どんなに屈強な男が相手でも〈神経突き〉のスキルで背骨あたりを突けば、あっという間に気絶させられる。
もちろん普通に格闘しても勝てる自信はある。だけど手加減が下手な俺は、相手に大けがを負わせかねない。だからこそ、〈神経突き〉で無理なく相手を失神できる。
それにしてもあれだけ大言吐いてたくせに、こんなあっさり終わるとは。多分思っていた以上に強くなかったんだろ。
「信じられない! あのテリーを一瞬で……何をやったの?」
「〈神経突き〉とは、なかなかやるな」
エンリケは俺の動きが見えていたのか。もしかしたら、相当腕が立つかもしれないな。
「〈神経突き〉って、忍びのスキルでしょ。狩人じゃなかったの?」
「……狩人のかたわら、忍びの修行もしていた、とだけ言っておこう」
護身術はこの世界では忍びという職業が得意としている。暗殺や盗み、隠密行動を生業とする職業だ。元メジャーリーガーの俺には確かに不釣り合いだ。
「凄い! やっぱゴーイチ、あなたは想像以上……!」
「よし! これでまず前哨戦終了!」
「は? 前哨戦?」
エンリケから意味不明な言葉が出てきた。
「ちょっと待て、前哨戦ってどういことだ? テリーを倒して合格、これで終了じゃないのか?」
「さっきも言っただろ? テリーとは違う相手をすすめるはずだった、と」
「違う相手? じゃあ、そいつはどこにいるんだ?」
「あそこにカーテンがかかっているのがわかるだろ?」
エンリケが指差したのは、俺達が入って来た側と反対側の壁にかかっている大きな赤いカーテンだ。
天井からぶら下がっている。長さはゆうに十メートルはくだらない。エンリケが言うには、あの赤いカーテンの向こうに次の対戦相手がいるようだ。
「ファティマ、準備を」
「はい。でも……本当にいいんですか?」
「いいんだ。何かあったら、俺が責任を取るから」
ファティマがしぶしぶ了承して、カーテンの奥へ進んだ。
「ちなみに言っておくが……次の対戦相手は人間じゃない」
「人間じゃない?」
「もしかして、疑似魔物ですか?」
シモーヌの問いにエンリケが黙って頷いた。シモーヌが言うには、この訓練場はもっぱら戦士達の模擬戦闘訓練場としても使われる。その模擬戦闘の相手として利用されるのが、特殊な魔法で生成された疑似魔物ということだ。
「疑似魔物と言っても油断しないで。強さは本物とほぼ変わらないわ」
「しばらくここで待機してくれ。準備に時間がかかる」
「準備って……だいたいなんで俺の対戦相手が魔物になるんだ?」
「お前の場合は例外なんだ」
「例外?」
エンリケは不敵な笑みを浮かべた。
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